「エール」16話 「恋とはどんなものかしら」ナイーブな窪田正孝と中村蒼、軽妙な二階堂ふみ
第4週「君はるか」16回〈4月20日 (月) 放送 演出・松園武大〉
離婚3回
暗さと明るさでサンドされた4週めのはじまり。最初は、志津(堀田真由)に手痛い仕打ちを受けた裕一(窪田正孝)の暗い顔からはじまる。
裕一がモクモクと仕事に励んでいる分、支店長の落合吾郎(相島一之)、行員の鈴木廉平(松尾諭)、松坂寛太(望月歩)、事務員の菊池昌子(堀内敬子)のおもしろカルテットが裕一の状況に関して勝手な見解を語る。
そのなかで、やけに恋愛問題に詳しそうだった昌子は離婚歴3回であったことがわかる。ということは、川俣銀行の4人とも、独身なのだろうか。
タイトルバックが変わった
アヴァンが終わってはじまったタイトルバックは、裕一と音(二階堂ふみ)が仲睦まじく寄り添っている画が入った。16回の終わり、成長した音のターンもあって、いよいよ裕一と音が近づいてくる予感。ふたりを繋ぐのはーー双浦環(柴咲コウ)。
国際作曲コンクールに挑む
1年経っても、恋の傷が癒えない裕一。支店長たちは、お酒で憂さを晴らそうとさせるが、それもうまくいかない。
鉄男(中村蒼)がちょうど仕事で双浦環が福島に来るから取材することになって、音楽雑誌を開いて見つけた国際作曲コンクール(ストラビンスキーが審査員)に挑戦してみないかと提案する。
それでもずっとうだうだしている裕一。支店長たちは裕一に音楽を思い出させようとする。
こういうときの、相島、松尾、堀内、望月の達者な芝居で裕一の心が晴れていくことに説得力が出る。
「エール」で面白いのは、この4人の演劇的な雰囲気(様式美。省略の美学みたいなもの)と、窪田や中村の映像的なナイーブでリアリズムな雰囲気が並列されていることである。
なにはともあれ、4人のおかげで一年ぶりに笑った裕一。
いざ作曲をはじめるも、どうにも調子が出ない。双浦環の写真にデレデレしてしまう。
意外とだらしない裕一の側面が描かれる。松坂がこっそり茂兵衛(風間杜夫)に取り入って裕一の状況を報告していたことも描かれ、人間っていいところばかりではなく、とても浅はかだったりズルかったり、ダメな部分をもっていることが描かれている。
音のターン
音楽から離れたブランクが長かった裕一に対して、音は……双浦環に刺激されて目指した歌手への目標に向かってレッスンに励んでいた。一週間ぶりに豊橋の音のターン。海外帰りの先生が、トランスジェンダーキャラ。御手洗清太郎(古川雄大)。先生と呼ぶなと言い、「御手洗」と音がタメ口になったら、それもダメというやりとりが実にテンポが良かった。
先生の魅力はおいおい書いていきたいが、ここで注目点は、二階堂ふみの歌がちゃんと音を回して発声していること。すごいなー。
あと、姉・吟役の松井玲奈が二の腕むき出しで出てくるところ。二階堂ふみは長袖なのに。どういう季節感なのか謎だが、女が二の腕をむきだすのは、強気の証(「あまちゃん」のユイちゃんもそうでした)。
二階堂ふみ、松井玲奈、それぞれの気合を感じるのであった。
音が歌っていたのはモーツァルトの「フィガロの結婚」から「恋とはどんなものかしら」(古沢良太のドラマ「デート」のサブタイトルにもなっている)。裕一と音の出会いを楽しみにさせる選曲だと思う。
「これ以上悪いことはねえだろう」
松坂から様子を聞いていた茂兵衛は裕一が仕事に精を出していると思って機嫌が良かった。長引く不況、関東大震災からなどがあったが、今後を楽観視している。茂兵衛「これ以上悪いことはねえだろう」
立川敦司(岡部たかし)「だといいのですが……」
この会話をさらりと済ませているが、これから第二次世界大戦がはじまることをこのとき登場人物たちは思いもしないのである。
新聞社の編集長が映画「カイジ ファイナルゲーム」でドリームジャンプの場面で凄みのある演技をしていた塚本幸男(「とと姉ちゃん」にも出てました)、音の見合い相手は「ちはやふる」のおかっぱ頭のヒョロ君役が印象的な坂口涼太郎(「なつぞら」にも出てました)、山内ケンジ作品常連の岡部たかし(「ひよっこ」にも出てました)、ミュージカルで活躍する古川雄大(朝ドラ初登場)など、幅広い名優ぞろいで面白くなってきた。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
番組情報
連続テレビ小説「エール」◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和