JR高円寺駅のガード下にある居酒屋「いろは亭 高円寺店」。店主は、俳優・浅利陽介(32)の高校時代の同級生だ。

「同級生の親父さんが、中野で同じ名前の居酒屋を経営していて、ヤツはそこと築地のうなぎ店で長く修業しました。ここをオープンしたのは2年前ですね。

 おすすめですか? やっぱり、うなぎ。串焼き、白焼き、かば焼きのどれも絶品。今日はうな重を食べようと思って昼めしを抜いてきたんです」

 待ち合わせの場所から店までの道すがら、浅利は笑いながら語ってくれた。

 のれんをくぐる。うなぎを焼く香ばしい煙と、従業員の威勢がいい「らっしゃい」の声に迎えられ、入口横のテーブル席に着いた。「オフの日に、ふらっと立ち寄ります。落ち着くんです」と店内をぐるりと見回す浅利。年齢的にはまだ若手だが、芸歴は28年になる。

 初めて大河ドラマに出演したのは8歳。竹中直人主演の『秀吉』(1996年、NHK)で、宇喜多秀家の少年期を演じた。以来、『麒麟がくる』まで9作に出演。江守徹19作、西田敏行13作、石坂浩二11作には及ばないが、年齢を考えれば、特筆すべきことだろう。

「芸歴が長いおかげです。CMデビューしたのが、4歳ですから。大河初出演の緊張ですか? なかったと思います。竹中さんたちには『チョロ助』と呼ばれて、かわいがられました」

 両親は、ともに教師。保育園時代に、習い事のひとつとして自宅近くの児童劇団入りをすすめられた。

「同世代の子供と舞台でピノキオの劇を披露したり、とても楽しかったです。大きな声で演じると先生がほめてくれるから、それが嬉しくて、もっと頑張っちゃう子供でした」

 そのころ、映画好きの父が持っていたチャップリンのビデオを観た。それがきっかけで、俳優に興味を持ったという。

「観たのは、『黄金狂時代』でした。無音声でモノクロの画面はシンプル。だけど、チャップリンの動きや表情に引き込まれました。帽子とチョビ髭の風貌が、当時の父と似ていたせいもあって、親近感を持った思い出があります」

 やがて、本格的に子役として活動をスタートさせる。時代劇の難しい台詞回しや所作がこなせた浅利は、子役として欠かせない存在だった。

 そして小学6年のとき、代表作のひとつである天童荒太原作のドラマ『永遠の仔』(2000年、日本テレビ系)に出演した。身体的虐待、性的虐待、育児放棄を経験した3人の子供が、病院の院内学級で出会い、成長後に再会して事件に巻き込まれてしまうストーリー。心理描写も多い難役だ。

「原作を読んでも想像すらできない世界でしたから、何もイメージしないまま現場に入りました。当たり前ですけど、たばこもナイフも女性の裸とも無縁の子供。撮影は、衝撃の連続でした。ただ、スタッフさんの熱量がすごかったことは、今でも覚えています」

 中学2年になり、「僕の転機になった作品を挙げるとしたら、これです」というドラマに出会う。昼ドラ『キッズ・ウォー3』(2001年、TBS系)だ。

「血のつながらない親と子供たちが生活をともにして、『家族のあり方』を模索する内容です。自分と同世代、しかも学生を演じるのは初めてだったから、“素のまま” で演じることができました」

 俳優業と学業を両立させながら成長した浅利は、大学の表現文化学科英語コミュニケーションコースに進学する。

「この学科を選んだのは、格好よく言えば英語を覚えて国際派の役者になりたかったから。だけど、『俳優で食いっぱぐれるかもしれないから』という思いもありました……。

 大学2年から3年に進級するころかな、仕事が忙しかったのに、時間ができると友達と朝までカラオケで歌ったりして、ほとんど授業に出られず留年しました(苦笑)」

 じつはこのころ、浅利は「俳優をやめたい」と思っていた。

「それまで自信を持って芝居をしていたんですが、監督のOKがなかなか出なかったことが重なったんです。『自分が演じたいこと』と、『自分に期待されていること』が一致しなくなっていたんです。その距離感が埋められなかった。

