74歳、年金だけで暮らすひとり老後。それでも不安を感じない生き方
老後の暮らしについて、ふと考える人も多いのでは? お金のことは? 楽しく生きられるの?
そんななか、話題になっているのが『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎刊)です。その気になる内容についてご紹介していきます。
ミツコさんの掃除のときのスタイル。頭には手ぬぐいを。夏はハチマキにして汗止めにします
公営住宅でひとり暮らしをするミツコさん。牧師でもある彼女の、清々しいまでに信念を貫いた暮らしぶりが話題です。初のエッセイ『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』に描かれた「不安のない老後」とはどんな境地なのでしょうか。
戦争直後、牧師の家庭に生まれ、自身も信仰への道を選んだミツコさん。牧師の夫とともに教会を切り盛りし、4人の娘を育て上げ、人々のため、社会のために尽くしてきました。
夫が他界した後は牧師の仕事も第一線から退き、現在は週2日の教会での仕事とシルバー人材センターでの家事補助の仕事にいそしんでいます。
月の生活費は年金の7万円ですが「それで十分」。
子育てにまい進した時代もありましたが、その教育方針は
「18歳までは面倒を見るけれど、あとは自分でどうにかして」
というもの。
お嬢さんたちはその教えのとおり、早くから独立しています。
子どもたちをそう言って育ててきた以上、ミツコさんも自立せねば。そう考えたからこそ、夫が他界した後もひとり暮らしを続けているのです。
もちろん、家族との関係は良好です。毎週水曜日は教会での「祈り会」に出席し、そのあとは四女の自宅でお食事会。日曜日の礼拝にはお嬢さんたち四家族が顔をそろえます。
ミツコさんのお孫さんは総勢16人! 成人した子もいれば、未就学児もいます。
著書には、
「主任牧師として働いていたころは、孫たちにお年玉を渡したり、お誕生日のケーキを買ったりしていたけれど、今は余裕がないのでしていません。16人もいて、だれかを特別扱いしたくないので、全員にあげないことにしています」
そして
「もし、おこづかいを渡さないことで孫から相手にされないとしたら、それはそれで仕方がない」とも書いています。
孫たちはおばあちゃん、とは呼ばず「ミツコさん」「ミッコちゃん」と呼びます。ミツコさんも本気になって、一緒に自転車に乗ったり、ブロックで遊んだり。いつでも子どもたちと遊べる体力をつけておきたい、という健康への意識にもつながります。
お金を与える(残す)よりも、はるかに大きな愛情が、お孫さんたちには注がれているようです。
キリスト教では、死とは神様の元に帰ること。そのため、「死ぬことは少しも怖くない」といいます。
キリスト教のお葬式はごく質素でお金がかからないので、大きなお金を残す必要もありません。
ただひとつ、ミツコさんが心がけているのは、
「病気をして、子どもたちや孫たちに(経済面を含めて)迷惑をかけたくない」ということ。
同じように思ってらっしゃる読者も多いことでしょう。
そのため、健康の維持につとめています。
ある日のミツコさんの昼食。魚を中心に、野菜や豆を使った小さなおかずを少しずつ、品目をたくさん摂るようにしています
食事はなるべく野菜を多めに。具だくさんのおみそ汁が定番です。
肉ジャガ、キンピラ、煮物、焼き魚…。昔ながらの定番おかずをつくり、少量ずつ、1日30品目を目標に。一口30回ずつ、よく噛むことも大切です。
運動だって忘れていません。
毎朝、布団の中でじっくりストレッチ。
2〜3日おきには腕立て伏せ。初めは1回もできなかったのに、今は楽しいと思えるまでに。
夕食のしたくをしながらのスクワット、シルバー人材センターの仕事でぞうきんがけをしながらの筋トレも欠かしません。
意識して体を動かせば、ジムに行かなくても運動はできるのです。
そしてなんと、71歳のときには「かなづちを克服しようと」、公営プールの水泳教室に!
