mobile Masahiro Sano

2021年も大きな注目を集めた新iPhoneの発表。今回も「iPhone 13」「iPhone 13 Pro」シリーズ4機種が発表され、購入を検討している人も多いかと思いますが、Apple Storeや量販店ではなく携帯電話会社からの購入を検討している人も多いのではないでしょうか。

携帯電話会社でiPhone 13シリーズを購入するメリットは、やはり端末を分割払いで購入し、一定期間経過後に返却することで残債が免除される、いわゆる端末購入プログラムを適用して高額なiPhoneをお得に買い替えられることではないでしょうか。そこでいくつかの携帯電話会社は、iPhone 13シリーズの発表前後に端末購入プログラムに関する新たな発表をしているのですが、共通しているのはいずれも「残価設定ローン」の仕組みを取り入れていることです。

残価設定ローンとは、購入するものの将来の下取り価格をあらかじめ設定し、その価格を差し引いてローンを組むというもので、自動車を購入する際などによく使われるものです。ローンの返済後はものを返却する、あるいは残価を支払って手元に残すといった選択をすることが可能です。

この残価設定の仕組みを端末購入プログラムに最初に導入したのがKDDIで、2020年2月よりauブランドで提供してきた「かえトクプログラム」がそれに当たります。端末に2年後の買取価格を残価として設定し、その残価を差し引いた金額を、購入初月を除く23カ月で分割払いし、25か月目に端末を返却して機種変更すると残価分の支払いが不要になる仕組みで、機種変更しない場合は24か月、あるいは一括で残価を支払う形となっていました。

▲KDDIがauブランドで2020年2月に提供開始した「かえトクプログラム」で、端末購入プログラムに初めて残価設定の仕組みが導入された

ですが端末の返却に加え機種変更をしないと残価の支払いが不要にならない点が、総務省の有識者会議などで「実質的な契約の縛りにつながる」と問題視する向きが少なからずありました。その影響もあってかKDDIは、iPhone 13シリーズの発表より少し前の2021年9月17日に新しい端末購入プログラム「スマホトクするプログラム」を開始しています。

こちらも基本的な仕組みはかえトクプログラムと同じなのですが、大きな違いは残債免除の条件から機種変更が外され、端末を返却するだけでよくなったこと。また新たに、機種代金の支払いを「au PAYカード」に設定することで、最大で支払総額の5%のポイント還元が受けられる「スマホトクするボーナス」も追加されています。

▲新しい「スマホトクするプログラム」は端末代から設定した残価を引いた残りを23か月で支払い、端末を返却すると残価分の支払いが不要になる仕組みで、機種変更は不要になった

そして新たに残価設定ローンの仕組みを取り入れたのがNTTドコモで、iPhone 13シリーズ発表後の2021年9月24日、新しい端末購入プログラム「いつでもカエドキプログラム」を発表しています。こちらも端末代から設定残価を差し引いた金額を23か月で分割払いし、24か月目に端末を返却すると残価分の支払いが不要になるというものですが、24か月より前に返却した場合に、翌月以降の分割払い料金から一定額を値引く仕組みが用意されているのがKDDIとの大きな違いといえるでしょう。

▲NTTドコモの「いつでもカエドキプログラム」も残価設定の仕組みを導入、24か月目に端末を返却すると残価額の支払いが不要というだけでなく、24か月以前に返却した場合はさらに分割払い額から一定の割引が受けられる仕組みも用意された

なぜNTTドコモが新しい端末購入プログラムの提供に至ったのかというと、これまで提供していた「スマホおかえしプログラム」が他社と比べ還元額が少ないという弱点を抱えていたことが大きいようです。

スマホおかえしプログラムは36回の分割払いで端末を購入し、端末を返却すると12か月分の支払い額が不要になる仕組みなのですが、端末を返却しても端末代の33%しか還元されません。それゆえ4年間の分割払いが前提ながら、約2年で返却すると半額近い還元が得られることが一般的だった他社の端末購入プログラムと比べ、還元額の面で不利な状況にあったことから、残価設定の仕組みを取り入れリニューアルを図ったようです。