 あとは、同年代の役者さんが、監督さんやプロデューサーさんに猛アピールする姿を見て、『どうして僕は、自分を押し出すことができないんだろう』と悩んだこともありました。雑念だらけだったんです」

大河ドラマ『秀吉』出演時

 俳優を続けるか、やめるか。迷いに答えを出してくれたのが、劇場版も公開された人気ドラマシリーズ『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(フジテレビ系)に出演したことだった。

「山下智久さん、新垣結衣さん、比嘉愛未さん、戸田恵梨香さん。共演者は、みんな同世代。そんな僕たちが、回を重ねるごとに成長していく物語でした。

 それまで、時代劇ではとくにそうでしたが、周囲は大先輩の役者さんばかり。皆さんが僕の演技を引っ張ってくれるので、それに乗ればよかった。ある意味、“楽” だったんです。でも、この作品は、“自分たち” で作り上げなければならなかった。

 勝手が違うので、最初は周囲をうかがうように演技をしていました。だけど、みんな堂々としているんですよね。『いろいろ気にしているのは僕だけだ』と吹っ切れた。だから、この作品で僕は、すごく成長できたんです」

 最近は、水谷豊主演のドラマシリーズ『相棒』(テレビ朝日系)で、「警察嫌いの特別捜査官」役を演じている。

「2016年から出演させていただいていますが、今でも僕が最年少の出演俳優です(笑)。水谷さんは、35歳くらい年が違う大ベテラン。久しぶりに、ビリビリしたものを感じています。スタッフさんも職人気質の方が多くて、『相棒の現場だけをやっている』という方もいらっしゃるほどです。

 現場での水谷さんですか? チーム意識の強い方です。現場に入ると、まずは皆さんと握手をする。お会いする前は、ストイックで天才肌、人を寄せつけない印象があったんですけど違いました。とても刺激を受けています」

 大学の同級生と結婚して5年。「家では料理もしますよ」と照れ笑いする浅利に今後の目標を聞くと、しばらく考えて「(俳優としての)賞が欲しいです」と答えた。

「僕は、賞をチャンピオンベルトだと思っています。そのベルトを獲るためには、どうすればいいか。その過程が、俳優・浅利陽介を育ててくれると考えています。そして賞をいただいたとき、僕はどう変わるのか。それが楽しみなんです」

 そう言って目を輝かせたとき、注文していた、うな重が出来上がった。ふたを開けると、甘いタレの匂いがパッと広がり食欲をそそる。

「うん、やっぱり美味いですね。うなぎの身がホクホクしています。たまらないなあ」

 箸をすすめていると、店主の親方でもある父上が店に入ってきた。腰を浮かせ、「お邪魔しています」と律儀に挨拶する浅利。そして、その背中に「うなぎ、美味しいですけど、親父さんの味には、まだまだ勝てませんよ」と声をかけた。

 笑いに包まれる店内。この愛嬌が、みんなから愛される理由なのかもしれない。チャンピオンベルトを巻く日が、待ち遠しい。

あさりようすけ
1987年8月14日生まれ 東京都出身。コメディからシリアスまで幅広く演じる実力派。落語にも造詣が深く、春風亭正太郎のもとで稽古中。高座も経験した。最近では、ドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』第3話(フジテレビ系)にゲスト出演した

【SHOP DATA/いろは亭 高円寺店】
・住所/東京都杉並区高円寺南4-49-1
・営業時間/月・火・木・金・土曜11:30〜14:00(L.O.13:30)&17:00〜22:00、日曜・祝日17:00〜22:00
・休み/水曜

(週刊FLASH 2020年8月11日号)