2019年の「東京モーターショー」が終わったころ、最も印象的だったクルマとして「Honda e」(ホンダe)を挙げていた安東弘樹さんが、ついに実車で公道を走ることになった。電気自動車(EV)の購入もありえそうな安東さんによる、ユーザー目線での試乗レポートだ。

※文と写真はマイナビニュース編集部の藤田が担当しました

安東弘樹、「ホンダe」に乗る!


○ユーザー目線で見てあり? なし?

ホンダeはホンダが都市型コミューターを志向して開発したEVだ。標準グレード「ホンダe」と上級グレード「ホンダe アドバンス」の2種類があり、前者は航続距離(WLTCモード)が283キロで価格が451万円、後者は航続距離が259キロで価格が495万円となっている。

2車種の主な違いは装備だ。アドバンスだけの装備は「Honda パーキングパイロット」(自動駐車)、「マルチビューカメラシステム」、「プレミアムサウンドシステム」、「100V AC電源」、「センターカメラミラーシステム」など。試乗したクルマはアドバンスだった。

試乗の拠点は神奈川県横浜市の「横浜ハンマーヘッド」。そこから高速道路で大黒ふ頭に向かい、帰りは一般道を走った。出発すると、すぐに安東さんは航続可能距離を気にし始めた。

「ホンダe」の性能は最高出力136馬力、最大トルク315Nm。「ホンダe アドバンス」は同154馬力、315Nm。トルクの大きさは3リッターのV6エンジンに匹敵するという


安東さん(以下、安):楽しみなのは、今回の試乗でどのくらい(バッテリーの充電が)減るかですね。

マイナビニュース編集部(以下、編):都市型コミューターということで、航続可能距離はある程度、割り切って作ったらしいですが、カタログで259キロということだと、東京都内から箱根あたりまで行くのには少し不安ですかね?

安:そうですね、山道もありますし。まあ、下り坂でどのくらい回生(※)するかも大事になりますね。

※編集部注:ハイブリッド車やEVは、減速エネルギーを電力として回収してバッテリーに貯められる仕組みになっている。下り坂を回生ブレーキで減速しつつ走っていると、バッテリーに電力が溜まっていくので航続可能距離がどんどん伸びていく。

安:パドルがあるのは嬉しいですねー! エンジンブレーキのように使えるので、ありがたいです。

「ホンダe」のステアリングには指で操作するパドルが付いていて、ここで減速度(アクセルペダルを緩めたとき、どのくらい回生を働かせるか、どのくらいの強さで減速するか)を調節できる


安:このクルマ、デザインがいいな! 好感が持てますね。シンプルで、塊感がある。「塊感の塊」みたいなデザインですね。外側に向かって線が伸びていくような、線が収束していないデザインは嫌いなんですけど、これはいい! フィアット「500」などもそうですけど、塊感のあるデザインが好きですね。

編:デザインがいいし、小さくて運転しやすいクルマなので、ハイブリッド車バージョンが100万円台くらいから買えるのなら、欲しいですね。最悪、先進的な装備がなくてもいいので、価格を抑えてもらえると……。

安:そんな風に思っている人って、結構いるかもしれませんね。カッコいいですもん。これなら、デザインだけで欲しくなるかもしれません。

ダッシュボードにはパネルが横に並んでいて、助手席の人がナビを設定したりもできるのだが、他のクルマと同じで、走行中だと、助手席側からでも目的地検索のような細かい操作はできなかった


編:開発者の人は、初期段階で欧州に足を運んで、市街地を走っているクルマを見てきたっておっしゃっていました。デザイン面でも相当、欧州市場を意識しているんでしょうね。

安:そう思います。

編:じゃあ、ホンダeと競合するのはミニのEVとかになるんですかね。

安:あー、そうですね! ミニのEVって乗ったことがないのですが、どんな感じなんですかね。

じゃあ、ちょっとだけ踏んで(強めに加速して)みましょう。スポーツモードにしてと……いきますね!

なるほどー、テスラのような過激な加速ではないですね。

編:背中がシートに押し付けられるような加速ではありませんでしたね。

安:ただ、EVのフィーリングに慣れると、ガソリンエンジンを積むクルマは少し、粗野な乗り物という感じがしてしまうかもしれませんね。航続可能距離は……今、バッテリーが96%で160キロ台という表示ですね。これは短いな……。

100キロ台といえば、メルセデス(安東さんが所有している「E220d 4MATIC オールテレイン」のこと)だと、「あと、これだけしか走れません」という意味の警告灯がつく距離なんですよね。たぶん、今日、ここまでの走り方を考慮した計算の結果として、この航続可能距離を表示しているんだとは思うんですけど(※)。

※編集部注:航続可能距離は、それまでの使われ方をもとにクルマが計算している。なので、試乗したクルマはひょっとすると、それまで撮影か何かで電源を入れたまま、長時間にわたり止められていたのかもしれない。

安:デジタルルームミラーなんですけど、思わず自分の姿を映そうとしてしまいますね。くせで(笑)。

編:鏡だったら映せますもんね(笑)。

「ホンダe アドバンス」に標準装備となっている「センターカメラミラーシステム」。ルームミラーを鏡にするか、カメラ×モニターにするかがレバーで選べる。カメラはクルマの後部に付いているので、当然ながらモニターに運転中の自分を映して見ることはできない


安:モニターにしていると、表面の反射で、ちょっと見にくいですね。よく晴れているので、日光の関係もあるのかもしれませんけど、切り替えられる普通の鏡の画像が、カメラで撮った画像に映り込んで、映像が二重になってしまい、焦点を合わせるのに少し苦労します。

編:鏡に映る像とモニターの映像が、混ざっちゃっている感じ?

