年内にも食卓へ、「安全審査も表示義務もない」不気味な“ゲノム編集食品”の実態
これまでにない、新しい遺伝子を操作した食品の流通が10月1日から解禁されました。遺伝子組み換え食品と同じように遺伝子を操作していますが、それとは異なる「ゲノム編集食品」というもので、間もなく私たちの食卓に現れることになります。これまでになかった食品です。安全なのか、とても不安です。
遺伝子を壊してムキムキの豚を生み出す
まず、ゲノムとは何かから考えてみましょう。遺伝子とゲノムとは、どう違うのでしょうか。
遺伝子は、ひとつひとつの単位を表しています。ゲノムは、その全体を指します。例えば、人間には2万2000程度の遺伝子がありますが、そのすべての遺伝子のことをヒトゲノムといいます。
そのゲノムを自由自在に変更して編集することができるようになり、食品の開発にも応用されるようになったのです。それがゲノム編集食品です。とはいっても、現在はまだ、特定の遺伝子を壊して品種の改良を行っています。すでにさまざまな遺伝子がわかってきて、どの遺伝子を壊すと、どんなことが起きるかもわかってきました。
家畜や魚で盛んに行われているのが、ミオスタチンという筋肉の成長を抑制する遺伝子を壊すこと。壊された豚は成長が早く、ムキムキの豚になります。一方、成長ホルモンの受容体を壊された豚は成長ができず小さなマイクロ豚になり、すでに中国でペットとして販売されています。ほかにも変色しないマッシュルーム、角のない乳牛、おとなしくして養殖しやすくした魚など、さまざまな作物や家畜、魚が開発されています。
遺伝子組み換え食品は、ある有用な遺伝子を見つけだし、それを作物に入れて品種改良を行うことで作られた食品です。
例えば、寒さに強い作物の開発には、ヒラメという魚の遺伝子を入れて行います。ヒラメがなぜ寒さに強いかというと、血液の中に血液を凍らせないタンパク質があるからです。そのタンパク質を作る遺伝子を入れると、寒さに強い作物ができます。
そのほかにも、クラゲの発光遺伝子を用いて光る生物が作られたり、花のペチュニアの青色色素を作る遺伝子を用いて青いカーネーションが作られるなど、さまざまな作物や動物が開発されてきました。
現在、世界中で流通している遺伝子組み換え作物は主に2種類。除草剤に強い大豆や菜種などのほか、作物自体が殺虫毒素を持つことで害虫を寄りつかないようにしたトウモロコシや綿などです。除草剤耐性作物は、除草剤を散布して作物以外の植物を枯らすことができるため、農作業の手間ひまを省いてきました。殺虫性作物は、作物自体に殺虫毒素ができるため殺虫剤を撒く必要がなくなり、これまた作物を作る手間ひまを省いてきました。
それに対してゲノム編集は、遺伝子を壊して行う品種改良です。寒さに敏感な遺伝子を壊すことで、寒さに強い品種が開発できます。除草剤で枯れる仕組みを壊してしまえば、除草剤耐性作物ができます。食用油で成分を変えることも容易です。いま、さまざまな遺伝子がわかってきたことで、このような品種の改良が可能になってきたのです。
すでに述べた、成長が早くて肉の多い豚やマダイなどのほかに、ウイルスの侵入口を壊すことで、病気になりにくい豚などが開発されています。
【遺伝情報を変える方法とルール】
◎ゲノム編集食品……遺伝情報の一部を切断、突然変異を起こした特定の遺伝子が機能を変更・喪失させる。審査は不要。
◎遺伝子組み換え食品……別の生物から取り出した特定の遺伝子を、植物や動物の細胞へと組み込む。審査が必要。
ゲノム編集では、標的とする遺伝子を簡単に自由自在に壊せるようになりました。その簡単さが大きなメリットです。また、これまでの遺伝子組み換えの場合、導入したほかの生物の遺伝子は、どの位置に入り込むかわかりませんでした。偶然に左右されることが大きいのです。ところがゲノム編集では、正確に標的とする遺伝子を操作できます。これも大きなメリットです。
しかし、その簡単さと正確さが、安易な開発をもたらしています。遺伝子は生命の設計図です。その設計図を自由自在に変更するのですから、影響がとても大きいのです。ゲノム編集は、遺伝子全体を自由自在に変更できますので、遺伝子組み換えとは比べものにならないくらい、遺伝子の操作をスケールアップしています。そのことが食品の安全性に影響します。
