東京・下町の浅草橋駅から秋葉原駅に向かって歩くと、ターコイズブルーの大きな看板が目に飛び込んでくる。「Ever Golf Studio(エバーゴルフスタジオ)」と書かれ、その下には「Sayuri Takashima」の文字も。ドラコン競技やメディアで活躍する29歳の女子プロゴルファーの高島早百合のゴルフレッスンスタジオである。
■ツアーを断念してゴルフスタジオを開設
スタジオを覗いてみると2打席あり、最新の解析機器を完備。そこで高島がマンツーマンでレッスンを行っている。若いプロゴルファーがスタジオやスクールに所属してレッスン活動をすることは珍しくはないが、「自分で何かやりたいと思っていたんです」と自身が代表となって今年1月にスタジオをオープンした。
もともとはレッスン活動がメインではなかった。1992年生まれの高島は、青木瀬令奈や成田美寿々、葭葉ルミらと同じ年で、東浩子を団長とする“最強アズマ軍団”の世代。2011年のプロテストに合格し、身長173センチと恵まれた体格から放たれる250ヤード以上の飛距離が持ち味と、潜在能力の高さはピカイチ。
しかし、ツアーでは12年の「日医工女子オープン」の20位タイが最高と思うような結果が残せない日々が続いた。ここ数年は、ドラコン競技に出場して最長飛距離365ヤードをマークするなど“日本一”の称号を得たり、アマチュアへのレッスンを中心に活動してきた。
■ゴルフの楽しさを伝えることにやりがいを感じる
転機は昨年だ。6月に会社を興し、ドラコン競技のイベントを自身で主催。「準備は大変でしたが、参加したお客さまからの『楽しい』、『新しい気づきがあった』という声を聞いて、やりがいを感じました」。12歳でゴルフを始め、ツアープロとして活躍することを夢見ていたが試合から離れることが増えた今、イベントやレッスンを通してアマチュアに“ゴルフの楽しさ”を伝えることにやりがいを見出した。昨年秋から“自分の城”の準備を進め、女子プロゴルファーとしてのセカンドキャリアを始めたのである。
アマチュアにゴルフの楽しさを伝えるだけでなく、将来的には女子プロのサポートも視野に入れている。「ゴルフって成績を出し続けるのは、すごくしんどいスポーツだと思うんです」。世代交代が激しく、シード選手でも5年続けばいいといわれる女子ツアー。活躍できるのは一握り。また競争だけでなく「ありがたいことに周りの人たちがすごく応援してくれます。みんな家族なぐらい心配してくれるのですが、それが徐々にプレッシャーになるのです」。結果が出なければ温かい応援も苦しく感じるという。「そういう中で戦っている選手はすごいと思います。けっこう精神的につらい人も多いと思います」。稼げなくなったらどうしよう。試合に出られなくなったらどうしよう。「結果が出なくなってきたら、みんな不安でいっぱいなはず。だから焦っちゃうし、結果を求めてぐしゃぐしゃになりがちです」。自身の経験も踏まえて女子ツアーで活躍する難しさ、厳しさを吐露する。
「焦りからの悪循環は私もいっぱい経験しました。今ならいいアドバイスもできると思います。それに成績を出すことはもちろん大事だけど、選手生活を終えた後も大事。そこにつながる体制だったり、気持ちの作り方とか充実させられると思うんです」。選手のスイングを見るコーチではなく、不調に陥ったときの気持ちの作り方やセカンドキャリアを含めたサポート役を考えている。
■スイングも、クラブも学んで頼れる指導者になった
ジュニア時代は「感覚」でボールを打ってきた。レッスン活動にあたり自分の考えを理論化したり、スイングの研究を重ねた。また、「スイングとクラブが合っていないといいショットは打てない」とクラブへの造詣も深めている。「今の自分の考えがあれば、ツアーでの成績も変わったかもしれませんね」と頼もしい指導者に成長した。
レッスンのモットーは「お客さまが納得できるまで全部説明する」と現象を理解してもらう。受講するアマチュアは親しみを込めて“高島先生”と呼び、「熱血指導で分かりやすいです」と自身のスイングの変化を喜ぶ。その喜びが高島のやりがいである。ツアープロからゴルフの楽しさを伝える“伝道師”への転身。高島のセカンドキャリアは始まったばかりだ。(取材/文・小高拓)
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