企業の命運を分けるデジタル人材の採用と育成
CDOの獲得に成功したこの企業は、海外拠点でデジタル事業を推進する責任者のヘッドハンティングを依頼している。これまで大手企業が外部から役員クラスを獲得する動きは少なかったが、高額な年俸を用意してでもデジタルとビジネスに精通した人材を獲得しなければ生き残れないという経営者の危機感の高まりがうかがえる。
業種・職種を問わずデジタル人材のニーズが拡大しているため、人材紹介大手のジェイ エイ シーリクルートメントは3月に「JAC Digital」の新ブランドを立ち上げ、採用支援を強化する。企業から寄せられている求人内容について、同社デジタル支援室の春野直之部長は次のように話す。
一方、候補者側も培ってきたデジタルの知見を活かすために業界を問わず転職する人が増えているが、優秀な人材には多くの企業からオファーが集中する。
採用を成功させるポイントについて、春野氏は「業界とデジタルの両方の知見を持って求人の要件定義をしっかりと行うことが欠かせません。当社が新たなコンサルティング体制を整えた理由の一つも、各領域とデジタルの専門性を持ったコンサルタントが求人の要件定義から内定承諾までを一気通貫で支援するためです」と説明する。
入社後に期待通り活躍してもらうためにも、採用すべきターゲットを明確にして、候補者がやりがいを感じるような業務内容やふさわしい年俸を提示できなければいつまで経っても採用は上手くいかない。 デジタル人材の確保を急ぐ各社では、社員のデジタル教育に力を入れる企業も出てきている。
空調機器大手ダイキン工業は研究開発拠点のテクノロジー・イノベーションセンター内に「ダイキン情報技術大学」を設置し、新入社員のうち100人を2年間、現場には配属せずAIやIoTを学ばせている。
損害保険大手の東京海上ホールディングスは、データサイエンティスト育成プログラムを創設し、適性人材の発掘・育成・評価を体系的に行うと発表した。
また、楽天は社員全員にプログラミングの学習を必須とし、今年の新入社員に対して3カ月のプログラミング研修を用意した。
教育内容や育成目標のレベルは各社でさまざまだが、こうしたデジタル人材の育成ニーズに応えて、教育プログラムを提供する動きも活発になっている。
2万人以上のデータサイエンティストが登録するAI開発コンペティションサイトを運営するSIGNATE(シグネイト)は、大手SIerの営業職とエンジニアに対してAIの基礎が学べるオンラインプログラムを提供し、大手メーカーやサービス業の企業なども導入を検討中だ。
同社の教育プログラムを導入する企業の狙いについて、同社の夏井丈俊COOは「SIerなどではAI関連の顧客ニーズが増える中で、AIの基礎的な知識を持ちながらシステム構築や運用のプロジェクトを推進できる幅広い人材の育成を図る必要性が高まっています。また、AI開発まで手掛ける企業では高度なエンジニアの採用が必要ですが、多くの企業ではデジタル化を進めていく際にベンダーなどと一定レベル以上の会話ができる人材を育てることが教育ニーズとして広がっています」と説明する。