ビルの窓に取り付けられたサッシのメンテナンスをするベトナム人の技能実習生と日本人の職人たち(筆者撮影)

技能実習生として来日する外国人は、年々増加している。中でもここ数年で急増しているのがベトナム人。外国人技能実習制度を利用して、日本で働いている技能実習生たちは、全国に約30万8000人いる(2018年10月末時点)。そのうち約45%をベトナム人が占める。

低賃金で劣悪な環境での労働を強要されるなど技能実習生に関しては暗いニュースばかり目立つが、実際はどうなのか。福岡の現場を追った。

外国人技能実習制度は、国際貢献のため、開発途上地域等の外国人を一定期間(現在は最長5年)受け入れ、OJTを通じて技能や知識を学び、帰国後に母国の経済発展に役立ててもらうための制度。1993年に創設された。

受け入れ方式は「団体監理型」が約97%で、残りは「企業単独型」。団体監理型の場合、送り出し国の「送り出し機関」が現地の人材募集・決定・研修を担う。そして日本で非営利の「監理団体」が実習生を受け入れ、傘下の企業などで実習を行う。

なぜ福岡でベトナム人を受け入れているのか

福岡では古くからアジアとの交流が盛んだ。行政や経済界もアジアに目を向けており、福岡県の経済団体・福岡県中小企業経営者協会連合会(中経協)もその1つ。同会は2018年3月に監理団体・グローバルイノベーション事業協同組合(グローバCA)を設立し、ベトナム人技能実習生の受け入れを始めた。

グローバCAの中核を担う徳丸順一さんは、福岡出身でパナソニックに就職し、2008年から5年間ベトナムのハノイに駐在した経験がある。現地工場の立ち上げから、人事や経理などの責任者を務めた。「当時のハノイは街なかでも馬や水牛が歩き、のどかな雰囲気。工場で働く人たちは穏やかであたたかく、若者なのにおじいちゃんやおばあちゃんのようで親しみを感じました。その人間性は今も変わりません」と語る。


グローバルイノベーション事業協同組合 専務理事の徳丸順一さん。福岡とベトナムを行き来している(筆者撮影)

ベトナムに魅せられた徳丸さんは、帰国後に退職。海外との連携を模索していた中経協に声をかけられ、グローバCAを立ち上げた。

「優秀な外国人は給与水準の高い関東や関西へ行ってしまう傾向がある。福岡で働きたいベトナム人を受け入れ育てて、将来的にはビジネスの懸け橋になってもらえればと願っています」

現在、ベトナム人にとってもっとも多い就労先は日本。以前は台湾だったが逆転した。

日本向けの送り出し機関は、ベトナム国内で300を超えるという。技能実習生は地方出身の若者が大半だ。送り出し機関に1人50万〜200万円ほどを払って来日する。彼らは多額の借金を背負い、それでも日本を目指す。日本で稼いで家族の生活を支えたい、日本と関わることでランクアップしたいという夢があるのだ。

グローバCAの立ち上げにあたり、徳丸さんはベトナムの送り出し機関を30ほど、福岡の監理団体も多数見て回った。「技能実習生の制度は、いわゆる人材ビジネスになっています。私がベトナムの送り出し機関に行くと過剰な接待を受けたり、健全ではない気配も多々あり……。私たちは明るくクリーンにしたくて、信頼できる3つの送り出し機関と契約し、自分たちで監理団体を立ち上げることにしました」

グローバCAでは2018年10月に受け入れを始め、2019年3月末までに福岡県内の会員企業5社でベトナム人男女17人が働き始めた。仕事は建築関係や工場、ビルメンテナンスなど。マッチングの手順はこうだ。実習生を受け入れたい企業は、グローバCAを通して送り出し機関に求人票を出し、1〜2カ月後に現地で面接。採用者は送り出し機関で半年、日本語やビジネスの研修を受けて来日する。

