アマゾンの「Fire HD 10」は最高のタブレット端末、ただし20,000円以下で選ぶ場合に限る:製品レヴュー
アマゾンの「Fire HD 10」は、人生において最高のタブレット端末というわけではない。むしろほど遠いだろう。しかし、Fire HD 10は安くてそこそこパワフルで、多くのユーザーにとって十分な性能を備えている。
「アマゾンの「Fire HD 10」は最高のタブレット端末、ただし20,000円以下で選ぶ場合に限る:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちらアマゾンが21年に10.1インチサイズのFire HD 10に加えた改良は、同社が20年に8インチの「Fire HD 8」に加えた改良とよく似ている。この改良によって、Fire HD 10には2つのモデルができた。RAMが3GBの標準モデルと、RAMが4GBの「Plus」だ。
またアマゾンは「エッセンシャルセット」という名でセット販売もしている。これは3GB RAMモデルのFire HD 10に、Bluetoothキーボード付きカヴァー、「Microsoft 365 Personal」の1年版が含まれている(Microsoft 365 Personalのサブスクリプションは、キャンセルしない限り自動的に継続される)セットだ。エッセンシャルセットにはFire HD 10版(RAMは3GB)と、Fire HD 10 Plus版(RAMは4GB)の2種類が用意されている。
つまり、アマゾンはFire HD 10を「本格的に仕事ができるデヴァイス」と位置づけているのだ。そして驚くべきことに、グーグルのアプリを使わない限り、これは本当である。
Fire HD 10はいまだにアマゾンの「Fire OS」という足かせをはめられているので、Google Play ストアにある多数のアプリを利用できない。だが、こうした欠点を踏まえても、キーボードが使えて画面も改良された新しいFire HD 10は、まるでネットブックのように小型で安価でどこにでも持ち運べる有能なデヴァイスになっている。
小さな高性能デヴァイス
新しいFire HD 10は四方すべてのベゼル(画面の枠)の幅が均一になったが、それ以外の外観はあまり変わっていない。ディスプレイは以前と同じ1,080pの10.1インチで、アマゾンは19年モデルよりも10%明るくなったと主張している。実際に新旧モデルを並べて比較することはできなかったが、Fire HD 10を明るい太陽光の下で使っても何の問題もなかった。画面は驚くほど素晴らしいとは言えないものの、ウェブサイトを閲覧したり動画を観たりといった普段通りの使い方をするぶんには何の問題もない。
RAMの容量が増えていることはすぐにわかる。以前のようにスクロールでイライラさせられることがなくなったり、アプリもサクサクと起動する。作業中に画面が止まったり、明らかな遅れが生じたりすることもない(ローエンドのAndroidタブレットではいつもこうした現象に苦しめられていたのだ)。20年の8インチモデル同様、このアップデートでついにFire HD 10はローエンドデヴァイスを使っていることを忘れてしまうほど高速になったと言える。
バッテリー持続時間は約12時間のままだ。ただし、もちろんこれは何をするかで変わってくる。映画を連続してストリーミングすれば、ウェブサイトを閲覧しているだけのときに比べてバッテリーの減りは速い。だがそれでも、はるかに高価な競合製品と同程度だ。
品質に関して言えば、Fireシリーズは大型で外側がプラスティックであるにもかかわらず、どの製品も驚くほど頑丈である。これまでiPadの画面にヒビが入った経験が2回あるが、Fireではまだ一度もない。
30ドル(日本では3,000円)高い「Fire HD 10 Plus」を選ぶとRAM容量が1GB多くなり、ワイヤレス充電が可能になり、色の選択肢も増える。アマゾンからはテスト用に標準モデルとPlusモデルの両方が送られてきた。ほとんどの時間は大きな違いを感じなかったが、わずか30ドル(3,000円)の差なので、RAM容量が多いほうを選んだほうが将来的にも長く使い続けられるだろう。
仕事には不向きな点も
今回の改良で最も興味深いモデルはエッセンシャルセットだ。このセットにはBluetoothキーボードやMicrosoft 365のサブスクリプションなどが含まれているが、後者はFire HD 10にグーグルのソフトウェアがまったく入っていないという欠点を補うためのものである。Fire HD 10では「Google ドキュメント」も「Google スプレッドシート」も「Google ドライブ」も「Gmail」さえも使えないのだ(ただし、もともと入っているアマゾンのメールアプリからGmailを使うことはできる)。
さらに悪いことに、これらのアプリのウェブブラウザー版はFire HD 10に入っているウェブブラウザー「Silk Browser」でもロードされない。しかも、代わりとなる人気ブラウザーはどれもAmazonアプリストアでは入手できないのだ。
