社員のクチコミデータから「コロナ禍の中で評価を上げた会社」を抽出、1位は野村不動産がランクイン。

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コロナ禍の中、評価を上げた会社はどこか? (写真:KY/PIXTA)

「変化する時代に生き残る会社の条件」とは――。

日本は「働きがい」において世界でも最低水準にあるといわれている。しかしそんな日本のジョブマーケットや労働環境に地殻変動が起きている。


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ここ数年、政府主導の労働政策により、時間外労働の規制や、同一労働同一賃金、副業・兼業促進などが進められており、終身雇用・年功序列型賃金・新卒一括採用といった雇用制度の見直しや、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へと変化させる企業が出現し始めた。

そこにコロナ禍が加わり、リモートワークの普及や有効求人倍率が大幅に低下するなど、労働環境は大きく変わろうとしている。そんな中、着実に社員からの評価を上げている企業がある。

クチコミの回答を分析

当社が運営している社員クチコミ・転職就職サイト「OpenWork」は、厳密な審査を経て公開している1000万件以上の社員クチコミや会社評価スコアだけでなく、サイトには掲載していないがクチコミ回答時に「e-NPS」という情報を回答してもらっている。

この聞き慣れないe-NPSは、employee-Net Promoter Scoreの略称で、自社推奨度を表す指標だ。「あなたはこの企業に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度勧めたいと思いますか?」という質問に対し、1から10段階で評価してもらい、それを計算式に基づいてスコアを出している。NPSという自社の商品の推奨度を算出する、世界的にも信頼性の高い指標があるが、その社員版スコアという位置づけだ。

このe-NPSデータを活用し、コロナが流行する前の2019年のe-NPSと、コロナ禍の影響を大きく受けた2020年3〜8月のe-NPSを比較し、「コロナ禍で社員の満足度が大きく改善した企業」をピックアップした。

なおe-NPSの実数は公開していないが、投稿した社員による会社の評価スコアを基に算出する総合評価点を掲載した。総合評価点は、8つの評価スコア(風通しのよさ、人事評価の適正感、20代成長環境、法令遵守意識、待遇面の満足度、人材の長期育成、社員の士気、社員の相互尊重)で構成されている。e-NPS改善幅が著しい会社が、どの点を評価されているかについて、その8つのスコアの改善状況とあわせて見ていきたい。

では、上位にランクインした3社を見てみよう。

トップは野村不動産

1位となったのは野村不動産で、e-NPSの改善幅は2.211。評価スコアの改善状況を見ると、「法令遵守意識」「社員の相互尊重」「風通しのよさ」に関するスコアが大きく影響している。

コロナ前から取り組んでいた「働き方改革が進んでいること」への評価と、「先輩後輩・上司部下の関係にかかわらず風通しがよいこと」へのクチコミが多く見られた。激務や上下関係の厳しいイメージのある不動産業界からはかけはなれた組織へと改善していることが評価されているようだ。中には次のようなコメントがあった(掲載しているクチコミはすべて一部抜粋・投稿者の意図を変えない範囲で要約している)。

「自由闊達で、上司にも意見が言いやすい企業文化です。自らの意見を尊重してくれる文化があります。逆に言えば、よく考え、自らの意見をしっかり持ち、相手に伝えられる能力が求められます」(野村不動産、総合職、在籍5〜10年目)

2位は『SUUMO』などリクルートグループの住宅情報部門を担うリクルート住まいカンパニーが入った。e-NPSはコロナ禍の間に1.959改善していた。評価スコアでは「風通しのよさ」「待遇面の満足度」に関するスコアが大きく改善していた。コロナ禍で物理的距離が離れコミュニケーション上の問題が発生しやすい中、もとから形成されていた風通しのいい文化や、納得感の高い評価フィードバック文化が功を奏した形だ。

3位はKNT-CTホールディングス傘下の旅行会社、クラブツーリズム。改善幅は1.784を記録している。ただ、職種によって大きくコメントの性質が異なっていた。特に企画職・事務職では、直近で制度が整ったフレックス制や在宅勤務制度の恩恵をうけ、働きやすい環境となっていることへの高い評価が散見された。

4位アマゾン ウェブ サービス ジャパン、5位明治、6位全日本空輸(ANA)、7位はベアリングのトップメーカーである日本精工、8位日本総合研究所、9位資生堂、10位は電通グループでデジタルマーケティングを担う電通デジタルが入っている。


