ライアン・バーネット【写真:Getty Images】

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WBSS初戦のドネア戦で途中棄権、2019年10月に引退を表明

 ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級大会はIBF&WBAスーパー世界王者の井上尚弥(大橋)の優勝で幕を閉じた。世界最強決定戦で、当初優勝候補の一角と目されていたのは元WBAスーパー&IBF王者のライアン・バーネット(英国)だ。2018年11月3日の大会初戦で元5階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)と対戦し、腰を痛めて途中棄権を余儀なくされた。2019年5月にスーパーバンタム級を舞台に再起戦を勝利で飾ったが、昨年10月、突如引退を発表した。井上のライバルと見られていた男はなぜ27歳の若さでグラブを吊るしたのか――。

 モンスターの強敵として立ちはだかるはずだった元世界王者は英地元紙「サン」で引退の理由を明らかにしている。

「2019年に1試合を戦って、トレーニングを続けている際、自分の体に異変を感じた。何かが起きている、と。専門家の診断を受けたけれど、ボクシングを続けることは自分自身にとってプラスにならないと悟った。基本的に(医者から)告知されたことは、このまま戦い続けていれば、狂気の世界に身を投じることになる、と。俺はそれに耳を傾ける必要があったんだ」

 バーネットはこう語ったという。記事では「ノニト・ドネア戦の序盤で負傷した腰痛が理由で、ベルトのみならず、最終的にはリングでのキャリアを失うことになった」と伝えている。

「終わりが近づいていることはなんとなくわかっていた。痛かったんだ。合宿をきちんと終えることができなかった。状態が酷かったので、ここはきちんと耳を傾けなければいけない。健康を甘く見ることはできないと考えたんだ。そう考えなければいけなかった」

 深刻な腰痛の状況についてこう振り返ったというバーネット。今年ガールフレンドとの結婚を控えていたことも決断を後押ししたという。

井上戦には未練「ドネア以上のことができたと思う」

「ボクサーでいることよりも、結婚や子供についてを優先して考える必要があった。ここまで活躍できたし、自分を高めることもできた。だから、文句は言えないよ」

 リングでの更なる栄光よりも、新たな未来を選んだバーネットだが、WBSSの話題になると悔いを見せたという。バーネットが初戦で棄権したドネアが決勝まで勝ち上がり、井上と死闘を演じた。

 勝負事にもしは禁物だが、ドネア戦で腰の異変がなければ、どうだったのか? 頂上決戦でモンスターと対峙したのはバーネットだったかもしれない。

「個人的には自分はポテンシャルの限界までたどり着いたとは思っていない。フィットした状態で(井上と)戦うことができれば、ドネア以上のことができたと思う」

 バーネットはこう語ったという。さらに続けて「自分は27歳。現実に自分の全盛期に差し掛かったばかりだった。もっと達成できたと思う。それでも、文句はない。階級で統一したし、キャリアには満足している。試合を見て、考えた。イノウエは自分相手に苦しむことを、ね。彼が苦闘することはわかっていた。ファイナルが僕とイノウエならば、もっと厳しい戦いになったはずだ。本気でそう思っている」とも振り返っているという。

 キャリア21戦20勝1敗。バンタム級、2団体のベルトを巻いた男はわずかな悔いも残しながらリングから去ることになった。(THE ANSWER編集部)