光では見えない「ティコの超新星」の残骸から探る、超新星爆発の対称性
NASAのX線観測衛星「チャンドラ」が、「ティコの超新星」として知られる有名な超新星の残骸をX線で捉えました。10月17日付で公開されています。
■光ではほとんど見えないティコの超新星の残骸
「ティコの超新星」の残骸。チャンドラが撮影したX線画像(中央)に、可視光線で撮影した恒星(背景)を合成したもの(Credit: X-ray: NASA/CXC/RIKEN & GSFC/T. Sato et al; Optical: DSS)
ティコの超新星の残骸があるのは「カシオペヤ座」の方向で、地球からはおよそ1万3000光年離れています。超新星残骸とは、超新星爆発で生じた衝撃波によって高温に熱せられた周囲のガスが、光やX線などで輝いて見える天体です。
X線の観測データをもとに着色しているので、実際にこうした色で見えるわけではありません。青と赤は超新星爆発によってまき散らされたケイ素(Si)の分布を表したもので、青は地球に向かって、赤は地球から遠ざかるように動いているケイ素を示しています。その他の黄色、緑、オレンジ、紫といった色は、エネルギーの強弱や物質の違い、運動する方向などによって塗り分けられています。
ティコの超新星の残骸の場合、X線で観測するとこのようにはっきりとその姿を確認できますが、光ではほとんど見ることができません。X線画像を合成する前の星空の写真を見ると、そこに超新星残骸があるとは思えないほどです。
チャンドラの観測データを合成する前の星空。超新星残骸があるようには見えない(Credit: DSS)
1572年11月、カシオペヤ座にまばゆく輝く星が出現しました。北半球から肉眼ではっきり見えたこの「新星」は多くの人々に目撃されましたが、なかでも詳細な観測結果を残したティコ・ブラーエにちなんで「ティコの超新星」や「ティコの星」などと呼ばれるようになりました。
やがて見えなくなってしまった星の正体は、今では超新星爆発によるものだったと理解されています。現在私たちがX線で見ているこの残骸は、およそ450年前に観測された超新星が残したものなのです。
なお、カシオペヤ座の方向には20年前に打ち上げられたチャンドラが初めて撮影した超新星残骸「カシオペヤ座A」も存在しており、今も定期的に撮影されています。
■超新星残骸の不規則な姿はいつ形作られたのか?
超新星爆発はこれまで、球対称に(別の言い方をすれば「整った形で」)生じると考えられてきました。ところが、ティコの超新星の残骸をX線で詳細に観測すると、一部が他の部分よりも飛び出していたり、あるいは塊状になっていたりする様子が見えてきます。
この不揃いな形は爆発したときからこうだったのか、それとも爆発で吹き飛ばされたガスの乱れなどが原因となって後から生じたものなのでしょうか。理化学研究所の佐藤寿紀氏らによる最近の研究では、爆発したときから不揃いだった可能性が示されています。
超新星爆発の一種である「Ia型超新星」は、その明るさがどれも同じであると考えられていることから、見かけの明るさとの差を利用して銀河間などの距離を測るために使われています。超新星爆発の様子を正確に知ることは、Ia型超新星を利用する上での信頼性を高めることにもつながります。
また、同じく理化学研究所に所属するGilles Ferrand氏は、超新星爆発を立体的に再現したシミュレーションモデルに取り組んでいます。Ferrand氏は3Dモデル化したティコの超新星の残骸を3Dプリンターで出力するためのファイルも作成しており、チャンドラのプレスリリースからダウンロードできるようになっています。
「ティコの超新星」の残骸を再現した3Dモデルの出力例。緑は超新星爆発によって放出された物質、紫はその周囲にある爆発で吹き飛ばされた星間物質を再現したもの(Credit: RIKEN/G. Ferrand, et al & NASA/CXC/SAO/A. Jubett, N. Wolk & K. Arcand)
関連:何もかもが目新しい。あらゆる点でユニークな超新星が見つかる
Image: X-ray: NASA/CXC/RIKEN & GSFC/T. Sato et al; Optical: DSS
https://chandra.harvard.edu/photo/2019/tycho/
文/松村武宏