東武野田線の清水公園〜梅郷間が高架化されます。同線は全線にわたり複線化も進んでいますが、今回の区間は単線のままでの高架化です。その理由と今後どうなるかを、列車ダイヤから探り考察してみました。

踏切の除却が主目的の高架化事業 費用の負担割合は?

 東武野田線(東武アーバンパークライン)の清水公園〜梅郷間(千葉県野田市内)が、2021年3月28日(日)から高架に変わります。この連続立体交差事業(高架化)により11か所の踏切が廃止される計画です。この区間は、地上時代(現在)は線路1本の単線ですが、高架化も単線のままとなります。

 野田線の沿線は住宅開発が進み、複線化の推進や急行列車の新設が行われています。この区間も高架化して線路を新しくするならば、ついでに複線化しても良さそうです。なぜ、この区間は複線化されなかったのでしょうか。そこには野田線の利用状態を踏まえた東武鉄道の判断があるようです。


東武野田線(東武アーバンパークライン)で使われている60000系電車(画像:写真AC)。

 連続立体交差事業は踏切の解消を目的としています。鉄道側は踏切を優先的に通行できるため、立体交差化には消極的です。したがって、道路交通の改善で利点の多い自治体側が事業主体になります。

 清水公園〜梅郷間の事業費は約353億円。負担割合は事業主体の千葉県が324億円、東武鉄道が約29億円でした。鉄道側の負担は、立体交差化で利点が発生する部分です。たとえば「踏切の解消によって列車の速度を上げられる」「途中にある野田市駅の拡張により新しく機能的な駅になる」などです。

 立体交差化とあわせて複線化すると、鉄道側の利点はさらに大きくなりますが、事業費全体も膨らみ、負担割合も増えます。したがって複線化には慎重になります。たとえば小田急電鉄の連続立体交差事業では、連続立体交差についての鉄道の負担は14%でした。しかし、2本の線路を4本に増やす複々線化の費用は、鉄道側が100%を負担しています。

始まりは醤油運搬路線 延伸・合併を経て東京の外周路線に

 野田線の清水公園〜梅郷間についても、複線化すれば線増分は東武鉄道の負担となります。東武鉄道はこの区間の需要を予測し「複線化は不要、あるいは時期尚早」と判断したといえそうです。ただし、野田市駅は現在の1面2線から2面4線に拡張されます。将来の複線化の布石かもしれません。

 野田線は埼玉県さいたま市の大宮駅と千葉県船橋市の船橋駅を結ぶ全長62.7kmの路線。東京郊外北東部の外周を巡る形です。そのルーツは1911(明治44)年に開業した千葉県営鉄道です。野田の醤油を柏へ運び、柏から官営鉄道(現在のJR常磐線)で全国へ出荷する目的でした。その後、県営鉄道は民間企業の北総鉄道に払い下げられました。

 その後、北総鉄道は柏〜船橋間の船橋線を開業し、野田線を春日部駅(埼玉県春日部市)へ延伸します。さらに大宮〜春日部間を開業して野田線に組み入れました。この直前に北総鉄道は総武鉄道に社名を変更しています。ちなみに北総鉄道は、千葉県北西部を走る現在の北総鉄道とは異なる会社です。総武鉄道も、JR総武本線の前身とは別の会社です。


東武野田線(東武アーバンパークライン)。青い点線入りの部分が単線区間(国土地理院の地図を加工)。

 1944(昭和19)年に東武鉄道は総武鉄道を合併し、野田線と船橋線をあわせて野田線としました。現在の東武野田線の誕生です。大宮駅でJR東北本線、春日部駅で東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)、流山おおたかの森駅(千葉県流山市)でつくばエクスプレス、柏駅(同・柏市)でJR常磐線、新鎌ケ谷駅(同・鎌ケ谷市)で新京成電鉄と北総鉄道、船橋駅でJR総武本線、京成電鉄と連絡します。東京都心から放射状に建設された路線を結ぶ「ヨコ糸」路線として機能しており、全区間を通して乗る人は少ないといえます。ちなみに、大宮〜船橋間はJR線を乗り継いだ方が早く着くようです。

