■「高層の高級ホテルは正直いって儲からない」

2020年の東京オリンピックの開催に合わせ、現在首都圏では高級ホテルの開業・改装ラッシュが続いている。16年にはザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町が新規開業し、ホテルオークラ東京は19年9月12日にリニューアルオープン。しかし一時的に国内需要の高まりは見せるものの、その後は供給過多に陥り、停滞すると言われている。

そんなホテル業界の中で高い業界シェアを誇るのがアパホテルだ。現在、国内ホテルの10%のシェアを持つ同社だが、アパグループの元谷外志雄代表は20年のオリンピック開催後におとずれる“ホテル不況”を、むしろ拡大路線を取る好機と捉えている。20年、日本のホテル業界に何が起きるのか。元谷代表が展望を語った――。

アパグループの元谷外志雄代表「五輪後、勝負に出る」。

アパホテルは現在の市場シェア率を10%から20%まで拡大する計画を立てています。現在、国内では高級ホテルの開業ラッシュが続いています。

これらのホテルは、過去がそうであったように経営者の思いが反映されすぎていて、広くて豪華で、一般の利用者の多くが望むものではなく、どこかで行き詰まりを見せるでしょう。

アパホテルも高層の高級ホテルを持っていますが、これは正直いってあまり儲かりません。19年9月、横浜に過去最大級の高級ホテルをオープンさせますが、これはブランドアップのためによるところが大きいです。

■平日にホテルを利用する人は、どんな客か

アパホテルは、開業時から全国展開するつもりでホテル事業に参入しました。当時、真っ先に考えたのは、ホテルをもっとも多く利用する方に愛されるホテルを建てることです。一週間で多いのは休日ではなく平日です。ならば平日の5日間に多く使われるホテルを建てなければなりません。では、平日にホテル利用する人は誰か。ビジネスマンです。

ビジネスマンの宿泊代は経費予算内で企業が払います。だから、ビジネスマン一人ひとりに出張でアパホテルに泊まってもらうためには、何か決め手がなくてはなりません。そこで、我々が考えたのが、アパホテルを利用すると決めてくれた方にお礼として10%ポイント還元を実施すること。結果、アパホテルはリピーターが増えていき、市場シェアの10%を取るまでになりました。

今後、いずれかが20%を取ることで寡占化が始まり、アパホテルは寡占化一番乗りを目指しています。しかし、今はまだホテル業界は、百花繚乱の状態にあります。それではどうやって20%を確保していくのか。

先述したように、現在日本のホテル業界では第1次オーバーホテル現象が起きています。オリンピックの需要に向けて、新興勢力が出てきている時期なのです。このオーバーホテル現象は、オリンピック開催が近づくにつれて稼働率が高まり、オリンピックのときにはやや足らない状態になります。しかし、問題はここから。オリンピック開催から1年後には需要減による第2次オーバーホテル現象が起きます。

ホテルの稼働率が下がると、約定返済ができなくなるホテルチェーンが出てきます。銀行は行き詰まったところに再融資はしませんから、こうしたホテルチェーンはリニューアル投資ができなくなる。

■「ホテル稼働率80%」はあくまでも平均値

さらに、ホテルはナマモノなので故障部屋が出てくると、稼働率は下がり、新規オープンはできず、修繕費も捻出できず破綻に追い込まれる。このタイミングこそアパホテルが勝負する瞬間です。我々はこうした資金繰りできなくなったホテルを買い集めてシェアを拡大し、20%を目指していく計画です。

1つ注意してほしいのが、オーバーホテル現象とは言っても、全国にあるホテルの稼働率が80%だとしても、それはあくまで平均値だということです。

稼働率100%のホテルがある一方で50%、30%のホテルがある。つまり、オーバーホテル現象後に起きるのは、稼働率の悪いホテルから順番に切られるということなのです。我々が買うのは、そうした中で宿泊代を下げても稼働率が上がらなくなって、資金繰りがうまくいかなくなったホテルです。

なので、第2次オーバーホテル現象後にそのような複数のホテルチェーンを買収しても、高い稼働率を維持できる高いブランド力を持つアパホテルはシェア拡大のチャンスです。

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元谷 外志雄(もとや・としお)
アパグループ代表
石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部通信教育部に入学するとともに、小松信用金庫(現・北陸信用金庫)に入社。27歳で独立し、71年、信金開発(アパグループの前身)を設立。現在、マンション、ホテル、リゾート事業など、18の企業からなるアパグループの代表を務める。
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(アパグループ代表 元谷 外志雄 構成=鈴木俊之 撮影=横溝浩孝)