実習生とのトラブルもつきものだが…

「ご紹介した会社の方々には、実習生がしっかり頑張ってくれると喜ばれています」と徳丸さん。ただし、彼らはまだ日本語を勉強中。「相手の日本語がわからないとき、笑顔でごまかすことがある。送り出し機関で、日本人は笑顔で働くと教えられるようなんです。それがトラブルのもと。わからないときはわからないと言うように指導しています。

一方、企業の方にも、実習生が言葉を理解できなくてもイラっとせず、ゆっくり話してあげてほしい、そうしないと流したりごまかしたりするようになるので、とお願いしています」

技能実習生が、近隣住民から不審がられたこともある。「暗いニュースの影響もあるのでしょうか……。彼らが夜、仕事から自転車で帰ってきてベトナム語で話していたら、警戒されても仕方ないかもしれません」。

そこは、住民に笑顔で挨拶することで解決できるはず、と徳丸さんは力を込める。「彼らは『日本は礼節の国。しっかり挨拶するように』と研修を受けて来るけれど、いざ職場で元気に挨拶してもシラーっとした反応で、そのうち挨拶がおろそかになることも。企業の方には、挨拶を返してあげてくださいと話しています。職場で挨拶しなければ、地域でもできませんから」。

グローバCAには県内の企業から「うちもベトナム人を受け入れたい」という声が多く寄せられ、6月までにさらに20人が入国予定だ。うち2人は、日本でも注目されている介護分野。「日本としては積極的に介護人材を受け入れたいようですが、日本語レベルや研修などの条件が非常に厳しく、そのわりに給与はさほど高くないため、求人を出してもなかなか応募がありません。ベトナム人は家族を大切にするから介護も好きなはず、というのは日本人の勘違い」と指摘する。

そして「今はベトナム人のほうが選べる立場。彼らは横のつながりが強く、フェイスブックなどのSNSを通じて給与や待遇の情報を共有し、ベトナム本国にまで伝わる。いいことも悪いことも筒抜けなのです。いい人に来てほしければ適切な給与を設定し、大切な人材として接することが重要です」と語る。

グローバCAでは、日本語学校で学びながら、会員企業でアルバイトするベトナム人もサポートしている。飲食店でバイトリーダーになるベトナム人も出てきたという。「日本語はまだ十分でなくても、真面目に働いてくれる彼女たちはバイト先で頼りになる存在。日本人はちょっと注意するとやめてしまったりして続かないらしく、日本の将来が心配になりますね」と徳丸さんは明かす。

受け入れ企業の社長に同行して、技能実習生が働く現場を見学させてもらった。宇美町の誠榮技巧は、ビルや学校などのサッシ取り付けを主とする建築会社。佐々木誠社長がベトナム人技能実習生を受け入れ始めたのは2018年11月だ。日本ではいい人材が集まらず、仕事の現場で他社の外国人実習生が働く姿を見て、グローバCAに相談した。


現場で働く職人たち。左から3番目が佐々木社長で、その左右がベトナム人の技能実習生。左がダットさんだ(筆者撮影)

初めて訪れたベトナムは「エネルギッシュで、日本人にとても友好的。送り出し機関に行くと、みんな礼儀正しくハキハキ挨拶して、AKB48グループの曲を歌ってくれたりした」と好印象を持った佐々木さん。

現地で9人と面接し、19〜23歳の男性3人を選んだ。「その場で採用決定を伝えると、『やったー』と大喜びしてくれて。日本ではそんな素直な反応を見たことがなかったので、とてもうれしかった」と振り返る。

将来は日系企業で働きたいという夢も語った

3人は佐々木さんの自宅の隣にある一軒家で暮らしている。毎朝、同僚である日本人の職人が車で迎えに来て、現場へ行く。一緒に働くメンバーと現場は、仕事の状況に応じて変わる。


3人が暮らす一軒家の2階にある寝室。清潔できれいに整えられていた(筆者撮影)

