昨日発表されたパラグアイ戦(9月5日)、ミャンマー戦(10日)に臨む23人の顔ぶれは、ともすると順当に見える。重要な選手が漏れなく選ばれている印象だ。だが、それが順当か否かの基準というのは、日本代表の内部の話だ。内部的には順当かもしれないが、対戦相手との関係で見ると話は変わる。


マジョルカに移籍したばかりで日本代表に招集された久保建英

 それなりに強いと思われるパラグアイ戦はともかく、W杯予選とは言え弱小国ミャンマーにもそのメンバーをあてがうつもりなのかと逆に驚かされる。この23人は、少々格好よく言えば、日本が誇る精鋭部隊だ。しかしミャンマー戦は、派遣する部隊のレベルを少し落としても勝利という最低限の結果が期待できる試合だ。同じ日に発表されたU−22代表の北中米遠征メンバーをこちらに回してもなんら心配はない。2−0、3−0は十分望める。2次予選のレギュレーションを考えれば、万が一負けたところで、予選突破の可能性が潰えるわけではない。なんとかなるはずなのだ。

 どれほどメンバーを落として勝てるか。指導者に問われるのは、そのラインを見極める力だ。「落とす」ということはテストと同義。そして強化とはテストを重ねることを意味する。常にベストメンバーで5−0、6−0で大勝しても、代表チームはもちろん、「日本サッカー界」の強化はまったく進まない。

 時期的な問題もある。欧州組はシーズンがスタートしたばかりのチームをゆうに10日以上、離れて移動をするわけだ。欧州→日本→ミャンマー。ミャンマーから欧州に戻るのもひと苦労だろう。選手にとってこの移動は大きなリスクである。その間に所属チームでポジションを失ってしまったら、誰が責任を取るのか。

 森保一監督には、メンバー発表の席上で、その点に留意しているような言葉もあったが、だったらなぜ欧州組を19人も呼んでしまったのか。実際その中で、微妙な立場に置かれている選手は少なくない。前述したU−22でもいいし、Jリーグ勢中心で臨むのもいい。繰り返すが、その方が代表を含む日本サッカー全体の強化になる。

 例えば、チーム最年長で間もなく33歳の誕生日を迎える長友佑都は、チャンピオンズリーガーでもある。所属のガラタサライは9月19日、その初戦でクラブ・ブルージュとのアウェー戦を戦う。ミャンマー戦とは別次元の大一番であることは言うまでもない。長友はいわば、日本サッカー界のお宝的な価値を持つ選手なのである。その長友をリスペクトするなら、今回の招集は見合わせるべきだった。

 その理由のひとつとして、日本の左サイドバックは人材豊富であることが挙げられる。U―22の杉岡大暉(湘南ベルマーレ)。さらには小川諒也(FC東京)、松原后(清水エスパルス)、車屋紳太郎(川崎フロンターレ)など、代表レベルとおぼしき選手が多数控えている。テストをするにはおあつらえ向きの、余裕のあるポジションなのだ。

 大勝が期待できる相手に、ベストメンバーをぶつける代表監督はいまこの時代、世界を見渡してもそう多くはいない。時代の感覚から大きくズレている発想なのだ。招集された海外組は正直、どう思っているのだろうか。

 メンバー発表の席上で、海外組の数が増えたことに目を細めていた森保監督だが、この現状をどこまで喜んでいいものか。こちらはかなり疑心暗鬼になっている。数は増えたが、中島翔哉が所属するポルト、堂安律のPSVなど一部を除けば、けっして世界的には強豪とは呼べないチームで、多くの日本人選手が難しい立場にある。

 その足を、代表チームはあまり引っ張るべきではないのだ。W杯予選アジア2次予選は、U−22と国内組、そして余裕のありそうな欧州組で臨むべきではないか。

 いまこの時点で、2022年11月に行なわれるカタールW杯をイメージできている選手は何人いるだろうか。それより、いまは自分の所属クラブで活躍することで頭がいっぱいだろう。所属クラブで試合に出場できなければ、代表への道は閉ざされるのだから。

 とはいえ、代表辞退を口にすることはできにくい。そうした前例の少ない日本では、とりわけ大きな騒ぎになってしまう。選手はいったん招集されたら、参加せざるを得ない状況に置かれる。しかし、代表チームの活動に発生するギャラは微々たるもの。ケガへの保証もない。

 1億円を優に超える年俸が保証されている代表監督とは根本的な立場が違うのだ。監督と選手は言ってみれば強者と弱者。森保監督は一見、穏やかで優しそうな顔をしているが、監督という立場を考えるなら、選手から見ればかなり怖い存在なのだ。

 その分、選ぶ側は、選ばれる側に対して配慮が必要になる。順当勝ちが予想される2次予選の間は、特にそうあるべきだと思うが、今回の招集からそうした姿勢は見えなかった。

 岡田武史さんもザッケローニもハリルホジッチも、予選の頭から精鋭部隊を投入した。ところが、その任期の終盤になるにつれて、いずれもチームの状態は悪化していった。ハリルホジッチは解任の憂き目に遭ったが、それに翻弄されることになった選手の苦労はあまり語られていない。

 令和の時代の代表監督は従来と同じではダメだ。メンバーを落としながら勝つという世界のスタンダードを身につけないと新時代は乗り切れない。ベストメンバーだけでなく、新戦力を試していかないと、代表強化は進まない。そのツケは4年間の後半に必ず現れる。同じ轍を踏んではいけない。