区間を分けると… ダイヤに輸送需要が反映されている

 野田線は複線化と急行列車の運転で所要時間短縮の努力を続けています。2016年までは臨時特急を除き各駅停車のみ。しかも柏駅を境にほとんどの列車の運行が分断されていました。これは同駅がスイッチバック構造になっているためです。しかし、2016年から急行を設定し、大宮〜船橋間の全線直通列車が増えました。2017年からは夕刻以降に特急「アーバンパークライナー」が運行されています。

 野田線の輸送状況は列車ダイヤに反映されています。そこで市販の時刻表を元に、2021年3月13日現在のダイヤグラムを作ってみました。タテ軸は駅、ヨコ軸は時間です。列車はナナメの線で示されます。数字だけの時刻表と違って、運行状況がよくわかります。


平日ラッシュ時から昼頃にかけての野田線のダイヤ。青線は急行、緑線は区間急行(列車ダイヤ描画ツール「OuDia」で作成)。

 細い線が各駅停車、青い線が急行、緑の線が区間急行です。急行と区間急行は停車駅に印を付けました。急行は高柳駅(千葉県柏市)で先行する各駅停車を追い越しています。複線、単線、追い越しあり。列車の種別は各駅停車、急行、区間急行、特急と、列車ダイヤ好きにはフルコース料理のような面白さがあります。

 午前7時台と8時台は大宮〜春日部間、柏〜船橋間の運行密度が高くなっています。大宮や船橋からJR線に乗り換えて東京方面への通勤通学需要が多いとわかります。次に密度の高い区間は柏〜運河間です。つくばエクスプレスに乗り換えできる流山おおたかの森駅へ向かう人が多いと思われます。これらの区間はすべて複線化されており、列車もほぼ等間隔です。全体を俯瞰すれば、野田線は春日部通勤圏、柏通勤圏、船橋通勤圏に重点を置いているといえます。

残る単線区間 春日部駅の高架化計画とともに複線化なるか

 単線区間は春日部〜運河間です。まもなく高架化される区間も含まれます。ダイヤからも列車の運行本数が少ないことがわかります。ただし、この区間はすべての駅で行き違いが可能となっているため、設備をフル活用して運行本数を確保しています。複線化すると列車の運行本数を増やせそうですが、現在でも朝の混雑時間帯は約7分間隔、日中も約10分間隔ですから、ほかの東京近郊路線と比較しても遜色ない運行本数といえるでしょう。

 複線化の優先順位としては、伊勢崎線に接続する春日部駅側かもしれません。そしてよく見ると、もう少し増発できそうな「隙間」があります。

 この列車ダイヤに回送列車は反映できていません。野田線は七光台駅(千葉県野田市)付近に車両基地があるため、回送列車が「隙間」に設定されているのかもしれません。しかし、需要が高ければ回送車両も客を乗せて営業運転するでしょうから、やはりこの区間はダイヤに余裕がありそうです。


特急「アーバンパークライナー」にも使われる500系電車「リバティ」(画像:写真AC)。

 東武野田線を全線複線化して運行本数を増やせば、沿線はさらに宅地化が進みそうです。春日部〜運河間は複線化できそうな用地もあります。しかし単線の鉄橋が多く、複線化のコストは大きいでしょう。費用対効果を考えると、乗客数の増加見込みがないと踏み出せません。いずれにしても春日部〜清水公園間が単線のままでは、清水公園〜梅郷間を複線化しても、列車の本数を増やしにくいといえそうです。

 ところで、春日部駅とその付近については連続立体交差の計画があります。事業主体は埼玉県で、同駅を高架駅とし、周辺の10か所の踏切をなくします。同駅の野田線ホームは、現在の1面2線から2面4線に拡張され、伊勢崎線と直通しやすい線路配置になるとのことです。これが春日部〜清水公園間の複線化のきっかけになるかもしれません。