2021年の1月に、それまで所属していた事務所から独立してフリーでの活動を始めた、女優の前田敦子さん。AKB48創成期からの中心メンバーであると同時に、「あっちゃん」の愛称で絶対的なエースとして活躍しました。
21歳でグループを卒業後は、数多くの映画やドラマに出演し、近年では女優の評価も確実なものになりつつあります。プライベートでは2019年、27歳で出産。男の子のママに。

30歳を目前にし、ますます輝きを増す彼女に、仕事のこと、子育てのこと、今感じていることを語っていただきました。


前田敦子さんインタビュー

前田敦子さんインタビュー。「己の心に我慢をせず、楽しいと思えることに挑戦したい」



――AKB48のメンバーとして、デビューしてまもない頃から所属していた事務所を卒業し、個人事務所を設立。フリーの女優として活動を始めるに至ったきっかけはなんだったのでしょう。

「いちばんの転機は、子どもが産まれたことです。妊娠中に自分自身や家族のこれからについて、考える時間がありました。10代からエンターテイメントの世界で走り続けてきましたから、妊娠・出産・育児をきっかけに『芸能活動を一度お休みする』ことも考えていたんですが、出産を経て、また新しい感覚が生まれました。

私は自分の息子に、“人生にはいろんな選択肢がある。だから己の心に我慢をせず、楽しいと思えることにはどんどん挑戦していって”と伝えたいんです。そうなると、母である自分が、いちばんのお手本になる存在でいたい。だとしたら、自分自身も夢をもち続けながら、働いている姿を見せてあげることが、子どもの背中も自然と押してあげられるのではと。

そしてこれは、ちょっと私のわがままかもしれないんですけれども、“子育てしながら働くのだったら、新しいこともしてみたい”という思いもあって。AKB48時代も卒業が早かったですし、自分で自分に変化を与えながら生きていくのが好きなタイプなのかもしれません(笑)。

10代半ばから29歳まで所属していた事務所には、“前田敦子”という存在を、大切に育て、守っていただいたという感謝しかないですね。でも私も今年の7月で30歳になります。すべてを周りに委ねるのではなく、もう少し責任をもって仕事をしていきたいなと…。以前の前田敦子よりも、もっとかっこいい大人の女性になりたくて。実際に、もう大人ですしね(笑)。

事務所の皆さんにも今のような気持ちを素直にお話したら、『それはもう、応援するよ』と。背中を押してくださいました」

●何事もトライを続けると、最後は「楽しい!」にいきつく



――とはいえ、一般の会社勤めの身でも、転職や、辞めてフリーになる決断を下すには勇気がいるもの。前田さんの場合は国民的な認知度を誇る存在です。それゆえ独立に至るまでには、人一倍の葛藤もあったのではないかと思ってしまいます。

「はい。それはもうすっごい悩みましたし、怖い気持ちもありました。仕事のオファーの判断からスケジュール管理まで、ほとんど事務所におまかせ状態だった私が、裏方から表舞台に出るまでの仕事を、本当に一人でこなせるのかなって。

ただその一方で『挑戦してみてもいいのでは?』という気持ちも膨らんでいて。私、AKB48を卒業して、今年で9年目になるんです。卒業後は女優として活動させていただいていますが、お芝居の現場でもフリーの方って多いですし、時代的にも、個人で活動するのに寛容な流れが出始めている。だからやるだけやってみようと。


それで実際に始めたら、表に出る以外の作業も、意外と向いていたみたいで(笑)。最近、オフィシャルウェブサイト
を立ち上げたんですよ。これは大好きなクリエイターの皆さんにお声がけし、力をお借りして、みんなでつくり上げたもの。『公式サイトをつくりたい』と思い立ったところから、わずか2か月で完成しました。

WEB制作なんて、私にとっては本当に未知の体験の連続で! でもやったことがないから『できない』『わからない』で終わるのではなく、やってみたからこそわかったことがたくさんあったし、何事もトライを続けると、最後は『楽しい!』にいきつくと、ひしひしと感じた体験でした」

●舞台出演が決まって喜んでいたら、息子が…



――2021年の5月には、野田秀樹さんの舞台NODA・MAPの新作『フェイクスピア』への参加も決定しています。

「野田さんから突然ご連絡をいただき、ワークショップオーディションに参加させていただいたのちに、出演させていただけることになりました。仕事は出会いとタイミングだと思うので、今、独立後に、また新たな機会をいただけて参加できることには、感謝しかないです」

――NODA・MAPの出演が決まったと連絡があったときに、息子さんとの感動的なエピソードがあったそう。

「連絡を受けたとき、たまたま家にいて。私、すごく嬉しくて、珍しく大声で『やったあ!』って喜んでいたんです。そうしたら、なんと息子が走ってきてハグしてくれて。嬉しさがさらに倍増(笑)。と同時に、ああ、お母さんの気持ちって、こんなにも子どもに伝わるんだなと痛感しました。だからもっと、楽しい顔を見せてあげないとって思いましたね」

●30歳という節目の年を前に



――新型コロナウイルスの流行でいろんなことが変わりましたが、前田さん自身の変化にも影響を与えていますか?

「ひとつのきっかけにはなったと思います。コロナ禍で、1年があっという間に過ぎちゃったという感覚があって。『このままもう1年同じように過ごすの? そしたらすぐ30歳だよ!』と。なので、タイミングとしては大きかったですね」


――今年の7月に30歳になります。なにか思うところはあるのでしょうか。

「そんな大それた思いはないのですが、節目なのかなという感じはしています。あと30代は大人の仲間入りをようやく少しさせてもらえる年齢になるのかなと。いきなりなにかが変わるわけではないと思いますが、なんだか、どんな30代を過ごせるのか楽しみでしょうがないです」

――スピード感、決断力、そして決めたら貫く芯の強さが前田さんの魅力です。

「自分の心に対して正直でいたい、と心がけているからかもしれません。というのも、心の中がブレてしまい『なんだか思っていたのと違う方向へ行っている気がする』と、うつむいてしまった経験をもっているからだと思います。だからこそ、『迷ったら、より楽しくいられるにはどうしたらいいか?』を基準に。そうすると心がフラットな状態に近づけるし、現実もポジティブな方向へと変わっていく気がしています」

今の心境を素直に語ってくださった前田さん。後半は子育てを中心に、彼女がプライベートのなかで感じていることを伺います!

<撮影/サトウノブタカ 取材・文/石井絵里>

【前田敦子さん】


1991年生まれ、千葉県出身。AKB48の1期生として活動。現在は舞台や映画を中心に女優として活動する。今年は映画『劇場版 奥様は、取り扱い注意』(3月19日公開予定)、『バイプレイヤーズ〜もしも100人の名脇役が映画を作ったら〜』(4月9日公開予定)、『くれなずめ』(4月29日公開予定)の出演、舞台NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』(5月24日〜7月11日、7月15日〜25日)などが控えている。