新卒採用の面接では社会人としての自覚が足りない面接官もいる(写真:jessie/PIXTA)

学生は就活の準備に多くの時間を割く。どんなに準備しても不安だろう。不安だが、期待は大きいはずだ。相手は立派な企業につとめる社会人だ。自分に足りない部分はあるとしても、学ぶことは多いはずだ。

こういう学生の期待を裏切る企業がかなり多い。面接官の発言を読むと、社会人としての配慮や自覚が足りない内容が多い。とくに多いのは女性差別だ。

どのような発言があるのかを検証してみたい。使用データはHR総研が昨年6月に楽天グループ「みん就」と共同で行ったアンケート調査だ。2021年卒業予定の就活生に「説明会や面接を通じて、企業の社員や人事に言ってほしくなかった言葉があれば、教えてください」という設問に対する回答からピックアップしている。

女性差別の発言パターン

「人事に言ってほしくなかった言葉」に関するコメントを書く学生は女子が多い。「〜〜女子大」という大学名が目立つし、大学名ではっきりしなくても内容で女子学生とわかるケースが多い。面接官が「女性」「結婚」「出産」という言葉を使うのは女子学生を相手にしているときだ。


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女子が問題にするパターンにはいくつかの傾向がある。まずは女子の職業適性だ。仕事の中身よりも職場環境に合わないというパターンが多い。

「女性がその仕事をするのは難しい」(上位私立大・文系)

「女性は働きにくい環境だけど大丈夫?」(その他国公立大・文系)

「女性はこの業界において男性より信頼を獲得しがたい傾向がある」(中堅私立大・文系)

面接官は差別と自覚していないのかもしれない。しかし、男子学生に対して「男性は○○」という決めつけをしないのに、女子学生に対して「女性は××」と形容すれば、それは差別だ。

「女性はお客様の子どもの面倒を見るのが得意なので、店内の受付や子どもの相手でお客様家族の印象を高めます、という発言」(その他私立大・文系)

「女の子だしね〜〜〜」(上位私立大・文系)

「会社に入って達成したい具体的な目標はと聞かれたときに『たとえば、女所長になるとか』と言われた」(旧帝大クラス・文系)

 「女性活躍」というカンバンがかかっていても、素直に信じる学生ばかりではない。偽善、欺瞞を感じとる女子学生もいる。

「女性が働きやすい職場(実際は違う)」(早慶大クラス・文系)

「女性を積極的に『活用』している」(早慶大クラス・文系)

多くの企業は採用ホームページで女性活躍を掲げ、「女性が働きやすい職場」とPRしているが、カンバンに偽りがあり、面接では本音が出る。偽りのカンバンのままで採用面接トークをするわけにはいかないのだろう。

結婚・出産、家族についての質問

企業がとくに気にしているのが、「結婚」と「出産」。面接官の発言を読むと、結婚・出産をしない女性を歓迎しているようにさえ見える。

今回のコメントにはなかったが、面接官に「彼氏はいるか? 結婚する予定なのか?」というプライベートに立ち入った質問をされた女子学生もいる。こういう質問はすべてアウト、コンプライアンス違反だ。

「結婚や出産などの意志」(その他国公立大・文系)

「結婚・出産はするのかを遠回しに聞かれたのは嫌だった。女性活躍を掲げる企業だったので、どんな女性も活躍できる環境ではないのだと感じた」(上位国公立大・理系)

「公正な採用選考の基本」は、応募者の基本的人権を尊重すること、適性・能力のみを基準とすることだ。厚生労働省は「配慮すべき事項」も具体的に規定して公開している。採用に関わる部署にいるなら勉強する必要がある。不適切な採用選考としてもっとも多いのは、「家族に関すること」だ。

「お父さんはどこに勤めているの?」(上位私立大・文系)

「家族の職業、兄弟の学歴」(旧帝大クラス・文系)

「家族の仕事内容まで聞かれたのはびっくりした」(中堅私立大・文系)

