タイムズスクエアの人影はまばらに(筆者撮影)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が世界中に広がる中、「非常事態宣言」が発令されたアメリカ最大の都市ニューヨークも大混乱に陥っている。ニューヨークに在住する筆者が現地の最新状況をリポートする。

3月に入ってから事態は急速に悪化している。ニューヨーク州で初の感染者が確認されたのは3月1日。それ以来、感染者は増え続け、3月12日現在で、ニューヨーク州の感染者は325人と発表されている。

3月7日、アンドリュー・クオモ知事は非常事態を宣言。12日には、「500人以上が参加するイベントや集会を、13日午後5時以降に禁止する」と発表した。また、収容能力が500人以下の施設については、収容率を50%まで落とすように要請した。同日、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は、ニューヨーク市に非常事態宣言を出し、クオモ知事の集会規制を支持する姿勢を見せた。

クオモ知事の方針を受けて、業界団体ブロードウェイリーグのシャーロット・セント・マーチン会長は「最優先事項は、ブロードウェイの観客と、あらゆる関係者の健康と幸福」とする声明を発表。ブロードウェイの全ての公演を4月12日まで中止するとした。メトロポリタン・オペラ劇場とカーネギーホールも3月31日まで、全ての公演を中止する。メトロポリタン美術館も、13日から閉館すると発表。ニューヨークの演劇・アート業界に大きな衝撃を与えた。

国連もイベントや見学ツアーを止めた

ニューヨークに本部を置く国連も、3月16日以降4月末までに予定していた国連事務局主催のイベントをすべて中止ないし延期することを決めた。国連本部では、すでに一般向けに実施されていた見学ツアーも停止している。国連安全保障理事会や国連総会などの加盟国政府主催の会合は、中止の対象に含まれていないものの、中止、延期や規模縮小などの措置が取られているものも多い。


ニューヨークにある国連本部(筆者撮影)

ニューヨーク州では、2月末まで1人も感染者が確認されず、比較的穏やかな日々だった。初めて感染者が認められたのは、3月1日。イランから帰国した医療従事者が1例目。続けて、ニューヨーク市と隣接するウエストチェスター郡ニューロシェル在住者の感染が発覚し、その後、同郡での感染者が急増した。ウエストチェスター群は、マンハッタンのベッドタウンになっており、日本人居住者も多い。

この頃から、街中では、公共施設を含む各所で、消毒液を供給するサニタイザーが置かれるようになり、ニューヨーク市も感染予防に向けた啓蒙に力を入れ始めた。市民の間でも危機感が高まり、マンハッタンのドラッグストアでハンドサニタイザーの在庫切れが続いた。

筆者の周りでも、日本出張からニューヨーク支店に戻った日系企業の社員が、2週間自宅にこもり、リモートワークしたり、同じく日本から戻った政府関係者が、家族と離れてホテル暮らしをしていたりするなどの話を聞くようになった。


冷凍食品の棚が空っぽになっていた(筆者撮影)

食料を買いだめする動きも見られる。3月11日夕方、マンハッタン市内にあるグローサリーストアは買い物客であふれ、冷凍食品の棚は空っぽ。店員が在庫を補充すべく走り回っていた。

国連をはじめとする国際機関、民間企業では、感染予防のためのリモートワークが広がっている。ウエストチェスター郡の私立学校や公立学校、ニューヨーク市内の私立学校でも、学校関係者や保護者が感染したため、一時閉鎖となる学校が増加。子どもの学校に感染者が出た場合、その親も出勤が制限されることが多い。

大学はオンライン授業、企業はリモートワークに

コロンビア大学、ニューヨーク市立、ニューヨーク州立などの大学も、春休み前の授業を、オンラインに切り替えて始めている。

マンハッタンで、ビジネスエリアと住宅エリアにそれぞれ1店舗を持つカフェのスタッフは、「ビジネスエリアの店舗は閑散としているけれど、住宅エリアの店舗は、パソコンを持ち込んで仕事をする人のワークスペースになっている」と話してくれた。そのカフェでパソコン作業をしていた30代の男性は、ファイナンス系企業の社員。「日頃からなるべくリモートワークをするように推奨されているから、いつもと変わらない。個人的なコロナの影響? アメリカプロバスケットボールNBAのチケットを買っていたのに、中止になったことが残念」。

プロバスケットボールNBAは、11日に実施される予定だったオクラホマシティ・サンダー対ユタ・ジャズ戦の開始前に、ジャズ選手の1名に新型コロナウイルス の陽性反応が出たことが判明し、試合はキャンセル。感染がわかり、12日からの全チームの試合を中断すると発表した。

ブロードウェイが全公演の中止を発表した3月12日、シアターが集まるタイムズスクエア周辺を歩いてみた。いつもは観光客がごった返すタイムズスクエアも閑散としている。タイムズスクエア横でBROADWAYの文字が入ったグッズを販売する女性は、「この数日は人が少ないけれど、ビジネスに影響が出るのはこれからかな」と言う。

タイムズスクエアで写真撮影をしていた日本人女性2人は、「さっき日本からニューヨークに着いたばかり。JFK空港はガラガラで、すごくスムーズに入国できました」と言う。日本から帰国したニューヨーク市民が、2週間の自宅待機を推奨されていることは、知らなかったという。ブロードウェイで公演中止が決まった旨を伝えると、驚きの声をあげた。

人気の観光スポット、ロックフェラーセンターも、いつもより人が少ない。アイススケートリンクに隣接する、日本人にも人気のブランドケイト・スペード。客のいない店内で談笑していた店員2人は、「ニューヨークが非常事態宣言をした後、つまり今週になって、客足の減少を感じる」という。

ラジオシティ・ミュージックホールでは、ちょうど公演が始まろうとしていた。入場者を誘導していた係員は、「明日2時のショーが最後だ。この業界は大打撃。いや、すべてのビジネスが大打撃だ。クレイジーだね」と言う。

韓国系スーパーの一角にあるイートインコーナーで、日本食を提供する男性スタッフは、開口一番「ひまです!」と苦笑い。「3月に入って、イートインコーナーでゆっくり食事をする人が少なくなったなと感じていましたが、今週はガクンと売れ行きが落ちました」。スーパーのほうは、客の減少は感じられないという。

3時間歩き回って、見かけたマスク姿は3人のみ

そんな状況の中、ブロードウェイを3時間ほど歩き回っても、マスク姿の人は3名しか見かけず。アメリカには風邪や花粉症予防にマスクをする習慣はなく、「マスクは感染者がするもの」「新型コロナウイルスの予防に、マスクは効果がない」という認識が一般的のようだ。

マスク姿だった人のうちの1人は、ニューヨーク在住30年の日本人男性。ブロードウェイの近くで、日本人が経営する指圧サロンに勤務する。顧客は、日本人4割、非日本人が6割で、ニューヨーク市長の非常事態宣言後、客数は通常の6割程度まで減少したという。


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「毎日、ロックフェラーセンターの地下道を通って通勤しているけれど、今はガラガラ。密室は感染率が高まるので、みんな地下は歩きたくないのでしょう。うちのサロンも個室での施術なので、密室を避けたい人は来ませんよね。サロンの顧客には、ホテル業界、レストラン業界の人も多く、みんな危機感を抱いています。ホテルに務める常連さんは、『長年100%満室を記録していたのに、とうとう30%に落ち込んだ』と言っていましたよ」。

コロナウイルスの騒動が、ニューヨークの文化と経済に暗い影を落としているのは確かだ。