▲NTTドコモがこれまで提供してきた「スマホおかえしプログラム」は、分割払いの期間が36回と短い一方、端末返却時に支払いが免除されるのが33%と他社より少なかった

一方で他の2社は端末購入プログラムの内容を変えておらず、ソフトバンクの「トクするサポート+」、楽天モバイルの「楽天モバイルiPhoneアップグレードプログラム」は共に、48回の分割払いを組み、24回分の支払いが完了後に端末を返却すると残債が不要になるという、従来通りの仕組みです(トクするサポート+は指定機種への機種変更も残債免除の条件に含まれます)。

では残価設定の仕組みを取り入れたプログラムと、従来通りのプログラムとではどちらがお得なのでしょうか。4社の端末購入プログラムはいずれも実質的に48回の分割払いで、23〜24か月以降に返却するという条件はほぼ共通していることから、設定残価がお得度合いを大きく左右することになるでしょう。

設定残価は2年後の下取り価格が高いと想定される機種ほど高くなりますが、下取り価格があまり高くないと想定される機種は低く設定されてしまう傾向にあります。そして設定残価が高いのは中古市場でのニーズが高いiPhoneで、ニーズがそこまで高くないAndroid端末は、残価設定の仕組みを取り入れたプログラムの方が不利になる可能性が高いと考えられます。

実際、価格帯が近い「iPhone 13 Pro Max」の1TBモデルと「Galaxy Z Fold3 5G」の、各社オンラインショップでの一括価格と端末購入プログラムの設定残価を比べてみましょう。まずNTTドコモの場合ですが、iPhone 13 Pro Maxの一括価格が24万3144円、設定残価が11万8800円であるのに対し、Galaxy Z Fold3 5Gの一括価格は23万7600円、設定残価は9万5040円となっています。

続いてauの場合ですが、iPhone 13 Pro Maxの一括価格が22万6870円で設定残価が10万4280円であるのに対し、Galaxy Z Fold3 5Gの一括価格は23万7565円、設定残価は7万9440円と、残価がより低く設定されていることが分かります。

▲iPhone 13 Pro Maxの1TBモデルと価格が近いGalaxy Z Fold3 5Gだが、各社の設定残価を見ると2万円強の開きがあるようだ

そうしたことから残価設定を取り入れた仕組みの広がりは、AndroidよりもiPhoneユーザーにメリットをもたらす公算が高いといえるそうですが、今回のケースで2社の設定残価を見てみますとiPhone 13シリーズであっても半額を下回っており、従来のプログラムより損となってしまう点が気になります。

一方で従来の仕組みを踏襲するソフトバンクの場合、iPhone 13 Pro Maxの1TBモデルの一括価格は22万8240円で、トクするサポート+の適用で半額の11万4120円の支払いが不要になります。また楽天モバイルも、同機種の価格は一括価格は19万4800円で、楽天モバイルiPhoneアップグレードプログラムの適用でやはりおよそ半額の9万7408円の支払いが不要になる計算です。少なくとも今回の事例を見る限りでは、iPhoneでも従来の端末購入プログラムの方が割が良かったということになりそうです。

▲ソフトバンクでiPhone 13 Pro Maxの1TBの値段を確認したところ。「トクするサポート+」なので端末返却に加え機種変更も必要になるが、端末価格の半額となる11万円以上が免除される計算だ

とはいえ事業者視点で見た場合、残価設定の仕組みを取り入れた方が市場に即した価格設定をしやすく、それだけ損が出にくい仕組みだというのも事実なだけに、今後も残価設定の仕組みを取り入れる動きは広がると考えられます。お得さ重視の人からしてみれば少々モヤっとする動きでもありますが、総務省は現在も、端末購入プログラムが契約を縛る存在として問題視しているようで、今後の動向次第ではその存続が危ぶまれる事態も起きかねないだけに、提供されている分まだいい方といえるのかもしれません。

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