【不動産投資と税】減価償却は土地と建物の割合によって変わる
5,000万円の不動産投資物件、どの物件も減価償却費は同じ?
2つの不動産があって、どちらも同じ不動産価格だったとします。しかし「物件価格が同じ不動産」があったとしても、土地と建物の価格の割合に違いがあると、「ベースとなる建物価格」が変わるため、経費に計上できる「減価償却費」は大きく変わります。つまり納税額に影響します。
なお、経費を出すときには、「土地と建物の価格比」を把握しているだけでは不十分です。建物を経費として計上するルールを理解するためには、まず「減価償却」を理解する必要があります。「建物の構造や築年数」に応じて、計上できる年数は限られてきます。
減価償却について詳しくは、下記の記事で解説していますのでご覧ください。建物を「躯体と設備」2つの費用に分けた場合の減価償却シミュレーションもしています。
5,000万円の不動産投資物件、減価償却の比較
それでは、次の「物件価格が同じ不動産」が、土地と建物の価格比率の違いによって、どのくらい経費に差が出るのかを見ていきます。
物件価格5,000万円、築15年の中古マンション。2021年1月に購入
差が出やすくなるよう、不動産価格の内訳が大きく異なるパターンで比較します。
【比較パターン】
土地価格と建物価格の割合が「9:1」 土地価格と建物価格の割合が「1:9」 パターン2の割合、さらに建物価格を「躯体と設備」2つの費用に分ける1. 土地価格と建物価格が9:1の場合
まず、土地価格の割合が多いパターンを見ていきます。
物件価格 50,000,000円 土地価格 45,000,000円 建物価格(税込) 5,000,000円 土地割合 90% 築年数 15年 償却年数 35年 減価償却費 145,000円 償却月 12カ月(1月から事業開始)※金額の端数を調整しています(以下同様)
【減価償却費の割り出し方】
マンションの法定耐用年数は47年で、このマンションの築年数は15年です。
法定耐用年数を一部経過した物件の耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2
(47年-15年)+15年×0.2=35.2年
耐用年数(償却年数)は35年となります(小数点は切り捨て)。「減価償却資産の償却率表」から、償却率は「0.029」となります。
5,000,000円×0.029×12カ月/12=145,000円
※1月に事業開始のため、事業に供された月数は12カ月
土地価格と建物価格が9:1の場合、上記の計算から、減価償却費は145,000円となります。
2. 土地価格と建物価格が1:9の場合
次は、建物価格の割合が多いパターンを見ていきます。
物件価格 50,000,000円 土地価格 5,000,000円 建物価格(税込) 45,000,000円 土地割合 10% 築年数 15年 償却年数 35年 減価償却費 1,305,000円 償却月 12カ月(1月から事業開始)【減価償却費の割り出し方】
耐用年数(償却年数)は35年、償却率は「0.029」です。
45,000,000円×0.029×12カ月/12=1,305,000円
土地価格と建物価格が1:9の場合、減価償却費は1,305,000円となります。
パターン1(土地価格と建物価格が9:1)の145,000円に比べて、パターン2(土地価格と建物価格が1:9)は100万円以上異なる費用を計上することになります。
1と2の比較から、同じ金額の不動産でも、建物割合が多い方が減価償却費が多くなることがわかります。減価償却費が多くなり経費が増えると、損益通算できる金額も増えます。損益通算については別の記事で詳しく解説します。
「建物割合が高い方が税務メリットが高い」ことがわかったうえで、さらに加速度的に税務メリットを取るには、先に紹介した記事で扱った「躯体と設備」2つの費用に分ける方法があります。次のパターン3で見ていきます。
3. 土地と建物が1:9、建物を躯体と設備(8:2)に分けた場合
パターン2と同じ比率で、かつ建物価格を2つの費用に分けた場合のシミュレーションです。
物件価格 50,000,000円 土地価格 5,000,000円 建物価格(税込) 45,000,000円 土地割合 10% 躯体80% 36,000,000円 設備20% 9,000,000円 築年数 15年 償却年数(躯体) 35年 償却年数(設備) 3年 減価償却費(躯体) 1,044,000円 減価償却費(設備) 3,006,000円 減価償却費合計 4,050,000円 償却月 12カ月(1月から事業開始)【減価償却費の割り出し方】
・建物(躯体)の耐用年数(償却年数)は35年、償却率は「0.029」です。
・設備の法定耐用年数は15年です。マンションの築年数が15年のため、耐用年数を割り出す計算式は「法定耐用年数を過ぎた物件の耐用年数=法定耐用年数×0.2」で耐用年数は3年、償却率は「0.334」となります。
36,000,000円×0.029×12カ月/12=1,044,000
減価償却費(設備)=建物価格(設備)×償却率×償却月(業務に供された月数)/12カ月
9,000,000円×0.334×12カ月/12=3,006,000円
土地価格と建物価格が1:9、建物をさらに「躯体と設備」2つの費用に分けた場合、それぞれ上記の計算から、躯体と設備を合わせた減価償却費は4,050,000円となります。
先ほどパターン2で「建物価格が多い方が税制メリットがある」ことがわかりましたが、2よりさらに170万円ほどの差が出ます。
建物の割合が多い場合、その建物をさらに建物を躯体と設備の費用に分けることで、税務インパクトが大きくなることがわかります。これは、耐用年数が短いため設備の減価償却費が大きくなるからです。
なお建物価格を躯体と設備2つの費用に分ける場合には、設備の減価償却期間が終わったあとに経費計上できるのは躯体部分のみとなり、建物価格を2つの費用に分けない場合より減価償却費は少なくなります。
パターン1の土地価格と建物価格が9:1の場合と比べると、パターン3とは286万円ほどの差になります。
建物価格の割合が多い不動産物件とは
税制面で有利な不動産物件は、建物価格の割合が大きな不動産ということがわかりました。
では、不動産価格の建物割合が多い物件を探したい場合はどうしたらいいでしょうか。一般的には、土地の価格が安いエリアの物件を狙うことになります。ただ、単純に安い土地の不動産を探せばいいかというと、そう簡単には判断できません。
不動産投資は入居者がいて成り立つ投資です。投資しようとする不動産が、賃貸ニーズのあるエリアかどうかをリサーチする必要があり、賃貸ニーズのあるエリアの物件を購入する必要があります。
そして、一般的に人口が密集するエリアは、土地の価格は高い傾向です。例えば港区などでは建物価格の割合は高くありません。しかし税制面ではメリットを感じられないとしても、人気のあるエリアであり、人口も多いために入居者が絶えるリスクも低いです。不動産価格も安定し、下落リスクも少ないといえます。
賃貸ニーズがあって東京23区よりも土地が安いというエリアでは、例えば横浜市や川崎市などが候補に挙げられます。また、23区内で建物割合の多い不動産が存在する区は、荒川区・足立区・北区・台東区・江東区・墨田区などです。ただ、それらの都市も買い手が集中すると人気上昇とともに不動産価格も変動します。購入の際には専門家に相談することをおすすめします。