安:二重に見えていて、視線を外してから戻すと一瞬、どっちを見ていいのか分からなくなりますね。

編:これは課題かもしれないですね。

安:あと、解像度の問題でしょうね、普通の鏡だと、私はミラー越しに後続車の車種がだいたい分かるのですが、今は、いまいち分かりませんね。スバル系ではあると思うんですけど、「XV」なのか「インプレッサ」なのか……。鏡に戻すと、エンブレムはもちろんナンバープレートの数字まではっきり見えますね。デジタルではそこまで見えません。この間の人間ドックで、視力はどちらも1.5だったんですけどね(笑)。

一般道を走っている時は、もっと解像度が良かったと思うですが、高速道路だと落ちるのかなー。

編:サイドミラーもカメラとモニターですけど、すぐに慣れるものですか?

安:そうですね。逆に、視線の移動が少なくなって、いいかもしれません。

編:車内にモニターがありますもんね。モニターは見やすいですか? 視線が遮られたりしません?

安:それは全然ありません。ステアリングも丁度、かぶらないですし。ただ、慣れるまでは多少、時間がかかるかもしれないです。鏡に慣れてますからね。鏡って、究極の解像度じゃないですか。そういう意味で、まだもうちょっと、モニターの解像度が上がってもいいのかなと思いますけど。

あと、このステアリングは嫌いじゃないですね。昔のホンダ車のオマージュだったりするのかな? ちょっとレトロな感じもしますね。触感もいい。メルセデスから乗り換えても、そんなにそん色がないといいますか。

乗り心地についていえば、快適は快適ですね。(右側を古いフィアット「500」が通過)あ、チンクエチェントだ、かわいいな。なんか、ホンダeとは正反対のクルマって感じがしますね。

編:バッテリーの具合はいかがですか?

安:充電が残り90%で、航続可能距離は150キロになっちゃいましたね……。

さっき、149キロまで減ってたんですけど、大黒ふ頭の下り坂で、いったんは155キロまで戻ってましたね。

編:回生でそこまで戻ったんですね。

安:あと、パドルをずっと使ってるんですけど、これはEVには必須ですね。ワンペダル(※)も試してみよう。

※編集部注:「ホンダe」はセンターコンソールにあるボタンで「シングルペダルコントロールモード」を起動できる。このモードだとアクセルペダルのみで加速、減速、停止の操作が可能になるので、急な減速が必要とならない限り、アクセルペダルのみのワンペダルで走行できる。

安:ワンペダルでもパドルが使えるのは面白いですね。減速度が選べるということか。減速度に選択肢があるのはありがたいなー! これは優秀だわ。減速度の調節幅は3段階ですが、これで十分です。

編:あと、ハンドルを切った時の動きなんかはどうです?

安:内燃機関を積んでいるクルマと比べても、全く違和感がないです。

編:助手席に乗っていても、だんだん、EVだという意識がなくなってきました。気を使って運転してもらっているとは思うんですが、急激な加速もないし、ワンペダルでぎくしゃくするわけでもないので。テスラ「モデル3」に同乗させてもらったときのワープするような加速も面白かったんですけど(笑)。

「これは日本のクルマの特徴でもありますけど、シートは平面的ですね」(安東さん)。もっと包まれ感が欲しいとのことだ


編:ホンダeって、乗り物として面白いですか?

安:そうですね、でも、乗っちゃうと、良くも悪くも普通かもしれませんね。ただ、日本の都市部をよく運転するような、エンジンを始動させる機会が多い人にとってみれば、ストレスはすごく少ないと思います。日常使いにはとてもいいと思うし、日本の人のライフスタイルにも、かなり合っているんじゃないかと思いますね。

あとは、リアルにいくらで買えるんでしょうね。自治体によって差はあると思いますが、補助金で70万円くらいは引いてもらえるのかなー。

「フロントガラスに細かい縦のラインが入ってますけど、何ですかね?」。運転中に安東さんが気づいたのは、後から確認したところによると、アドバンスだけの装備である「熱線」だった。視力自慢の同乗者(担当編集)でも、安東さんにいわれるまで全く存在に気付かなかったし、写真でも捉えきれなかったこの熱線なのだが、「一回気になりだすと、気になってしょうがない。ほんっと、細かいことが気になるんですよ(笑)」(安東さん)とのこと


編:安東さんって、マニュアルシフト(MT)が好きなクルママニアでいらっしゃいますけど、EVに対する反感は全く持っていないみたいですね。

安:全くないですね。むしろ、乗っていて気持ちいいなと素直に感じます。MTのスポーツカーが1台あれば、あとの所有車がEVになっても問題ないです。

編:ただ、安東さんは九州までクルマで、しかもほぼノンストップで走ったりされるわけですから、現状のEVだと、どれに乗っても航続距離は足りないですよね。充電のために何度も止まるのは煩わしいでしょうし。

安:そうですね。だけど、実は「DS3 クロスバック E-TENSE」というEVがありまして……。

急遽登場した電気自動車「DS3 クロスバック E-TENSE」。なんの話?(画像提供:グループPSAジャパン)


ホンダeを運転しながら、突如としてDSのEV「DS3 クロスバック E-TENSE」の話を持ち出してきた安東さん。この流れ、なんとなく「実は買おうと思っているんですけど」と続きそうだが、果たして? 次回はホンダe試乗レポートの後半をお届けします。

安東弘樹 あんどうひろき 1967年10月8日生まれ。神奈川県出身。2018年3月末にTBSを退社し、フリーアナウンサーとして活躍。これまでに40台以上を乗り継いだ“クルママニア”で、アナウンサーとして初めて日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。 この著者の記事一覧はこちら