サンセバスチャン国際映画祭のジェンダー・アイデンティティー・リポート。(サンセバスチャン国際映画祭より)

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 スペイン・バスク地方で開催されているサンセバスチャン国際映画祭がこの程、昨年の第67回の上映作品とマーケット参加者の男女比率を調査したジェンダー・アイデンティティー・リポートを発表した。ハリウッドを中心に映画界では男女均等度の低さが叫ばれているが、今回の調査でも女性の参加は全体の約30%にとどまっており、同映画祭では「(現状を反映した)この肖像画が、今後数年間において重要な観察と進化を促す出発点となることを信じています」と説明している。

 同映画祭は昨年、映画界における女性の参画と平等に関わる憲章にサインしており、その方針にのっとって調査が行われたもの。昨年の応募作品は長短編合わせて3,013本に上り、うち男性監督は69.7%で女性監督は30%、「どちらにも該当しない」(以下、Xジェンダー)と「情報なし」がそれぞれ0.15%となっている。

 性差が顕著となっているのは重い機材を担ぐカメラマンで、男性は80.29%で女性は17.3%、Xジェンダーが0.62%、情報なしが1.8%。この比率は、選出された上映作品150本もほぼ同じとなっている。

 ただし長編監督作1〜2本までを対象としたニュー・ディレクターズ部門と映画学校の生徒を対象としたNESTフィルム・スチューデント部門では共に女性の比率がアップ。前者では14本が上映され、監督は男性40%:女性60%。後者は351本の応募作品のうち監督は男性50.38%:女性48.85%で、プロデューサーに至っては男性43.25%:女性49.89%で、Xジェンダーが2.36% 、情報なしが4.5%と多様な現代を象徴している。

 もっとも映画祭側は応募作品全体の数字から鑑みると「映画業界に女性が参入しやすくなったものの、そこに留まってキャリアを築いていくことの難しさがあるのではないか」と分析しており、引き続き彼女たちの動向を見守っていく予定だという。

 映画界では俳優を中心に男女の雇用の不平等さと賃金格差が取り沙汰されていたが、2018年の第71回カンヌ国際映画祭で、歴代のコンペティション部門選出女性監督数82人にちなんで、審査委員長を務めたケイト・ブランシェットや故アニエス・ヴァルダ監督ら映画業界で働く82人が男女平等を訴えるパフォーマンスを実施して以来、世界各国の映画祭では審査員や上映作品などに性別や人種など多様性を考慮する動きが見られるようになった。

 今回のレポート発表にあたっては、まずは自分たちの組織構成から検証すべく、同映画祭の作品セレクションメンバーやスタッフの男女比率も公表している。(取材・文:中山治美)

第68回サンセバスチャン国際映画祭は9月18日〜26日開催