広島・中村奨成が今季初めて一軍昇格を果たし、いきなり4月16日の中日戦で「2番・レフト」としてスタメンに名を連ねた。第3打席で鈴木博志から二塁打を放つなど、1安打2四球(出塁率.750)の活躍で期待に応えた。

 広陵高校(広島)から何度も中村のプレーを目の当たりにし、取材してきた者として「よかったなぁ」という祝福と同時に、新聞紙面の片隅に書かれていた"プロ初安打"という文字に、少なからず驚きがあった。


4月16日の中日戦でプロ初安打を記録した広島4年目の中村奨成

 あれだけ高い評価を受けてプロに進みながら、1、2年目は一軍昇格はなし。昨年もわずか4試合の出場にとどまった。「中村はもう終わったのか......」という声も少なからず聞こえてきた。それだけにプロ4年目にしてようやく放った"プロ初安打"に安堵したことは、容易に想像がつく。

 3月からウエスタンリーグの試合でセンターやレフトを守るなど、「外野手・中村」の気配は感じていた。181センチのスラリとした長身と、50mを6秒そこそこで走る俊足、そして甲子園で何度も披露した鉄砲肩......外野手に必要な要素を中村は兼ね備えており、それだけに驚きはなかった。

 ただ高校時代の中村は、捕手として輝いていた。3年夏の甲子園で個人最多本塁打記録となる1大会6本塁打をマーク。さらに、俊足・強肩の大型捕手として一躍脚光を浴びた。

 その当時、誰もが「捕手・中村」を絶賛するなか、少し違和感めいたものを感じていた。その理由は、中村から「根っからの捕手」という匂いを感じなかったからだ。

 本来は野手として優秀な選手を、チーム内に適役がいないという理由でマスクを被らせることがあるのだが、中村の場合もその雰囲気が漂っていた。

 現役選手でいえば、ソフトバンクの栗原陵矢もそうだ。春江工業高(福井)時代に俊足・強肩の捕手として高い評価を受けていたが、パッと見た感じ遊撃手がマスクを被っているようにしか見えなかった。根っからの捕手というよりも、どこかスマートで、捕手特有の泥臭さがなかったのだ

 じつは2017年のドラフト前、ある雑誌で中村について「センターで鍛えたら、新庄剛志クラスの選手になれる」と書いたら、多くの意見が寄せられた。とはいえ、中村の足と肩を最大限に生かすのは、捕手よりも外野手じゃないかという思いはずっと持っていた。

 この先、本格的に外野手転向となれば、先述した栗原か、もしくはヤクルト黄金時代に7年連続ゴールデングラブ賞を獲得した飯田哲也が目指す理想像となる。

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 どちらも高校時代は俊足・強肩の捕手として鳴らし、プロ入り後に外野手へとコンバートされ、才能を開花させた選手である。彼らのように中村も、外野手転向がプロ野球選手として大きなターニングポイントになるような気がしてならない。

 捕手として取り組んだ3年間で学んだことは、外野手としても大いに活用できるはずだ。打者のスイングとファウルの飛び方で打球方向を予想する"嗅覚"は身につけているだろうし、今まで見えているようで見えていなかった投手のちょっとした変化にも気づくだろう。気がついたら、球界を代表する外野手になっている可能性はある。

 今シーズン、プロ初安打から何本のヒットを積み重ねられるのか。2017年の夏のような輝きを、もう一度見せてくれると信じている。中村奨成の挑戦は始まったばかりだ。