25メートルのプールを半分のあたりで一休みしながら、泳ぎきれるようになったといいます。
楽しかったこと、うれしかったこと、思い出はすぐ見えるところに飾ります。みんなで撮った写真や孫からの手紙、美術館のチケットなど、見るたびに心豊かな気持ちになれます
少しでも若さを保ちたい! というミツコさん。それは、孫たちはもちろん、教会員の子どもたちと、夏の研修会などで思う存分遊びたいから。
そのためにも大切にしているのが、人と交わり、関わり合いをもつことで刺激を受けることです。
テレビを見ていて、気になった新しい言葉などはすかさずメモして、見えるところに貼り出しています。スマホの使い方やLINEは、近くに住む孫に教えてもらいます。
週に一度は『訪問の日』として、高齢の教会員を遠方まで見舞いに出かけます(コロナ禍が始まってからは控えています)。
昔の自分と同じ、働きながら子育てしているご家庭の家事サポートに出かけ、若いお母さんの悩みを聞いてあげます。
つらい思いをしている人がいれば、その人のために誠心誠意、神様に祈りを捧げます。
いつも笑顔を絶やさない。そのために、説教の内容を考えるデスクにも、キッチンにも、いたるところに鏡があります。ふとしたはずみに映った顔をチェックするのです
そんなミツコさんには、老け込んでいるヒマなどありません。
だれからも愛され、頼りにされ、お互いを気にかけ合いながら生きています。
もし、万一ミツコさんになにかあっても、だれかが気づくはず。困ったことになっていても、だれかが手を差し伸べるはずです。
生活費は、年金の7万円しかないかもしれません。経済的にはけっして余裕があるとは言えないかも。それでも、不安に思うことなく、明るく人生を楽しんでいられるのは、目に見えない、多くの人たちとのつながりのなかに生きているから。
『今の自分』にできる、最大限の努力をすること。ミツコさんの人生を楽しむコツには、学ぶべきことがたくさんありそうです。
<写真提供/すべて『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎刊)より、林ひろし撮影 取材・文/浅野裕見子>
1946年生まれ。牧師の家庭に育ち、自身も牧師を志す。神学系の大学を卒業後、同じく牧師の夫と結婚。夫婦二人三脚で47年間教会を運営するかたわら、4人の娘を育てる。夫を2016年に見送り、その後は公営住宅でひとり暮らし。現在も協力牧師として週2回教会に通う。心に常にあるのは「牧師の仕事は富とは無縁の仕事。お金がないならないで、工夫して楽しく暮らす。過去を振り返ったり、将来を心配したりせず『今ここ』に心を込めて生きることを大切に」。著書『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎)が多くの読者の共感を得て話題に。
そんななか、話題になっているのが『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎刊)です。その気になる内容についてご紹介していきます。
ミツコさんの掃除のときのスタイル。頭には手ぬぐいを。夏はハチマキにして汗止めにします
お金さえあれば安心ですか?年金だけで楽しく暮らす「ひとり老後」
公営住宅でひとり暮らしをするミツコさん。牧師でもある彼女の、清々しいまでに信念を貫いた暮らしぶりが話題です。初のエッセイ『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』に描かれた「不安のない老後」とはどんな境地なのでしょうか。
●たとえ家族でも、各自が自立
戦争直後、牧師の家庭に生まれ、自身も信仰への道を選んだミツコさん。牧師の夫とともに教会を切り盛りし、4人の娘を育て上げ、人々のため、社会のために尽くしてきました。
夫が他界した後は牧師の仕事も第一線から退き、現在は週2日の教会での仕事とシルバー人材センターでの家事補助の仕事にいそしんでいます。
月の生活費は年金の7万円ですが「それで十分」。
子育てにまい進した時代もありましたが、その教育方針は
「18歳までは面倒を見るけれど、あとは自分でどうにかして」
というもの。
お嬢さんたちはその教えのとおり、早くから独立しています。
子どもたちをそう言って育ててきた以上、ミツコさんも自立せねば。そう考えたからこそ、夫が他界した後もひとり暮らしを続けているのです。
もちろん、家族との関係は良好です。毎週水曜日は教会での「祈り会」に出席し、そのあとは四女の自宅でお食事会。日曜日の礼拝にはお嬢さんたち四家族が顔をそろえます。
ミツコさんのお孫さんは総勢16人! 成人した子もいれば、未就学児もいます。
著書には、
「主任牧師として働いていたころは、孫たちにお年玉を渡したり、お誕生日のケーキを買ったりしていたけれど、今は余裕がないのでしていません。16人もいて、だれかを特別扱いしたくないので、全員にあげないことにしています」