「最初はうちの職人も3人も戸惑っていたと思う。日本語の読み書きがある程度できても、職人は博多弁で早口だからヒアリングが難しいよね。現場は安全第一、双方にしっかりコミュニケーションを取ってほしいと伝えています」と佐々木さん。

何度か行き違いもあったが、職人たちは3人の人間性や仕事ぶりに接し、距離が縮まったという。今では仕事外でも一緒にご飯を食べ、生活の相談にものる。

3人がもっと学びたいと意欲をみせ、職人から「時間が空いたときに新しい技術を教えていいですか?」と佐々木さんに連絡がきたこともある。

3人は節約するために自炊し、現場に手作りの弁当を持ってくる。仕事は17時頃に終わり、夜は家でゲームをしたり、ベトナムの家族とビデオ通話で頻繁に話したりするという。穏やかな雰囲気のゴー・タイン・ダットさんは、いちばん年上で2人のお兄さんのような存在。


真剣なまなざしで黙々と働くダットさん(筆者撮影)

故郷で農業を営む両親と学生の弟がいる。仕事の内容に強いこだわりはなく、まずは来日するために借りたお金を返済し、稼いだお金を両親に送ることを第一に考えているという。

「正月にベトナム人15人でこの家に集まり、みんなでご飯を食べたのが楽しかった」と携帯の写真を見せてくれて、「佐々木社長が優しいから安心して過ごせます。将来は日系の会社で働きたい」と語った。


月に1度、グローバCAのスタッフ(右)と面談する際は、パソコンのビデオ通話でベトナム語の通訳も交えて、ざっくばらんに本音を聞く。この日はダットさんが「もっと長時間働きたい」と話していた(筆者撮影)

佐々木さんは言う。「彼らはすごいですよ。20歳前後で見知らぬ国に来て、新しい環境で仕事をする。その合間に日本語や資格の勉強をして、普段からきりつめて自炊で生活し、家族にお金を送る。親への感謝の気持ちも口にする。いやあ、自分にはとてもできない……。

一生懸命な彼らにこちらも精いっぱい応えたい。技能実習生は働ける期間が限られていて、その後はあまりフォローされていないようです。彼らがこの仕事に興味を持ってくれたら、私は実習後も何らかの形で付き合いを続けていきたいし、ビジネスのパートナーになってくれたらいいなと思います」。

外国人就労を拡大すべく、改正入管法も施行

外国人労働者の受け入れ拡大を図る出入国管理法(入管法)も改正され、4月1日から施行された。法務省から新設された出入国在留管理庁(入官庁)は新しい在留資格である「特定技能」の制度を開始した。対象業種は介護や外食といったサービス分野だけでなく建設など14種で幅広い分野が対象となる。5年間で最大30万人以上を受け入れる方針だ。

この制度は深刻な人手不足の状況に対応するため、専門性や技能を有する即戦力となる外国人を受け入れる制度だ。既存の技能実習制度では5年までで帰国を余儀なくされたが、その後「特定技能」の在留資格を取得すればさらに5年間、合計で最長10年間在留することも可能(技能実習3号まで修了し特定技能1号に移行した場合)だ。3年以上の経験を持つ技能実習生(技能実習2号を良好に修了した者)は「特定技能」1号資格に無試験で移行できる。

外国人技能実習生の低賃金・長時間労働による過酷な労働環境、実習生らの相次ぐ失踪……報道からも垣間見えるように彼らをとりまく状況が厳しいのは事実だ。法務省は、2018年の失踪実習生数が過去最多の9052人になったと発表した。受け入れる日本側も戸惑い、模索を続けている。

しかし、今回福岡の現場を取材してわかったように、夢を抱いて日本で働くベトナムの若者たち、彼らをあたたかく受け入れる日本の人々もいる。

そんな人たちにも目を向けながら、所管する行政機関と受け入れ先企業などが一体となり、社会全体で外国人就労の問題点を是正し、いい環境を整えていくことが望まれる。