遺伝子の働きは大変複雑です。その複雑な働きに影響をもたらすのですから、何が起きても不思議ではありません。特に問題になっているのが、標的以外の遺伝子を壊す「オフターゲット」と呼ばれる現象です。この現象は必ず起き、さまざまな遺伝子の働きを変えてしまいます。
普通の食品と同じように流通する危機
これまでゲノム編集食品を用いた安全性の試験は行われたことがありません。参考になるのが、ゲノム編集ではなく「RNA干渉法」という技術を用いて遺伝子を壊したジャガイモで、このジャガイモでは予想外の発がん物質や有害物質が生じていました。
しかし、日本政府はゲノム編集作物について、栽培した際に起きるほかの植物などへの影響に関して、考えなくてよいとしました。さらに食品についても、安全審査をしなくてよいとしました。企業は自由に種子を販売できますし、農家も自由に作づけできます。食品メーカーは何の拘束も受けず食品として加工できますし、スーパーもほかの食品と変わらず販売できます。
厚労省は、この作物について一応、届け出るようにと通知しました。しかし、届け出は業者の判断でいいとしました。そうなると、ほとんどの業者は届けないでしょう。届け出を任意としたため、食品表示も不可能となりました。これによって普通の食品と同じに流通してしまいます。
なぜ急いで規制もないまま食卓に登場することを認めたのでしょうか。そこには2つの理由があります。
ひとつは、規制や表示を行うと消費者から拒否され、広がらないという考え方によるものです。遺伝子組み換え食品では実際、環境への影響の評価や食品の安全性評価を義務づけ、表示を行うことを求めたため、消費者が選ぶことができ、広がりませんでした。日本国内での作づけもできませんでした。
規制や表示をしなかったもうひとつの理由が、アメリカとの関係重視です。ただでさえアメリカ産に席巻されている私たちの食卓ですが、現在、国会で審議中のアメリカとの自由貿易協定が来年早々にも成立しそうです(※'19年12月4日に可決・承認)。ここではアメリカ産農作物の大量輸入が約束させられています。
そうなると、日本のわずかな自給率がさらに押し下げられることになります。それは遺伝子組み換え作物とゲノム編集作物の日本の市場への大量流入を意味します。アメリカ政府や多国籍企業による食料戦略の柱が、これら遺伝子を操作した作物なのです。
すでにアメリカではゲノム編集した大豆と菜種の栽培が拡大しつつあり、それが間もなく日本に入ってくることになります。もしかしたら、すでに入っているかもしれません。届け出も義務化されておらず、表示もされないため、一般の食品と同じ扱いになるため、わからないのです。
どのような食品かというと、ひとつはカリクスト社が開発した「高オレイン酸大豆」。もうひとつが、サイバス社が開発した「除草剤耐性菜種」です。両者とも主な食品は食用油になります。マヨネーズやマーガリンといった油脂製品にも入ってきます。
カリクスト社はアメリカ国内で、ゲノム編集大豆から作った食用油を「遺伝子組み換えでない」と表示して販売しています。サイバス社も開発した菜種を「遺伝子組み換えでない」と表示することを決めています。
確かにゲノム編集は遺伝子組み換えではありませんが、よりスケールアップした遺伝子操作です。そのためこの表示は、詐欺行為といえます。カリクスト社は、さらに2020年から小麦の種子の販売を始めます。するとパンなどに使われることになり、私たちの主食が危なくなってきます。
では実際に、私たちの食生活にどんな影響が出るでしょうか。いまの政権は、トランプ米政権が押しつける余剰トウモロコシなどの輸入を決めました。これらのトウモロコシは、大半が遺伝子組み換えです。さらに今後は、そこへゲノム編集されたトウモロコシまで増えていきます。私たちの食卓は、これらの安全性が確認されていない作物から作られた食品によって脅かされ、より危険な状態になっていくのです。
(執筆/上林裕子)
上林裕子 ◎フリージャーナリスト。北海道生まれ。業界専門誌を経て現在、ニュースサイト「ハーバービジネスオンライン」、「日刊ベリタ」などで執筆。食の安全をテーマに、生活者の視点から取材を続ける