グーグルのオフィス向けアプリにできることは、すべてMicrosoft 365でもできる。しかし、同僚全員がGoogle ドキュメントを使っていて共有ドキュメントを編集する必要がある場合は問題になるだろう。Microsoft 365を1週間使ったころには、こちらのほうがグーグルのアプリよりも好きになっていた。しかし仕事でグーグルのアプリを使っている以上、長期的に使い続けることはできない。
こうした問題はあるものの、Fire HD 10は簡単な仕事なら完璧にこなせるデヴァイスだ。Fire OSには新たに画面分割モードが追加されている。これはマルチタスクに便利だ。仕事をするときはウェブブラウザーを片側に表示し、もう片側に「Microsoft Word」を表示して調べ物をしながらメモをとるといったことをよくしていた。このレヴューもすべてFire HD 10で書いている。使い心地は非常にいい。
ただしキーボードが小さいので、手が大きい人には使いにくいかもしれない。Fire HD 10に最も近い競合製品は同じようにキーが小さい「Lenovo IdeaPad Duet Chromebook」だろう。さらに、そちらにはアマゾンが提供していないトラックパッドが付いている。個人的にトラックパッドがなくて非常に困ることはなかったが、あったらよかったのにとは思った。
キーボードには、一般的なタスクを処理するための特別なキーが多数あり、これらはカスタマイズできるので自分のワークフローに最適になるようにセットアップできる。これはいい。
こうした点は確かな一歩と言えるだろう。アップルの初代「iPad」にもトラックパッドはなかったし、アマゾンがこれから製品を改良するという望みはある(あるいは、トラックパッド付きのサードパーティー製キーボードを入手するという手もあるだろう)。個人的には問題なかったとはいえ、いまのところこのFire HD 10を主に仕事用として購入することはおすすめしない。
Fire HD 10の優秀さが発揮されるのは、アマゾンのタブレット端末に興味をもっている人なら会員になっているだろう「Amazonプライム」においてだ。プライム会員であれば何千本もの映画やアマゾンのオリジナル番組、音楽、本、ゲームなどを利用できる。Amazonプライムの特典は驚くほど豊富であり、Fire HD 10の最適な使い方はプライムのコンテンツを利用することであることに変わりはない。
20,000円以下では最高のタブレット端末
今回「Fire HD 10 キッズモデル」のテストはしていないが、キッズモデルのラインナップの変化も注目に値する。新しいモデルは2種類で、違いはRAMの容量ではなく保護カヴァーと機能だ。
6歳未満の子ども向けモデルは保護カヴァーが従来と同じである。一方で、その仕様は大人向けモデルに匹敵し、フィルタリングされた子ども向けコンテンツを利用できる。もっと年上の子どもを対象とした「Fire HD 10 Kids Pro」(日本未発売)は保護カヴァーが薄くなっていてツヤがあり、新しいアプリストアやウェブブラウザー、音声通話やヴィデオ通話といった機能も搭載されている。
アプリストアにはロックがかかっていて選択できる内容に制限はあるものの、「マインクラフト」などのほかのアプリを含めるように設定することも可能だ。子ども向けのウェブブラウザーにはペアレンタルコントロールが組み込まれており、特定のサイトをブロックしたり特定のサイトのみを許可したり、あるいはブラウザー自体を無効にしたりできる。
キッズモデルかどうかにかかわらず、低価格モデルのiPadを購入する余裕があるなら、そちらのほうがタブレット端末としてはパワフルで優れたディスプレイを備えており、アプリの種類もはるかに豊富だ。カメラにこだわる人にとっても、iPadのリアカメラとフロントカメラは満足できるだろう。Fire HD 10のカメラはひどいのだ。
しかし、iPadは300ドル(日本では39,800円)で、Fire HD 10は150ドル(日本では15,980円)だ。どちらのデヴァイスにもこの価格ではキーボードは付属していないが、この価格帯でFire HDほど素晴らしいタブレット端末はほかにはまず存在しない。
ただし、注意すべきことがある。それは、Fire HD 10を定価で買ってはならないということだ。年に数回、およそ50%オフで販売されるタイミングがある。Prime Day(プライムデー)やブラック・フライデー、その他ホリデーシーズンなどが狙い目だ。Fire HD 10が80ドル(8,800円)くらいで手に入れば、これ以上ない掘り出し物といえるだろう。
◎「WIRED」な点相変わらず恐ろしいほど安い。アマゾンのあらゆる製品やサーヴィスを利用するなら最も簡単な手段である。業種によっては、「エッセンシャルセット」を購入すれば本格的な仕事も可能。バッテリーのもちはほかのタブレット端末に負けない。microSDカードスロットでストレージ容量を増やせる。
△「TIRED」な点
選択できるアプリが限られている(「Google Play ストア」は利用できない)。OSは時代遅れの「Fire OS」。キーボードのバンドルにトラックパッドが含まれない。カメラの性能がひどい。
※『WIRED』によるガジェットのレヴュー記事はこちら。