一流の人々に学ぶ、安心感と信頼感に影響する立ち居振る舞いとは(写真:zusek/iStock)

飛行機で優雅に乗客をもてなしてくれるCA。お客様に最上のもてなしをするため、CAはさまざまな訓練を受けているが、ちょっとした動作1つで一流に見えるか、見えないかが違ってくると話すのは、元日本航空CAの山本洋子さん。

ファーストクラスのチーフパーサーを長年務め、一流の人の所作にも多くのことを学び、『どんなストレス、クレーム、理不尽にも負けない 一流のメンタル100の習慣』を刊行した山本さんに、一流とそれ以外を分ける「ちょっとした所作、振る舞いの違い」について話を聞いた。

どんなときでも、「ゆったりした所作」を忘れずに

ご自分の立ち居振る舞いを意識していますか?

立ち居振る舞いや所作には、長年にわたり身についた癖があり、普段あまり意識することがないものです。何気ない日常の所作は、あなたが無意識のうちに、「あなたの人となり」を周りの人に印象づけています。落ち着きのない粗雑な振る舞いは、時に威圧感や嫌悪感を与えることもあり、ビジネスパーソンとしての感性と品位を疑われることになりかねません。

CA時代、皇室特別便である男性皇族の方をお世話させていただいたことがあります。その方の立ち居振る舞いがあまりにも美しいことに感銘を受けたことを今でも鮮明に覚えています。

所作の1つひとつが、丁寧でとても優雅なのです。食事をなさるときの所作、座る、歩く、話す、うなずくなどの何気ない所作が流れるように美しく、思わず見とれてしまうほど引きつけられました。

その方の周りだけ違う時間が流れているかのように、すべての所作が、「ゆったり」なのです。ゆったりというと、トロトロとした印象を持ってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ゆったりした動きのなかにもキレがあり、緩急のついた1つひとつの所作に「間」があるのです。所作がゆったりと美しいことは、安心感を与え、人を引きつけるということを改めて学びました。

多忙な日常業務の中で、つい粗雑に物を扱ったり、乱暴な振る舞いをしたり、バタバタと慌ただしさを漂わせてしまいがちですが、そんなときこそ、「ゆったり」した動作を心掛けることが必要です。焦る気持ちや急ぐ気持ちが所作に表れてしまうのは、二流の人です。一流のビジネスパーソンは、どんなに急いでいても、心の中がどんなに焦っていても、動きに心のうちを反映させません。ゆったりした動きの中にこそ、人を引きつける品位が表れ、それがあなたの信用度をさらに高めてくれることになるのです。

「手添え」の技術が、ステータスをあげる

みなさんは「手添え」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか? 言葉どおり、手を添えることを意味するのですが、何に手を添えるのでしょうか?

これは、CAの世界でよく使われる言葉なのですが、例えば、お客様にお水をお出しするとします。お水の入ったコップをお客様のテーブルに置くのですが、コップを置いたあと、コップから手を離すとき、サッと引き払うように手を離すのではなく、少し余韻を残すように手を添えてから、ゆっくりと手を離す動作のことを「手添え」といいます。手を添えるのは、時間にして1〜2秒ほどでしょうか。

これは、CAの接客上のテクニックにとどまりません。日常生活の中で、人に何か物を手渡すときや、物を置くときなど、意識して「手添え」を行うだけで、相手に与える印象が変わってきます。

人に何かを渡した後、相手から手を引くときの所作には、無意識のうちに気持ちが表れます。いかに丁寧にお渡ししても、そのあとサッと素早く手を引っ込めてしまうと、いかにも汚いものに触れたかと思っているように、相手に伝わってしまいます。

「手添え」は単に手を添えるということだけではありません。手を添えることで、「相手に心を残す」という意味も含まれているのです。ほんの1〜2秒、手を添えることで、相手に丁寧に向き合っているという気持ちが伝わります。

CAの動きが優雅で洗練されて見えるのは、そんな小さな手の動きまで神経を届かせているからです。心や気持ちは、目には見えません。だからこそ、気持ちを形に表すことが必要です。おもてなしや相手がホッとするような瞬間は、「手添え」から生まれます。言われなければ相手は気づかない「手添え」ですが、ほんの数秒、手と心を添えることで、あなたのステイタスは確実に押し上げられます。

人には、それぞれ癖があります。自分で自覚している癖もあれば、無意識のうちにやってしまっている癖もあります。自覚している場合は、気をつけることもできるのですが、無意識に出てしまう癖は、自分では気がつかないうちに、人に不快感を与えていることもあります。

