日本は4月3日以降、外国人に対して厳しい入国規制を設けている(ロイター/Kim Kyung Hoon)

5月下旬、日本に20年以上住む筆者の知人は、父親がフランスで亡くなったと知らせを受けた。葬儀のために急いで国に帰ろうと支度しながら、ふと思った。「今出たら日本に戻ってこられるのだろうか」。

日本に住む、78万3513人の永住者を含む220万人のほかの外国人と同様に、彼も日本が新型コロナウイルスから自国を守るために定めた入国管理に関する非常に厳しい規則の対象となっている。

日本に家族を持つ人や働く人に衝撃

今後の通知があるまで、外国人は日本を出国する場合は、日本に入国できないリスクが伴う。4月3日より事実上、およそ100カ国の「リスク国」(欧州連合=EUやアメリカを含む)の領土を通過した外国人は、経由するだけの場合も含めて日本に入国することができなくなった。

この措置の対象は、長期滞在者や、日本人の配偶者・親などにまで及んでおり、ほぼ例外はない。近親者の死や、やむをえない商談でもこの対象外にはならない。これは、日本外に家族を持つ人や、日本で働いたり、学校に通っている人にとっては大きな問題だ。

特に日本で働く外国人の多くは、出稼ぎに来ている人が多く、日本に留まるか否かの選択は生死に関わる問題である。

日本と同様に、ほかのG7諸国も自国の移民に厳しい規制を課しているが、それぞれの国に生活基盤を持っている外国人が帰国することを許可している。カナダでは、永住者の家族でも入国できる。 日本とは異なり、外国人の経済的価値ではなく、こうした人たちの生活がまず考慮されているのだ。外国人の運命を決定するうえで、法務省にあたる省庁の裁量権も、日本よりもはるかに限定されている。

「日本に住んで40年になる。6月中旬にはフランスに帰らなければならないのだが、帰国できなくなった」と、駐日フランス領事顧問のイヴリーヌ・イヌヅカ氏も頭を抱える。

水面下では、各国の領事館職員が日本政府に自国民の窮状を訴えようと奔走している。外交官が切迫した事情を伝えても、法務省は無反応だ。「法務省ではなく、意思決定機関でない外務省を通さなければならない」と、あるヨーロッパの外交官は言う。

長期滞在者にまで影響が及ぶ日本による入国規制は人道上問題があるほか、ビジネスや研究にも障害が出る可能性がある。EUは日本を含む永住者や長期滞在者のヨーロッパへの帰国を禁止していないため、不平等な状況でもある」と、別のEU関係者は話す。

長期滞在者と日本人の違いは何か

報道によると、出入国在留管理庁は、今回の措置はパンデミックの拡大を遅らせるためのものとして、自らを正当化している。しかし、長期滞在者と日本人の区別は、健康上の理由から正当化できるものではない。両者とも海外から新型ウイルスを持ち帰るリスクは同じである。海外から来る人々がリスクなのであれば、日本人も同様に排除されなければいけない。

「長期滞在者の外国人が日本人よりもウイルスを持ち帰るリスクが高いなんてことがありうるだろうか」と、フランス外務省のケ・ドルセー氏は疑問を投げかける。

同省は、ヨーロッパの他の外交当局と同様に、日本の一方的な政策に特にいら立ちを感じている。なぜなら、ヨーロッパに滞在する日本人の長期ビザ保持者は、EUに自由に出入りできるからだ。

「コロナ危機が始まった当初、日本の当局はウィーン条約を反故にし、外交官に拘束の可能性を受け入れさせようとさえした」と、ヨーロッパのある関係者はいまだに信じられないという面持ちで語る。

ヨーロッパ企業も怒りをあらわにしている。5月12日には、ロビー団体である在日欧州ビジネス協議会が「非和解的な」体制を糾弾する声明を発表している。「私たちは優遇されることではなく、日本が外国人を自国民と同じように扱うことを望んでいる」と、ヴァレリー・モシェッティ理事は説明する。

原則としてすべての外国人を排除する政策は、外国企業に対する日本の魅力を損なうことにもなっている。北東アジアの地域拠点を日本に置く企業は、日本国外へ出張させることができなくなっている。こうした状況が続けば、次に事業の地域拠点をどこに置くかを検討する際には、台湾や韓国を選ぶ可能性が出てくるかもしれない。

「外務省は現在、問題があることを把握している。しかし、法務省は外国人のことについては議論に応じてくれない」とある外交官は言う。

「ビジネス客」という曖昧な区分け

5月21日付の日本経済新聞によると、政府は「ビジネス客と研究者、留学生、そして観光客」の順に3段階に分けて入国許可を緩和していくという。

しかし、そもそも法的に「ビジネス客」という区分けはないうえ、記事によるとコンビニのバイトとして必要な研究者や留学生も優先的に入国を許可するとしている。一方で日本で長年生活し、税金を納めてきた長期居住者についてはまったく触れられていない。

実際、冒頭のフランス人男性は、父親の葬儀でフランスに帰った場合、日本に再入国できない可能性がある。5月22日、井上一徳衆議院議員は、外務委員会において日本に住む韓国人男性が、母親の葬儀で韓国に行ってから日本に戻ってこられない例を挙げた。

このときも法務省は、「特段の事情」がある場合に限って再入国は認めているが、何が特段の事情にあたるかを示すことは困難だとして拒否した。母親の葬儀が特段の事情に当たらなければ、何が相当するというのだろうか。法務省は早く何が特段の事情なのか明らかにする必要があるだろう。

安倍晋三首相は5月26日、EU各国首脳との電話会談で、「ハイレベルの協議」を行うが、日本における外国人長期滞在者をどうするかは、大きな議題の1つとなる。