決算数字から見る、コロナ禍から急回復する企業とそうでない企業の違いとは
■賃貸、不動産販売が不振。今後はコロナの影響次第
2020年4月の緊急事態宣言を受け、「テレワーク推奨でオフィスは閉まるところもあり、商業施設も休業。大手企業では本社を縮小して移転する動きも強まりました」(マネックス証券 マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー 益嶋裕さん。以下同)。21年1月の2度目の緊急事態宣言発令で、商業施設などは再び時短営業に。
オフィス縮小や、商業施設の賃貸収入の低下、不動産の購入見送り、ホテル・リゾート施設の収入低迷などで、不動産業界は打撃を受けた。
不動産会社が競って、ワーケーションやサテライトオフィス、テレワーク用の施設やスペースの提供を始めているのは注目に値する。
大手でもヒューリックだけは賃貸事業も不動産販売事業も堅調で存在感を見せたものの、三井不動産、三菱地所、住友不動産の3社はいずれも21年3月期決算は営業減益の見込みだ。21年もコロナ次第では不動産業界は厳しい状況が見込まれる。
コロナで郊外志向が高まっているという見方もあるが「東京都のマンション価格はコロナ禍でも下落しておらず、現状では影響は限定的といえそうです」。
■▼【不動産】“商業施設の休業やオフィス需要の低下で大打撃!”
■危機的状況にある航空・鉄道各社は打つ手なし
コロナによる経済的打撃の大きさを象徴するのが運輸。特に航空業界のダメージは計りしれず、日本ではLCCのエアアジア・ジャパンが20年2月に破産手続きを開始した。
「JALが4200億円、ANAが5050億円と莫大(ばくだい)な赤字で、いつどうなってもおかしくない。しかし、コロナ収束以外、抜本的な対策がありません」。飛行機は飛ばすだけで膨大な固定費がかかるため、徹底的なコストカットでしのぐしかない。財務状況はANAのほうが厳しい。「JALは経営破綻・再生で1度財務を整理したのが大きい。ANAは積極的に設備投資などを行ってきたぶん、負担が重くのしかかっています」
ようやく世界でワクチン接種がスタートし始めたが、国際線需要の回復はまだ遠い。国内線需要アップとなった「GoToトラベル」も、感染拡大の第3波による2度目の緊急事態宣言で停止となり、今は業績回復のカードが見当たらない。
乗務時間に応じた給与体系のパイロットや客室乗務員(CA)などの専門職は、大幅な減便で収入が大きく落ち込んでいる。「採用凍結、採用数の抑制、希望退職、賞与カットなどを行っていますが、コロナ後を考えると、人員整理も簡単ではありません」。どん底にある2社が、どこまで耐えられるのか。これ以上コロナが長引けば、経営統合しかないという声もある。
鉄道各社も大幅な赤字に転落している。外出自粛に加え、リモート勤務の定着で、人の移動が激減。「終電の繰り上げなどで減便を進めていますが、今後はさらにダイヤ、定期券や運賃全体の見直しがされていくでしょう」。JRグループで減収率がもっとも高いのがJR東海。東海道新幹線のビジネスユーザーの激減が大きく響いた。JR西日本、JR東海、JR九州では社員の一時帰休も実施している。
リモートワークやオンライン会議が定着した今、ビジネス移動がコロナ前に戻ることはないだろう。一刻も早い業績回復に加えて、働き方の変化に合わせた戦略の更新も重要だ。
■▼【運輸】“国内外の移動制限で壊滅的打撃”
■業績急回復に沸く企業と大幅に落ち込む企業の明暗
「自動車業界は景気に連動しやすく、業界全体で見ると業績は悪化。しかし、企業別で見ると、黒字化できた企業と、赤字に沈んだ企業との差が大きくあります」。トヨタ自動車を筆頭に本田技研工業、スズキ、スバルの4社は、コロナ禍でも黒字に転換、業績を上方修正。好調の要因としては、米国と中国市場の急激な回復がある。4社は月間世界生産台数も過去最高を更新した。
反対にコロナに沈んだまま赤字となったのが日産自動車、マツダ、三菱自動車だ。特に日産自動車の不振は大きく、20年12月のグローバル販売台数は28カ月連続マイナスという厳しい数字。構造改革の渦中でのコロナに加え、商品ラインアップの不作が響いたといえそうだ。
また、近年、若者を中心にクルマ離れが指摘されていたが、コロナ対策としてニーズの高まりも。トヨタの「KINTO」など、サブスクリプションサービスにも注目だ。
■▼【自動車】“コロナ不景気で自動車売れずも回復傾向”
■酒場・ビアホールが倒産最多。テイクアウト需要も
コロナの感染リスクが高いといわれ、休業、時短営業、ソーシャルディスタンス確保のための定員削減などで、「外食産業はまったく見通しが立たず、非常に厳しい状況です」。業界全体の20年の業績は35.6%低下し、飲食店の7割が赤字、中小を中心に倒産や店舗閉鎖が相次ぐ。特に酒類を提供する酒場・ビアホールは深夜営業自粛などの影響が大きく、業態別の倒産でもっとも多くなっている。深刻な状況にあるのは大手も同じで、軒並み大幅赤字に転落。大勢の従業員を抱えていることもあり、「このままでは、危機的状況になってしまう」(サイゼリヤ・堀埜一成社長)と、政府支援を求めている。
飲食店各社が生き残りをかけてテイクアウトや宅配などに参入するなか、外食で増収増益となったのが、ケンタッキーフライドチキンを運営する日本KFCホールディングスや日本マクドナルドホールディングスだ。巣ごもり需要に応えるテイクアウト、宅配サービスの拡充で数少ない勝ち組となった。
■▼【外食】“自粛で倒産、店舗閉鎖などが続き7割が赤字”
■コロナ収束までいかに“耐え忍ぶか”が勝負
コロナで壊滅的な打撃を受けている観光・レジャー産業。「GoToトラベルで一時的に回復基調を見せましたが、再度の緊急事態宣言で冷や水をかけられ、先行きがまったく見えません」。コロナ収束まで人件費、店舗の閉鎖、DXによる経営効率化などの構造改革で耐えるしかない。JTB、HIS、KNT−CTホールディングスの大手3社は、大幅な店舗縮小・削減でデジタル化+ネット専業サイトとの差別化を模索する。東京オリンピック・パラリンピック需要を見込んでオープンラッシュが続いていたホテル業界も厳しい。最高級ホテルの帝国ホテルが30泊36万円などの長期滞在プランを販売、他社も追随の動きがある。「一方で、ビジネスホテルでは、黒字に戻している企業も出てきています」
外出自粛の直撃を受けているのはレジャー産業も同じだ。根強い人気を誇る東京ディズニーランド(オリエンタルランド経営)も、長期休園、時短営業、入場制限などで大幅に収益が悪化している。
■▼【観光・レジャー】“GoTo停止も大きな打撃に”
社名横の矢印は前年比で営業利益が増えていれば上向き、前年比で営業利益が減っていれば下向き。業績はとくに注記のないものは、2021年3月期通期予想。黒字、赤字などの利益は営業利益(2021年3月1日時点)。グループ会社がある場合は連結。売上高、営業利益以外の表記の企業は両者の代わりに用いる指標で比較。金融は一部通期予想がないため中間決算で比較。
(奥田 由意、工藤 千秋)