生活のいろんな場面で「頑張って」が使われる。スポーツで「頑張れ」は定番の声援。日常会話でよく使われるのは「頑張ってください」。善意に満ちたはげましの言葉だ。

採用面接でもよく使われる。一生懸命面接に取り組んだ学生を激励する意図があるのかもしれない。しかし、学生には別の言葉に聞こえる。「さよなら、ご縁がなかったですね」と響くのだ。

この「頑張ってください」を学生は聞きたくない。言ってほしくない代表格の言葉だ。以下にいろんな大学の学生のコメントを挙げるが、要するに「うちでは採用しないから、よそで頑張って。いい結果が出るといいねぇ」という他人事のあいさつだ。「頑張って」と言う面接官は善意の人だろうが、学生はヘコんでいる。

「就職活動頑張ってね」(その他私立大・理系)

「他の企業の選考も頑張ってください」(早慶大クラス・文系)

「冬まで面接を頑張ってほしい」(その他私立大・文系)

「頑張ってください」のバリエーションとして「お祈りします」がある。

「就職活動がうまくいくことをお祈りします」(その他国公立大・文系)

「悔いのない就活になるようにお祈りしています」(早慶大クラス・理系)

話を聞かない大人

コミュニケーションの基本は聞く力。傾聴力とも言う。ビジネス研修でまず教えられるのは、よく聞くこと。相手の言葉をさえぎらず、言葉を引っ張り出していくと人間関係もビジネスもうまくいく。

人は気持ちよく話すと、聞いている相手に好意を抱くようになる。逆に話をさえぎられると、人間性を否定されたように感じ、嫌悪、憎悪するようになる。

話をまともに聞こうとしない大人はけっこう多い。面接官の中にもいる。早く話を切り上げ、面接を終わらせたいのかもしれない。学生に興味がないので、どう思われても構わないのだろう。

こういう面接官がいつも不作法なわけではない。客先との打ち合わせでは、ホンネを引き出す優秀なビジネスマンであるかもしれないが、学生にとっては傲慢な大人にすぎない。

もし出くわしたら、反面教師として学ぶといいだろう。つまりこんな言い方をすると相手に嫌われる。そんな大人にだけはなりたくないと思うと、少し成長できるはずだ。

「君のような人はたくさんいる」(旧帝大クラス・理系)

「『第一志望です』といったところ、『みんなそうやって言うんだよね』と返された」(旧帝大クラス・理系)

「そうじゃない」(早慶大クラス・文系)

「それは弊社じゃなくてもできるのではないか?」(旧帝大クラス・文系)

面接官は学生の本質を見抜いたと思って発言しているのだろう。しかし、本質を見抜いていたとしても否定的な言葉は人を不快にする。ある学生は、「考え・価値観・意見は人それぞれ」と書いているが、それがダイバーシティの本質だ。画一的な見方しかできない面接官はビジネスマンとしての適性に欠けていると思う。

面接官失格のマナー違反も

他社選考に関する質問や、内定承諾後の就活中止を要請(強制)する企業は相変わらず多く、「ウソはつきたくない」が、「本当のことを話すとマイナスになる」と悩む学生は毎年多い。

「残業は仕事に付きもの」と学生に説教する企業もある。


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「企業のトップが長く働くことを美徳とするような発言を聞いたときは、時代錯誤であり、日本の労働生産が著しく低いという現状を全く顧みることができていないという思いを抱き幻滅した」(早慶大クラス・文系)

面接官失格と思えるマナー違反もある。「名前を間違えられた」「面接に遅れてこられたのに謝罪が一切ない」「浪人・留年に触れること」「面接中に一人称を『俺』」「お前」(その他国公立大・文系)。

いろんな面接官がいるが、もちろん学生に強い印象を与え、「こういう大人になりたい」と憧れることもある。プラスの経験、マイナスの経験を積み重ねながら成長していく。それが就活の最大の効能なのかもしれない。