厚生労働省によれば一年間で最も離婚件数が多いのは3月だ。夫婦問題研究家の岡野あつこ氏は「私の感触では、『子どもの名字を変えるベストなタイミング』と『新年度に向けて人生をリセットしたい』という人が多い。年度末ということが離婚を後押しするようだ」という--。
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■1年で最も離婚件数が多い

春は別れの季節。そして、夫婦問題に区切りをつける人が一年でもっとも多い季節でもある。厚生労働省の「離婚に関する統計」(最新は平成21年度)によると、月別での離婚件数が最も多いのは3月だ。年平均は毎月2万928件だが、3月は2万5888件となっている。

なぜ、「3月離婚」を選ぶ夫婦が多いのだろうか。実は、離婚する夫婦には、それぞれ配偶者が知らない思惑があることも少なくない。そこで、実際にあった「3月離婚」のケースから、3組の夫婦のエピソードを紹介する。

■きっかけは、1本の電話だった

【Case1】「3月離婚」を目指し、計算ずくで動いた妻の復讐劇

「この人とはもうやっていかれない。別れよう。そう決意したのは、もう4年前になります」とすがすがしい笑顔で話すのはH美さん(39歳)。H美さんは大学卒業後、就職した会社で同じ部署の先輩だった2歳年上の夫と結婚。翌年には男児を出産したこともあり、会社を辞めて専業主婦の道を選択。夫を支え、初めての子育てに専念する結婚生活は、はた目には順風満帆に見えた。

そんなH美さんに4年前のある日、1本の電話がかかってきた。電話の主はH美さんと同期入社して、今は夫の隣の部署で働くS子だった。「久々に電話をかけてきたS子は、私の夫が部下の女性と浮気をしているから気をつけたほうがいい、と教えてくれたのです」。

家事と子育てで毎日疲れていたH美さんは、電話を受けるまで、夫が浮気をしているなどとは夢にも思っていなかった。ところがそれ以来、夫の様子に気をつけていると、たしかに浮気の兆候があちこちにあったのだ。セックスレス、夫婦の記念日を忘れる、ファッションが派手になった、休日の外出が増えた……どれもよくある浮気のサインだとは知っていたが、自分の夫にすべてあてはまると気づいた時は、さすがに愕然(がくぜん)としたという。

■置き忘れた手帳には「ハートマーク」が並んでいた

決定的だったのは、家に置き忘れられた夫のスケジュール帳を見た時のこと。今まで残業で帰宅が深夜になると言っていた日には、すべてハートマークが記されていた。「女子高生でもないのにハートマークって……。浮気していることを隠そうともせず、すっかり浮き足だっている夫に腹が立って仕方がありませんでした」

H美さんの変化は翌日からはじまった。小学4年生になった息子を進学塾に通わせ、休日も塾が休みの日は家庭教師をつけるなど「教育ママ」に急変。とにかくわが子を都内でも有名な一流中学に入れるために、母親としてすべての力を注ぎこむようになった。「広い子ども部屋で勉強に集中させたい」とマイホームも購入した。事情を知っている人は、「夫に失望した分、息子に夢を託すようになった」とH美さんの心中を想像したかもしれない。ところが、もっと現実的な計画があった。

■わが子の中学入学に合わせて名字を変える

母子の努力のかいがあり、晴れて一流校に合格したその日の晩、H美さんは夫に離婚を切り出したのだ。「あなたがこの4年間、ずっと浮気をしていたことは知っていました。裁判で勝てる証拠もあります。だから、この書類一式にハンコを押して、今月中にこの家から出ていってください」。

4年前、夫に心底愛想を尽かしたH美さんは、夫の稼ぎがあるうちに子どもに高額の教育費を支払わせ、子どもと二人で住むための家も確保することを計画していたのだ。離婚後も経済的に困らないよう、弁護士に依頼して綿密な契約書も作成していた。「地元の知り合いがいない私立中学に通えば、離婚して名字が変わったことに気づく子は誰もいませんから」と話すH美さん。あとは夫に引っ越してもらうだけだという。