ランキング全体の特徴はどうだろうか。コロナ禍でも順調に業績を伸ばす業界のほうが、改善幅が高いというわけではなかった。また実際には、どこかの業界に偏ったランキングになるといったこともない。厳しい業績ともいわれている不動産業界や旅行業界、小売業界が上位にランクインしており、単純に業績の好不調が働きがいに影響を与えているわけではなさそうだ。

では、コロナ禍でも大きく社員からの評価、すなわちe-NPSを改善した会社にはどういった特徴があるのか。

e-NPSの改善幅と前述の8つの評価スコアの変化度の相関関係をそれぞれ調べていくと、特に相関が高かったのは、「待遇面の満足度(相関係数0.558)」「人材の長期育成(相関係数0.536)」「社員の相互尊重(相関係数0.471)」となった。詳細は割愛するが、相関係数が1に近いほど相関が強いことを表している。

なぜ上記のような項目の改善が社員からの評価につながりやすいのか。このコロナ禍の間に投稿されたクチコミの一部を紹介しよう。

コロナ禍でも評価を変えない

まずは、「待遇面の満足度」に関するクチコミだ。

「コロナの影響の中でも安定した給与があり、昇給および賞与の支給もされた。仕事のできない人が勤務年数を重ねたからといって過剰に評価されることはなく、妥当な評価が実施されている」(住友生命保険、一般職員、在籍5年未満)

「年俸=ベース+RSU(株式)トータルで1250万円ほど。毎年1〜2%の昇給。Amazonの人事評価の特徴は360度評価。自分の直属の上司のみならず、同僚や部下からの評価も反映されます。また昇格においても、直属の上司とは別の同僚と他部門の部門長からの推薦が必要になる」(アマゾンウェブサービスジャパン、ソリューションアーキテクト、在籍5年未満)

コロナでのリモートワークが進んで各自の仕事ぶりがわかりにくくなっている中でも、納得感の高い評価制度となっている会社では社員の満足度が高いクチコミが多くみられた。

続いて、「人材の長期育成」に関するクチコミを紹介しよう。

「研修の内容は、実務に即した製品の概念習得から、キャリア開発につながる語学研修、外部講師を招いて行う経営者育成のための研修など、質量共に豊富で、一生は学びであると考えておられる方にとっては理想的な環境といえる」(日本アイ・ビー・エム、営業、在籍10〜20年目)

「海外関連の仕事に携われるチャンスが多い。人材育成にはかなり力を入れており、投資も大きい。手を挙げてアピールし、成果を出せば、それなりに自分の成長を考慮したうえで、今後のキャリアを考えてくれる」(資生堂、事務職、在籍5〜10年目)

終身雇用の終焉や、メンバーシップ型からジョブ型への転換といったニュースが相次ぎ、自身のキャリアに対する意識が高まり、豊富な人材育成を用意している企業への評価が高まっていることが想定される。

最後に、『社員の相互尊重』についてのクチコミだ。

「個人を尊重し、「お前はどうしたい」と聞いてもらえ、一方的にやることを押し付けることはあまりない。目標を達成していれば、自らやりたいことは聞いてもらえ背中を押してもらえる環境」(リクルート住まいカンパニー、営業、在籍5年以内)

コロナ禍でコミュニケーションが希薄化し、社員同士の信頼関係が築きにくい中、元からチームワークの強い文化のある会社の評価が高まったクチコミが散見された。

業績悪化でも評価を上げる会社も

いずれの項目に関するクチコミも、コロナ禍において変化した社員を取り巻く環境に大きく関係する内容だ。コロナ禍の変化にしなやかに対応できた企業や、もしくは従前から今の環境に適した企業づくりができていた企業が、社員からの評価をあげた企業だと読み解くことができた。

また、全日本空輸(ANA)や42位の日本航空(JAL)といった、事業そのものがコロナの影響を大きく受けている企業でも社員からの評価を上げている点は驚きであった。投稿されたクチコミを覗いてみると、コロナの影響による不安の声は散見される一方で、「コロナに入る前から取り組んできた働き方改革によって、ライフステージに合わせた働き方が選べるようになっている」という点が高く評価されており、e-NPSが高まっているようだ。

最後に今回のランキングと分析について補足をしておきたい。

今回のランキングは各企業におけるe-NPSの改善幅でランキングを算出したものである。そのため、コロナが流行する前より社員からの評価が高い企業は、ランクインしにくい傾向にある。


そこで2019年の総合評価点が3.5点以上と高い企業の中から、コロナ禍にe-NPSを維持・改善した企業の上位5社を抽出した。従前より社員から選ばれる企業づくりをしているのにもかかわらず、非常事態でさらに評価が高まったということは注目に値する。