完全に新しいデザインとなった8.3インチディスプレーを備えるiPad mini。Apple Pencilを本体側面にくっつけて充電できる(筆者撮影)

アップルは9月24日、新型となるひとまわり小さなタブレット「iPad mini」を発売する。

スペースグレイ、ピンク、パープル、スターライトの4色展開、容量は64GBと256GB、Wi-FiモデルとWi-Fi + Cellularモデルが用意され、価格は64GBのWi-Fiモデルで税込5万9800円〜となる。

発売に先駆けて実機を試したので、先行レビューをお届けする。

筆者はもともと、iPad miniを、通勤時にスマートフォンより大きな画面で電子書籍を読んだり、パソコンとは別のデバイスでビデオ会議に参加するためのデバイスとして持ち歩こうと考えていた。

またスマホとナビが連携できない古い愛車のために、車内に固定してナビとして、またApple MusicやPodcastを再生する端末としても、iPad miniを揃えようと思っていた。

多彩な用途に答える待望のアップデートとなるのか、注目していきたい。

待望の小型モデル刷新

iPad miniは2012年10月に小型タブレットとして登場し、今回のモデルで6世代目となる。10インチ前後の主力iPadに対して、7.9インチの小さなモデルとして登場した。

iPad miniは非常に人気の高いモデルだ。例えば教育現場では、手の小さな小学校低学年の児童にとって扱いやすいサイズであり、カメラを生かして学習にデジタルを取り入れるきっかけを与えてくれる。

あるいは航空会社のパイロットが、分厚い紙の資料をiPad miniに置き換えて可搬性と検索性を生かしたり、地上でお客様対応をするスタッフのコミュニケーションツールとして活躍している様子が、日本の空港でも見られる。

近年、9.7インチから10.2インチへとサイズが拡大し、毎年新しいチップを搭載して登場するベーシックなiPadに対して、iPad miniは第4世代が2015年、第5世代が2019年と、頻繁なアップデートがされてこなかった。

それだけに、今回の第6世代となるiPad miniは、待望のアップデートを迎えたことになる。

今回のiPad miniは、登場以来維持してきたオリジナルデザインを変更し、一気にモダンな小型タブレットへと進化するデザイン刷新が加わった。

フラットなデザイン。前後はまっすぐな1つの面で構成され、側面は垂直に立ち上がる、よりシンプルな造型に生まれ変わった。このデザインは、2018年にiPad Proで採用され、その後iPad Air、iPhone 12シリーズ、iMacにも用いられており、アップルの現在の製品に共通するものだ。

ディスプレーは7.9インチから8.3インチに拡大され、前面からはホームボタンが取り除かれて、表示領域で敷き詰められた。そのため、先代と比べ、幅は134.8mmと同じだが、長さは203.2mmから195.4mmに詰められており、重さも、Wi-Fiモデルで7.5g、Wi-Fi + Cellularモデルで11.2g軽量化された。


フラットな背面に大きなカメラが目立つ。写真は5Gに対応したWi-Fi + Cellularモデルの新色パープル。端末下部にアンテナラインが見える(筆者撮影)

これまでLightningポートを充電やデータ転送のために搭載していたが、これをiPad ProやiPad Airと同様に、USB-Cに変更した。これにより、Macなどと充電器・ケーブルを共有できるようになったほか、規格上これまでの10倍以上の速度でデータ転送をサポートするようになった。

立って片手で持ちながら使うシーンがより多く想定されてきただけに、小型化と軽量化はiPad miniにとって重要だった。そんな用途にとって頼もしいのが、5G対応だ。

Wi-Fi + Cellularは5G対応となった。高速通信を生かして、大きなデータを送受信したり、より高画質なビデオをダウンロードして移動しながら楽しむ、といった用途にぴったりだ。

ただしミリ波には対応しなかった点は残念だ。空港や施設内など、屋内かつ人が多く集まる場所で働く人も数多く利用し、今後インフラが整っていくと、ミリ波での通信にメリットが出てくる場面もあるだろう。

その一方で、5G通信にはより大きな電力消費が伴う。また、日本の現状を考えると、アンテナ数が圧倒的に多い4Gのほうが、通信速度で優位に立つ場面が目立つ。未来に備えるためにはよいが、2021年の日本において、5Gが欠かせない機能だとは言えない。

「Touch ID」を搭載

iPad miniには、昨年登場したiPad Airと同様、トップボタンに内蔵するタイプの小型指紋認証スキャナ、Touch IDが採用された。細長いボタンに指紋センサーが内蔵され、ここに触れるとロック解除を行うことができる。

製品を新たに設定する際、右手だけでなく、左手の指も登録するよう促される。横長に構えたときにも円滑にロック解除できるようにするためで、気が利いている。


本体上部に指紋認証Touch IDを内蔵したトップボタンがある。指をあてれば素早くロック解除ができる(筆者撮影)

筆者は電車の中での利用を想定していたため、必然的にマスク着用状態になる。顔認証ではマスクをずらして鼻先を出さなければロック解除できなかったが、iPad miniでは指でのロック解除が可能であり、この点もiPad miniを通勤のお供にする際のメリットと言える。

また、前面、背面をカバーする純正ケースなどの使用を前提としており、左側面からボリュームボタンがなくなり、端末上の側面に移動された。頻繁に操作するわけではなく、画面内でもコントロールセンターから設定できるので、位置の移動はさほど不便に感じなかった。

