なぜ伝染病の多くがアジアとアフリカで発生するのか?
2019年12月から世界で急速に感染拡大をみせる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国湖北省の武漢市が感染源となったとされています。また、致死率が非常に高いことで知られるエボラ出血熱はアフリカ中央部で発生したといわれており、多くの伝染病がアジアやアフリカで発生しているイメージを持つ人も多いはず。なぜアジアやアフリカで伝染病が発生しやすいのかを、ペンシルバニア州立大学でウイルス感染を研究するスレシュ・クチプディ教授が解説しています。
https://theconversation.com/why-so-many-epidemics-originate-in-asia-and-africa-and-why-we-can-expect-more-131657
クチプディ教授はアジアやアフリカで病気が多く発生する理由の1つとして、「人口がかつてないほど増加していること」を挙げており、世界人口の60%がアジアもしくはアフリカに集中している点を指摘しています。(PDFファイル)世界銀行のレポートによると、2001年から2010年までで約2億人が東アジアの都市部に移住したとのこと。
2億人もの人間が移住するためには住宅地を用意する必要があり、住宅地を用意するために自然が破壊されることとなります。その結果、生息地を失った野生動物は都市や街にも出没することを余儀なくされ、必然的に人間と野生動物が接触する機会が増え、野生動物の保有するウイルスが人間に感染する確率も上がるというわけです。
また、極端な都市化によって生態系が大きな影響を受けると、自然界のバランスが崩れてしまい、捕食者の数が減り、ネズミの個体数が増えやすくなるという研究もあります。ネズミはさまざまな感染症のキャリアとなりやすく、ネズミが都市にはびこることで人獣共通の感染症がまん延するリスクも高くなります。
特に、中央アフリカや東南アジアなどの熱帯地域はウイルスの宿主となる生物の多様性に富んでいるため、「病原体の大きなプール」となっていて、新しい病原体が出現する可能性が非常に高くなっているとクチプディ氏は指摘しています。
人間と接触する動物は野生動物に限りません。アジアやアフリカでは、多くの世帯が農業とわずかな家畜による自給自足を行っていますが、人間や動物と密接に接触する牛、豚および鶏は風土病のキャリアになりやすいにもかかわらず、アジアやアフリカの大部分では、家畜を飼育する上での疾病管理や飼料補充を十分に行える畜産家は非常に限られている状況。そのため、動物から人へのウイルス感染のリスクが高くなりやすいとクチプディ氏は述べています。
また、農場に限らず、アジアやアフリカでは一般的な生きた動物の市場も、混雑した環境と人間と動物の密接な交わりを特徴としています。特に東洋医学の一環で漢方が多く使われている中国や東南アジアでは、薬の材料として密猟されたトラやクマ、サイ、センザンコウも取引されており、野生動物を取り扱う市場は、中国を中心としたアジア各国の経済成長とともに急成長を遂げています。
そんな野生動物の市場が、キラー病原体の出現と感染という点で重要な役割を果たしているとクチプディ氏は指摘。例えば、COVID-19の病原体である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、武漢市の市場で取り扱われていたコウモリやヘビからヒトに感染したことが始まりだった可能性が指摘されています。
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2019年12月からのCOVID-19流行が示しているように、世界のごく一部で発生した感染症は、わずかな時間で一気に世界中に広がる可能性があります。クチプディ氏は「森林減少を防ぎ、動物と人間の相互作用を減らすための建設的な保全戦略が緊急に必要です。そして、正体がわからない病気の発生を監視するための包括的で世界規模の監視システムが、これらの致命的で恐ろしい流行と戦う上で不可欠な手段となるでしょう」と述べています。