そして
「もし、おこづかいを渡さないことで孫から相手にされないとしたら、それはそれで仕方がない」とも書いています。
孫たちはおばあちゃん、とは呼ばず「ミツコさん」「ミッコちゃん」と呼びます。ミツコさんも本気になって、一緒に自転車に乗ったり、ブロックで遊んだり。いつでも子どもたちと遊べる体力をつけておきたい、という健康への意識にもつながります。
お金を与える(残す)よりも、はるかに大きな愛情が、お孫さんたちには注がれているようです。
●ジムに通わなくても体は鍛えられます
キリスト教では、死とは神様の元に帰ること。そのため、「死ぬことは少しも怖くない」といいます。
キリスト教のお葬式はごく質素でお金がかからないので、大きなお金を残す必要もありません。
ただひとつ、ミツコさんが心がけているのは、
「病気をして、子どもたちや孫たちに(経済面を含めて)迷惑をかけたくない」ということ。
同じように思ってらっしゃる読者も多いことでしょう。
そのため、健康の維持につとめています。
ある日のミツコさんの昼食。魚を中心に、野菜や豆を使った小さなおかずを少しずつ、品目をたくさん摂るようにしています
食事はなるべく野菜を多めに。具だくさんのおみそ汁が定番です。
肉ジャガ、キンピラ、煮物、焼き魚…。昔ながらの定番おかずをつくり、少量ずつ、1日30品目を目標に。一口30回ずつ、よく噛むことも大切です。
運動だって忘れていません。
毎朝、布団の中でじっくりストレッチ。
2〜3日おきには腕立て伏せ。初めは1回もできなかったのに、今は楽しいと思えるまでに。
夕食のしたくをしながらのスクワット、シルバー人材センターの仕事でぞうきんがけをしながらの筋トレも欠かしません。
意識して体を動かせば、ジムに行かなくても運動はできるのです。
そしてなんと、71歳のときには「かなづちを克服しようと」、公営プールの水泳教室に!
25メートルのプールを半分のあたりで一休みしながら、泳ぎきれるようになったといいます。
●人と関わること。祈ること。
楽しかったこと、うれしかったこと、思い出はすぐ見えるところに飾ります。みんなで撮った写真や孫からの手紙、美術館のチケットなど、見るたびに心豊かな気持ちになれます
少しでも若さを保ちたい! というミツコさん。それは、孫たちはもちろん、教会員の子どもたちと、夏の研修会などで思う存分遊びたいから。
そのためにも大切にしているのが、人と交わり、関わり合いをもつことで刺激を受けることです。
テレビを見ていて、気になった新しい言葉などはすかさずメモして、見えるところに貼り出しています。スマホの使い方やLINEは、近くに住む孫に教えてもらいます。
週に一度は『訪問の日』として、高齢の教会員を遠方まで見舞いに出かけます(コロナ禍が始まってからは控えています)。
昔の自分と同じ、働きながら子育てしているご家庭の家事サポートに出かけ、若いお母さんの悩みを聞いてあげます。
つらい思いをしている人がいれば、その人のために誠心誠意、神様に祈りを捧げます。
いつも笑顔を絶やさない。そのために、説教の内容を考えるデスクにも、キッチンにも、いたるところに鏡があります。ふとしたはずみに映った顔をチェックするのです
そんなミツコさんには、老け込んでいるヒマなどありません。
だれからも愛され、頼りにされ、お互いを気にかけ合いながら生きています。
もし、万一ミツコさんになにかあっても、だれかが気づくはず。困ったことになっていても、だれかが手を差し伸べるはずです。
生活費は、年金の7万円しかないかもしれません。経済的にはけっして余裕があるとは言えないかも。それでも、不安に思うことなく、明るく人生を楽しんでいられるのは、目に見えない、多くの人たちとのつながりのなかに生きているから。
『今の自分』にできる、最大限の努力をすること。ミツコさんの人生を楽しむコツには、学ぶべきことがたくさんありそうです。
<写真提供/すべて『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎刊)より、林ひろし撮影 取材・文/浅野裕見子>
【牧師ミツコさん】
1946年生まれ。牧師の家庭に育ち、自身も牧師を志す。神学系の大学を卒業後、同じく牧師の夫と結婚。夫婦二人三脚で47年間教会を運営するかたわら、4人の娘を育てる。夫を2016年に見送り、その後は公営住宅でひとり暮らし。現在も協力牧師として週2回教会に通う。心に常にあるのは「牧師の仕事は富とは無縁の仕事。お金がないならないで、工夫して楽しく暮らす。過去を振り返ったり、将来を心配したりせず『今ここ』に心を込めて生きることを大切に」。著書『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる
』(すばる舎)が多くの読者の共感を得て話題に。