■「妻の親友とも浮気」あきれたエピソードだらけの夫

【Case2】最後まで身勝手な夫が企てた「3月離婚

N子さん(32歳)が夫から「好きな人ができた。お前とは別れるから」と一方的に離婚を言い渡されたのは、昨年のGWごろ。「幼稚園に通う子どもからGWの旅行をせがまれ、夫に相談したところ『今年は行けそうにない』と。理由を聞いたら、浮気相手の女性とハワイに行く約束をしたので、私たち家族のために使う有休とお金はない、という身勝手な話でした」。

それまでもN子さんの夫は、決してお世辞にも「いい夫」とは言えない言動を繰り返していた。「N子さんの学生時代の親友と浮気をした」「N子さんの実家を訪れ、義父に小遣いを無心していた」「N子さんに黙って転職していた」「N子さんの許可なく、飲食店を経営している自分の弟の保証人になっていた」など、聞いてあきれるエピソードには事欠かない。「お金に対してセコいところが一番イヤでした」とN子さんは話す。

■「1月1日離婚」にこだわる夫の思惑

夫のルーズな性分は一生治らないと判断したN子さんは、離婚を承諾。そうと決まったからには早いほうがいいと、すぐに離婚の準備をはじめようとしたところ、離婚を切り出したはずの夫のほうから「離婚届を出すのは年明けでも遅くないんじゃないか? 1月1日に離婚すれば、お前も新しいスタートができるだろう」と提案してきたとのこと。

「その時は、なぜ夫が『1月1日』にこだわるのかわからなかったのですが、親戚の税理士から話を聞いて納得しました」とN子さん。会社員と専業主婦の夫婦の場合、12月31日まで婚姻関係が続いていれば、その年は配偶者控除の対象になるため、GWより1月1日に離婚したほうが夫は金銭面で得をするというわけだ。

またしても「お金に対してセコい」部分が露呈してしまった夫。結局この夫婦は、N子さんの希望を通して3月に離婚届を提出した。「子どもが来春から小学校にあがるので、そのタイミングで離婚をして実家に帰ろうと。子どもの名字が変わるタイミングとしてもちょうどいいかなと思って」。

■こっそり不倫をしていた妻が終止符を提案

【Case3】W不倫の果てにたどりついた「3月離婚

「『お互い子どもが独立したら一緒になろう』という約束をしているんです」と語るY乃さん(43歳)は、去年の3月に22年連れ添った夫と離婚をしたばかり。長年、仮面夫婦として結婚生活を続けてきた。今春にY乃さんから終止符を打つことを提案したのは、Y乃さんに恋人ができたからという秘密の理由があった。「夫は本当の理由を知りません。おそらく“価値観の違い”くらいにしか思っていないでしょう。子どもも就職が決まったことですし。離婚話はずいぶん前から出ていたので、お互いに心の準備はできていたというか……」。

Y乃さんのお相手の新恋人は、有名企業に勤務する50代男性。2年前に関係がスタートしたものの、彼にも妻と子どもの待つ家庭があるという。「彼は、私が離婚したら自分も別れると言っています。私にとっては、たぶんこれが最後の恋。彼の言葉に運命を委ねてみたいんです」と、Y乃さんは熱い胸中を打ち明ける。

■住む場所も人間関係もリセットする

Y乃さんが「3月離婚」を選んだのは、スッキリした環境で4月から新生活をはじめたかったという精神的な理由が大きいという。「本当は年内に離婚するつもりだったのですが、親や親戚への報告や離婚後の生活の準備などに予想以上に手間取ってしまい、結局3月になりました」。4月からは心機一転、派遣社員として彼のオフィスの近くで働くことも決まっているとのこと。「4月からは住む場所も人間関係も、すべてリセットするつもりです」。

筆者が相談を受けている感触では、「3月離婚」を選ぶ理由は、「子どもの名字を変えるベストなタイミング」という物理的な問題と、「新年度に向けて人生をリセットしたい」という精神的な問題がツートップ。いずれも、説得力のある理由だが、その背景にはいつのまにかすれ違ってしまった夫婦がお互いに気づこうとしていなかった根深い課題がありそうだ。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)