長引くコロナ禍は、私たちのコミュニケーションの在り方にも大きな影響を与えています。そのなかでも、インターネットやSNSはますます存在感を増していますが、つき合い方には注意が必要な部分も。

うつ専門メンタルコーチ、公認心理師の川本義巳さんに教えていただきました。


インターネットと情報

インターネットでのコミュニケーションの落とし穴



私自身、以前はリアルな場所でお互い顔を合わせてのセミナーやコーチングをメインにしていましたが、今はすべてオンラインに切り替わりました。いわゆるテレワークですね。

テレワークは移動のロスがないのと、参加者の皆さんも全国どこからでの参加できるというメリットはありますが、これまでライブばかりをしてきた身としては、コミュニケーションの難しさを感じる面もあって、まだまだこれからといったところです。

●友達は「相談してはいけない相手」?



インターネットでのコミュニケーションの話をするとき、私はいつもある一人の高校生の女の子を思い出します。玲ちゃん(仮名)という名前の高校一年生でした。

彼女は小学校時代から、ちょくちょく学校を休むことがあり「高校でうまくやっていけるだろうか?」と親御さんも心配していた子です。案の定、高校でもなかなかクラスになじめず、遅刻や早退があったり、一日保健室にいたりということがありました。
本人によると「いろんなことが不安で、教室にいると息苦しくなってしまう」ということでした。そのために教室に入りたくなくなったり、がんばって入ってみるけど、「やっぱりムリ!」となるようです。

「どんなことが不安なの?」と聞くと、玲ちゃんはたくさん上げてくれました。体調のこと、友達関係のこと、親との関係のこと、将来のこと、恋愛のこと…体調面のことを除いては、思春期の若者にありがちな悩みばかりでした。

そこで私は彼女にこんなことを聞いてみました。「友達には相談しないの?」って。すると彼女はびっくりしたような表情をしてこう答えてくれました。

「友達は仲よく遊ぶ相手だから、そんな話をして空気を重くするのはダメです」

これには驚きました。私たちが10代のころ、悩みは友達がいちばん聞いてくれた記憶があります。でも彼女は「友達は相談をしてはいけない相手」と思っていたのです。

そこで続けて聞いてみました「じゃあ、だれに相談するの?」彼女は少し笑いながら「ネットの人」と答えてくれました。これまた驚きでした。
「会ったこともないネット上の知り合いに相談をしている? それはなぜなんだろう?」そんな疑問に、彼女は理由を教えてくれました。

「ネットの人はいつも本音を言っている。だから信用できる」

彼女にとってリアルなコミュニケーションは、気を遣う場であり、リラックスしづらい場です。それゆえ、彼女自身ツイッターやLINEでのコミュニケーションを深夜までやることで、バランスをとっているようでした。もちろん、それを続けている以上「教室に入れない」という問題は解決しないでしょう。

●ネットの世界と認知バイアス



彼女は「ネットの人はいい人」という認知を持っています。これはとても断片的なものです。なぜなら、ネット上にはそうでない人も存在しますから。私たちは、彼女のように「〜はこういもの」と思い込んでしまうと、それ以外の情報を遮断していまい、自分に都合のよい面だけを認識することがあります。これを認知バイアスと呼びますが、相手が影響力のある存在であればあるほど認知バイアスは起こりやすくなります。

ネットの世界ではとくにそうで、有名人が「これはこういうことです」と発信すると、それに同調する人がたくさん出てきます。あるいは、なにか注目を集めている事件などについて、だれかが「これが真実だ」とつぶやいた言葉を真に受ける人もたくさん出てきます。

最近でもある事件の容疑者と同じ姓の企業をとりあげて「容疑者の親族」などど書き込んだために、その企業に嫌がらせや問い合わせが殺到して業務が停止するといったことがありました。これも認知バイアスがかかった結果です。

インターネットが普及して、だれもがネットで情報を取得したり、コミュニケーションをとる時代になり、それに輪をかけて新型コロナウイルスの影響で、在宅時間が増えリアルなコニュニケーションが減ってしまいました。これにより、私たちのコミュニケーションの形はどんどん変わってきています。もちろん、いい面もありますが、認知バイアスによる問題も見受けられます。またメンタル面での影響も大きくなってきています。

●情報について話し合う機会を



自分のメンタルを守ると同時に他人にストレスを与えないためには、今自分たちが使っているツールにどんなリスクが含まれているのか、考えないといけません。
そしてその上で、その情報は本当に正しいのか、できる範囲内で調べることや、だれかとリアルにそのことについて話し合ってみる機会をもつということが必要です。

最後に玲ちゃんのその後についてお話しましょう。じつは私と話をしたすぐ後に「なんでも話せる友達」ができ、その子のおかげで不安が減り、無事3年間教室で授業を受けることができました。やっぱりリアルなコミュニケーションは大事だと感じた出来事です。

●教えてくれた人
【川本義巳さん】



うつ専門メンタルコーチ、公認心理師。高校卒業後、SEとして20年以上メーカーに勤務。大手IT企業への転職を機にうつ病を発症、寝たきり状態になり、1年2か月の休職を余儀なくされる。職場復帰後も6年間うつ病に悩まされ、さまざまな方法を試すが失敗。2007年コーチングに出合い、うつ病を完全克服。その体験をきっかけに現職に。著書に『1日3分でうつをやめる。
』(扶桑社刊)がある