旅客と貨物を一緒に運ぶ「貨客混載輸送」が徐々に拡大。これまでは距離が比較的短いローカル線が中心でしたが、長距離の新幹線で魚介類輸送の実証実験が始まりました。新幹線を物流に使うと、どのような利点と課題があるのでしょうか。

ウニと甘エビが新幹線でやってきた

 JR東日本グループなどは2019年6月11日(火)、新幹線で魚介類を運ぶ「鮮魚輸送」の実証実験を開始。東京駅で列車から魚介類を降ろすところなどを報道陣に公開しました。


東北新幹線「やまびこ44号」から降ろされたウニのケース。車内販売の業務用スペース(左側のドアがない部分)に載せて運んだ(2019年6月11日、草町義和撮影)。

 この実証実験は、岩手県の三陸沿岸と新潟県の佐渡沖で取れた魚介類を、新幹線の旅客列車で東京都内に輸送するもの。実験初日の11日は、三陸沿岸の田老漁港(岩手県宮古市)で水揚げされた生ウニ約7.7kgがバスで盛岡駅(同・盛岡市)まで運ばれ、東北新幹線「やまびこ44号」の車内販売用スペース(5号車)に載せ替えられました。

 東京駅には14時24分に到着。一般の乗客が列車から降りたあと、5号車のドアからウニの入った発泡スチロールのケースが降ろされました。続いて14時44分には、佐渡沖で取れた生の甘エビ約600gを載せた上越新幹線「とき320号」も到着。こちらは佐渡汽船の高速船(ジェットフォイル)などを使って新潟駅まで運ばれ、「とき320号」に載せ替えられました。

 東京駅からはさらにトラックに載せ替えられ、品川駅構内の鮮魚店「sakana bacca(サカナ・バッカ)」へ。16時ごろには店頭に並びました。


「やまびこ44号」が東京駅に到着。

5号車のドアからウニの入ったケースが降ろされた。


 近年、旅客列車で宅配便の荷物などを旅客と一緒に運ぶ「貨客混載輸送」の導入が各地で相次いでいます。すでにある車両を使うことから、鉄道会社にとってはコストを抑えつつ収入を増やすことができ、宅配会社は輸送区間の一部を鉄道に転換することで、深刻化するトラック運転手不足を解消できるなどのメリットがあります。

 現在はローカル線を中心に貨客混載が行われていますが、長距離路線の新幹線でも貨客混載を行おうとの動きが出てきました。

新幹線で運ぶのに大きなメリットがある

 JR九州は2019年3月、同社グループの中期経営計画に「新幹線を活用した物流事業の検討」を盛り込みました。東北・上越新幹線で始まった今回の実証実験も、貨客混載のテストといえるもの。JR東日本の子会社でベンチャー企業への投資などを行っているJR東日本スタートアップと、水産物の卸・小売会社のフーディソンが共同で企画しました。


現在の貨客混載輸送はローカル線が中心で輸送距離も短い。写真は北越急行ほくほく線の旅客列車で行われている宅配便荷物の貨客混載輸送(2017年4月、草町義和撮影)。

 日本の鉄道では、明治時代から魚介類を運ぶ貨物列車が運転され、魚介類専用の貨車(冷蔵車など)も登場。戦後の1960年代には高速運転に対応した冷蔵車が開発され、九州〜東京間などで魚介類専用の特急貨物列車が運転されました。しかし、トラック輸送の発達などで鉄道貨物輸送が衰退し、国鉄(現在のJR)では1986(昭和61)年までに冷蔵車や魚介類専用の貨物列車が消滅。いまは鉄道で魚介類を運ぶ場合、冷蔵コンテナや冷凍コンテナを使っています。

 JR東日本スタートアップの柴田 裕社長は、実証実験後の記者会見で「新幹線のメリットは(トラックや在来線の貨物列車に比べて)ムチャクチャ速いこと」と話し、時間の経過で鮮度が落ちる魚介類を運ぶときなどに、大きな効果があるという認識を示しました。同社マネージャーの阿久津智紀さんも「今回の実証実験の場合、水揚げから店頭に並ぶまで6〜7時間かかりましたが、トラックなら2日以上になると思います」と話しました。


品川駅構内の店頭に並んだウニと甘エビ。甘エビは上越新幹線「とき」で運ばれた。




 ただ、旅客列車のスペースの一部を使うことになるため、一度に運べる量には限りがあります。昔のように魚介類専用の車両を導入することも考えられますが、それではコストが高くなるという問題が。柴田社長は「新幹線では多数の旅客列車が運転されています。もし輸送力を強化するとしたら(専用の車両を導入するのではなく)魚介類輸送に対応した旅客列車を増やす方向が考えられると思います」と話しました。

 JR東日本スタートアップによると、この実証実験は2019年6月21日(金)までの計6日間、行われる予定です。