それが、「顔や髪を触る」癖です。顔や髪を触る頻度や触り方にもよりますが、会話中あまり頻繁に顔や髪を触っていると、見ているほうが気になってしまうものです。 

CAがサービス中、髪や顔を触るのはNGです。「髪を触ることは、不潔である」という認識をお持ちの方は少なくありません。お客様からいただくコメントの中にも、「CAがサービス中、顔にかかる前髪を気にして、頻繁に手で触っていた。不潔だ」というお声があるほどです。

髪をタイトにまとめ、前髪が顔にかからないようなヘアスタイルがマニュアルで規定されているのには、そんな理由があるからです。

安心感と信頼感にも影響する立ち居振る舞い

顔や髪を触ってはいけない理由は、それだけではありません。髪を触るということは、深層心理的に、緊張している、退屈している、恐怖を抱いているなどの表れとも言われますが、会話中、顔や髪を頻繁に触る行為は、自信のなさの表れでもあります。顔や髪だけではありません。忙しなく手を動かしたり、足を揺らしたりすることも同様です。

CAはサービス要員であると同時に、保安要員でもあります。CAが顔や髪を触っていると、衛生上清潔感が損なわれるだけでなく、自信なく見えてしまい、お客様を不安にさせてしまうのです。

これは女性に限ったことではありません。男性もひげや顎周りをよく触る癖がある人、髪をかき上げる癖のある人を見かけます。プライベートでは、素敵なしぐさとして映るかもしれませんが、ビジネスシーンにおいては、おすすめできません。

強いメンタルを持つビジネスパーソンは、多少自信がなくても、自信があるように振る舞うパフォーマンスも時には必要です。顔や髪に手をやらない、堂々とした立ち居振る舞いは、相手にさわやかさと清潔感を与えるだけでなく、安心感と信頼感も与えるのです。

「朝、起きて家族にあいさつしましたか?」

ビジネスマナー研修を行う際、私が必ずする質問です。大半の人が、「毎朝、きちんとあいさつしています」と答えます。

CA時代、早朝の国内線に乗務するといつも感じることがありました。東京─大阪間など早朝のビジネス路線のお客様は、9割以上がスーツ姿のビジネスパーソンです。早朝で仕事前ということもあり、ピリピリした緊張感が漂っています。CAにとって、少し気を遣うフライトなのですが、ご搭乗時だけは、さわやかに元気よくお出迎えします。

一流のビジネスパーソンのあいさつ

ではCAのあいさつに対して、どのくらいの方があいさつを返してくださるでしょうか?

キチンと数えたわけではありませんが、「おはようございます」という言葉に対して、「おはようございます」と返ってくる人数は、400名中だいたい3〜4名といったところです。会釈する方、無言で頭だけ下げる方、「どうも」と言ったり、「あぁ」という感じでうなずく方など、何らかのアクションを返してくださる方はいらっしゃるのですが、キチンと声に出して、「おはよう」と返してくださる方は、驚くほど少ないのが現状です。

ビジネスマナー的に言うと、これらはあいさつとは言えません。「おはようございます」と言われて「おはよう」と返すのは、ただの「返事」です。


「あいさつ」は「明るく」「いつでも」「先に」「続けて」とゴロ合わせで言われるように、これらの要素がなければ「あいさつ」ではないのです。

「明るい」声と「明るい」態度で、気分が乗った時だけではなく、「いつでも」、目下の者からあいさつしてくるのを待つのではなく、誰に対しても自分から「先に」、そしてそれを「続けて」行うことが、「あいさつ」です。

また、ビジネスパーソンであれば、あいさつ時は「立つ」ことも忘れずに行いたいものです。立場が上になると、部下があいさつや相談に来ても、自分は座ったままという人がいます。しかし、これは尊大な印象を与えます。

自分と相手の立場にかかわらず、誰に対しても「あいさつ時は立つ」だけで、周りに与える印象はぐっと変わります。私がファーストクラスでチーフパーサーをしていたとき、ある著名な建築家の方はフライト前に席にごあいさつに伺うと、必ず立ち上がってごあいさつを返してくださり、その気遣いに毎回、感動していました。

日常的に行っている「あいさつ」ですが、「明るく」「いつでも」「先に」「続けて」を意識し、「あいさつ時は立つ」を習慣にすることは、超一流のビジネスパーソンほど身につけているものです。