国民皆保険

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年明け早々、元副大臣の再逮捕や衆院議員の党除名など、IR汚職事件の疑惑や波紋が広がっている。

だが、各方面からの批判もどこ吹く風なのだろうか。政府はカジノ業者を監督する「カジノ管理委員会」なるものを発足させるなど、着々と準備を進めているようだ。その一つにギャンブル依存症対策がある。先週、厚労省がギャンブル依存症の治療をこの4月から公的医療保険の適用対象とする方針を明らかにしたというニュースを目にした。

社会保障費削減の一環として保険医療制度の抜本的な見直しが必要となっている昨今、カジノを国策として推進するためにこそ必要と言わんばかりにギャンブル依存症を保険適用とするご都合主義。保険適用の必要性を否定するつもりはないが、競馬・競輪などの公営ギャンブルやパチンコ・パチスロで日本を世界有数のギャンブル大国にした政府は、今やパンク寸前の医療保険制度をどうしたいのだろうか。

ありがたくも過剰な国民皆保険

僕は、高齢者と低所得者向けの制度を除くと現在でも公的な医療保険が存在しないアメリカで医師・社会人としての実質的なキャリアをスタートした。それもあり、帰国後は日本の手厚い国民皆保険制度のありがたさを人一倍、身に染みて感じてきた。患者としても、医師としても。

たとえば僕の専門分野である形成外科の場合、原則保険適用外の美容医療は別として、交通事故や火事などで体の一部を損傷したりやけどを負い「再建」のための形成外科手術が必要となった患者が、日本では公的保険制度のお陰でどれだけ救われてきたことだろう。

それと同時に、国民皆保険制度ならではの医療費の無駄についても、医師として長年疑問を感じてきた。

出来高払いのどんぶり勘定

過剰な受診や医薬品処方、無駄な検査などのすべてが保険制度のせいということではないが、多種多様で進化を続ける医療の多くが、どんぶり勘定のような制度運用の中に放り込まれてきた。

患者は医療費の大半を負担せずに済み、医療機関は「出来高払い」で診療報酬の不足分を補償して貰うことができる。素晴らしいシステムだが厳格で継続的なチェック機能が働かなければどのようなことが起きるか、答えは明白だ。少子化を放置することで数十年後の社会保障制度に何が起きるかも然り。

過剰な医療サービスを当たり前と感じる患者側の問題もあるとはいえ、そのような環境や制度を作り放任主義的な運用を続けてきた政府がようやく引き締めに転じたと思いきや、今回報じられたのはまたご都合主義的な策だ。

ギャンブル依存症を軽んじるつもりはないが、医療費削減は重要度も緊急度も高い。保険適用されている高額な治療法や医薬品が増える一方で、保険適用を目指す治療法や医薬品は次から次へと登場する。どのような考えや方針にもとづいて保険適用の優先順位を判断するのかなど、国民に対する透明性や説明は必要だ。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」