最新のiPad miniには、iPhone 13シリーズと同じ、6コアCPUを備えるA15 Bionicが搭載された。

こちらはiPhone 13と同様のメモリ4GBバージョンながら、グラフィックスはiPhone 13 Proと同様の5コアを備える、iPhoneとは異なる構成での搭載だ。機械学習処理を行うニューラルエンジンは16コアを搭載する。

手元のデバイスで性能を計測してしてみると、Geekbench 5ではシングルコア1590、マルチコア4477。iPhone 13 Proに比べると、10〜15%低い値を示している。クロック数が3.23GHzから2.93GHzに落としてあることが原因だろう。

グラフィックスはMetalのスコアで13776。こちらはiPhone 13 Proとほぼ同等の速度を示しており、グラフィックスについては遜色ないレベルだ。

なお、iPadの最上位モデルであるiPad ProにはM1チップが搭載されており、マルチコア7500前後、グラフィックス21000以上のスコアをマークする。

「センターフレーム」機能とは?

A15 Bionic搭載によって実現しているのが、センターフレームだ。これは自動追尾機能であり、ビデオ会議アプリなどで利用する事ができる。

インカメラに超広角カメラを採用し、プロセッサーの処理能力を使って被写体を認識。動く人物が映像の中央に収まるように、自動的に表示領域を動かすカメラワークを行ってくれる。一人だけでなく、複数の人も認識し、その人たちを収めるよう調整するから賢い。

何も、動く被写体を捉えるだけがメリットではない。

例えば、オンライン授業を受講するような場面で、iPad miniを斜めに置いて正面にノートを開く場所を確保したとしても、センターフレームによって自分の顔が中央に表示されるため、iPadの向きをカメラのために調整する必要がなくなる。

またオンライン授業を行う先生も、黒板の前を左右に歩きながら授業をしても、きちんと先生をカメラが捉え続けてくれる。ホワイトボードの前でオンラインのブレーンストーミングをする場面でも、iPadを置いておくだけであとは自由に振る舞えば、きちんとビデオ会議に流れていくのだ。

一見派手さが目立つインカメラの新しい機能だが、リモートワークやオンライン会議が当たり前になった現代においては、非常に実用的で、活用する場面が多数見つかっていく。

第1世代のApple Pencilは不完全なデザインで、本体と一緒に持ち運ぶには別途アクセサリーが必要だったし、充電は底面のLightning端子に差し込むという、長らく実用性に欠ける仕様のまま用いられてきた。

新型iPad miniでは、Apple Pencilは第2世代の対応となり、本体右側面に磁石でくっつく充電パットを備えた。普段はここに付けっぱなしにし、使うときに剥がして書き始めることができるようになった。

Apple Pencilがそれぐらいの手軽さで可搬性を高める必要があったのは、iPadOS 15の存在がある。iPad miniのサイズ、そして扱いやすくなったApple Pencilとの組み合わせは、iPad miniの使い勝手を大きく変化させるからだ。

iPadOS 15で、OSとして、日本語の「スクリブル」に対応した。この機能は手書き文字認識を実現するもので、今年ようやく日本語の手書き入力を実現した。かなり崩しながら文字を書いても認識してくれる実用性がある。


Apple PencilとiPadOS 15の機能であるクイックメモの相性は抜群だ。新しいデジタル文房具としての役割を色濃く見せる(筆者撮影)

OS標準のメモアプリだけでなく、文字入力を行う場面であれば、ウェブページの入力フォームにすら、手書きで書き込むことができる。この使い勝手が非常に便利で、メールやSlack、乗り換え案内などのさまざまなアプリに対して手書きで入力する、新しい感覚が便利だった。

また、Apple Pencilで画面右下の角から中央に向けてペン先を走らせると、付箋のようなクイックメモが表示される。もちろんこの中にも手書きもしくは手書き文字認識で素早くメモが残せる。

しかも今表示しているアプリの内容へのリンクもクイックメモに加えることができ、コンテンツとメモの組み合わせで備忘録が作れる点は便利だった。

Apple PencilとiPadOS 15のマッチングのよさは、iPad miniが新しい文房具としてどこへでも持ち歩けること、あるいはピュアなタブレット体験を最も体現する存在であることを、気づかせてくれた。

スマホやパソコンと組み合わせれば…

現在、スマートフォンなしの生活はほぼ考えられなくなってきた。同時に発売されたiPhone 13シリーズはいずれもiPad miniと同様のA15 Bionicを搭載し、4つのサイズで登場している。

iPad miniを組み合わせることで、読書やゲームなどiPhoneが担っていた役割をタブレットに移管することができるようになる。そのため、必ずしもiPhoneが大画面である必要はなくなり、またバッテリーを気にせず楽しめるようになる。

一方パソコンを持ち歩いている場合、バッテリーをより多く消費するビデオ会議にiPad miniから参加することで、電源の場所に頼らず現代的なワークスタイルをかなえることができる。その際、前述のセンターフレームを含む高画質のカメラ性能は、ビデオ会議の品質をより高めることになる。

iPad miniでは、パーソナルな用途でスマホやパソコンの間に収まる中間的なピュアなタブレットとして、そしてビジネスの現場では頼れるモバイルデバイスとして、いずれの市場にもインパクトを与える存在になるだろう。