要件に適合させるためにはクラウン以外の選択肢はない

 街なかで見かける白黒カラーの警察パトロールカー。正式には「無線警ら車」と呼ぶが、そのほとんどはトヨタ・クラウンとなっている。過去にはスバル・レガシィのパトロールカーも存在していたが、だいたい6年を目途に更新されているので、その姿を見かけることも少なくなり、ますますクラウン一択といった雰囲気になっている。なぜ、パトカーはクラウンでなければいけないのだろうか。

 まず、いわゆるパトロールに使われている無線警ら車については警察庁が入札によって一括購入している。そのため警察庁の定めた仕様を満たしていなければならないのだが、そこには室内の広さや耐久性なども含めて、いくつもの条件がある。車種選定でわかりやすい条件としては「4ドアセダンであること」、「2500cc級であること」のふたつがあげられる。細かいことをいえば、5名乗車であることや排ガスレベルについても規定がある。

 そして、いまやセダン型ボディが絶滅傾向にある国産車において、この条件を満たすモデルはほとんど存在しない。「2.5L級4ドアセダン」という条件だけで絞ったとしてトヨタ・クラウンのほかに、日産フーガとマツダMAZDA6くらいしか選択肢が思い浮かばない。さらに警察庁が入札制度をとっている限り、そこに参加するメーカーからしか選ぶことができない。そして、結果的にトヨタ一社が応札するという状態になっている。

 なぜなら、単純に2.5L級セダンであればいいというわけではなく、まとまった台数を架装して納入することができて初めて入札に参加(応札)することができるからだ。トヨタ以外のメーカーが応札しないのは、パトロールカーがけっしておいしいビジネスではなく、耐久要件などを満たすための試験を行うことにコストをかけるだけのメリットがないと考えているからだろう。

使用状況を考えると「高いスペック」が重要な要素

 とはいえ、応札が一社になっているのは競争が働かないということで、警察庁も良しとしているわけではなく、条件を改定するなどして複数社の応札を求めている節はある。とはいえ、さまざまな装備を積み、また屈強な警察官も乗せた状態で逃走車両の追跡など緊急走行が必要となるパトロールカーには、通常の車両よりも高いスペックが必要であり、排気量などの条件を下げるのは難しいのも事実。そして「2.5L級4ドアセダン」という条件が外れない限り、結局はクラウン一択であり続けるのだろう。

 噂の段階だが次期クラウンはセダンをやめてSUVスタイルになるという話がある。そうなると、近い将来に無線警ら車の要件を満たすモデルがなくなってしまう可能性も否定できない。たしかに従来の流れをみると、数年は旧型をそのまま生産して対応する可能性もあるが、いずれにしても無線警ら車の要件を見直さなければ、一社も応札しないという事態になってしまう。

 また、日本政府としてカーボンニュートラルを目指しているなかで、いつまでもエンジン車にこだわった要件としておくこともあり得ないといえる。実質的な選択肢のなさ、カーボンニュートラルを目指す政策に合致させるといった背景から、無線警ら車の要件が変わってくる可能性はおおいにある。そうなれば、多様なモデルをベースにしたパトカーが登場する未来がやってくるかもしれない。

 【12月14日13:30】一部記事内容を修正しました。