水谷豊が監督・脚本・出演を果たす映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』は、5月10日公開予定 (東洋経済オンライン読者向け試写会への応募はこちら) ©2019映画「轢き逃げ」製作委員会

「子どもの頃からずっと自分が観客でした。観客として観てきた、たくさんの映画に心を動かされて、いまの自分がいる。自分が映画を作る時も、そうできればいいなと思っていました」――。5月10日に全国公開予定の映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』のメガホンをとった俳優・水谷豊は、映画に対する思いをそう語る。


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水谷豊監督作第1弾となる映画『TAP THE LAST SHOW』は2017年6月に公開。それから2年の時を経て第2弾の監督作が公開されたわけだが、その間も、半年近くにわたって放送される『相棒』のテレビシリーズや、時代劇の「無用庵隠居修行」シリーズなどに出演。俳優として多忙を極める中での公開だ。しかも脚本も自身が手がけたということで、本作に対する思い入れも非常に強いものがあるのだろう。

本作の物語は、とある地方都市で起こった“轢き逃げ”事件から始まる。車を運転していた青年・宗方秀一(中山麻聖)と、助手席に乗っていた親友・森田輝(石田法嗣)は、秀一の結婚式の打ち合わせに遅刻して焦るあまり、裏道を抜けようとしたが、そこで1人の女性の命を奪ってしまう。

轢き逃げ事件から始まるサスペンス

しかし周囲には人気がなく、気が動転した彼らは、あろうことか逃走してしまう。彼らの平穏な日常は一瞬にして崩れ去ってしまった。物語は、秀一と輝に加えて、秀一の婚約者である大手ゼネコン副社長の娘・白河早苗、悲しみにくれる被害者の両親・時山光央と千鶴子、その事件を追うベテラン刑事・柳公三郎と新米刑事・前田俊ら周囲の人物たちの思いを織り交ぜながら、大きなうねりを見せていく――。

監督デビュー作『TAP THE LAST SHOW』を撮り終えた水谷監督は、プロデューサーたちと「次回作は何がいいだろう」という話をしていたが、「水谷流のサスペンスが観てみたい」という話になり、本作の構想が生まれたという。

だが、サスペンスとは言いながらも、事件の真相を刑事が解き明かすような作品ではなく、「轢き逃げ」という悲劇に向き合うことになった7人が、どのように自分に折り合いをつけるのかを描き出した人間ドラマとなった。


主人公・秀一役の中山麻聖(左)はオーディションで決定。秀一の婚約者役には若手の注目株・小林涼子(右)が務める ©2019映画「轢き逃げ」製作委員会

水谷監督が「人間の心の奥底には自分でもわからない感情が潜んでいる」と語るとおり、単純に答えを出すことはできないそれぞれの複雑な心境がぶつかり合い、観る者の心を揺さぶる。また脚本に関しても、「脚本の執筆を終えると、監督としての新たなアイデアが出てくるのも不思議な経験でした。今になると、僕の場合は脚本執筆と監督が地続きになっており、自分の構想を監督として映像化するに当たり、脚本の執筆は必要不可欠であった」と振り返る。

主演の2人はオーディションで決定

配役に関しては、「生活感というか、若者特有の生っぽさが欲しかった」という水谷監督の思いから、主人公の秀一役の中山麻聖、親友の輝役の石田法嗣をオーディションで選んだ。

デビュー作『TAP THE LAST SHOW』でも、圧巻のタップシーンを演じられるキャストを探すために、300人強の若いダンサーを集めたオーディションを実施。第一線で活躍する俳優だけあって、キャスティングへのこだわりが強いようだ。現場でも、俳優に対する演出が具体的で、時には「こんな感じでやってみて」と手本を示すこともあったという。


水谷監督の盟友・岸部一徳(左)もこの作品に出演 ©2019映画「轢き逃げ」製作委員会

そして水谷監督の盟友ともいうべき岸部一徳、水谷監督とは旧知の間柄である檀ふみらベテラン勢も出演。水谷監督が「毎回、わたしの想像を上回る芝居を見せてくれた」と感服するとおり、圧倒的な存在感を見せつけている。

撮影、照明、編集、美術といったスタッフ陣は「相棒」シリーズなどで水谷監督とタッグを組んできた精鋭が参加。本作のテーマソングは手嶌葵の「こころをこめて」。「観た人が映画館を出るときに前向きな気持ちになってほしい、そのためには優しく包むような女性の声で最後を締めてほしい」という水谷監督の思いに合致したのが彼女の透き通った声だったという。

また、本作は日本映画初となる「ドルビーシネマ」対応作品となっている。ドルビー社が提唱する「ドルビーシネマ」とは、広色域で鮮明な色彩と幅広いコントラストを表現する最先端映像技術「ドルビービジョン」、観客の周囲を包み込むような立体音響技術「ドルビーアトモス」の2つにインテリアカラー、空間デザイン、座席アレンジメントといったシアターデザインを組み合わせることによって、極上の観賞空間を提供するシアターシステムのこと。


被害者の両親役は水谷豊(左)と、檀ふみ(右)が演じる ©2019映画「轢き逃げ」製作委員会

『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』『ROMA/ローマ』など、本年度アカデミー賞ノミネート作品のほぼ全作品に採用されている最新技術で、ハリウッドで活躍するクリエーターたちの評価は高い。現在日本ではT・ジョイ博多に導入されているが、MOVIXさいたまにも4月26日に導入される予定だ。

このハリウッドクオリティの映像システムを導入した理由について水谷監督は「以前、会田撮影監督から見せてもらった最新鋭の映像のことが頭から離れず、『いつか日本でも』という思いを持っていました。その思いをかなえてくれるドルビーシネマに幸運にも出会い、この作品が日本映画初となることをうれしく思います。

日本映画でもドルビーアトモスが導入されはじめ、本作のドルビービジョン採用から、ドルビーシネマの可能性を取り入れることで、日本映画の映像表現や未来が変わっていくと思います。観客も、より集中できる環境で映画を楽しめるようになれば、感じ方がより複雑になり、生々しく心に響くのではないでしょうか」と期待を寄せる。

邦画初のドルビーシネマ採用作品

撮影の会田正裕氏は「ドルビービジョンは、肉眼で見るイメージの明るさなので、観客も、本物を見ているような感覚で、映画を観ることになる。3Dとは違って、今まで描き切れなかった深い暗部の表現をはじめ、作品世界に潜在的な幅を持たせることができるので、日常的な出来事を描いた本作には、非常にマッチしていると思います」とコメント。

さらに録音の舛森強氏も「ドルビーアトモスは上からも音が鳴るので、高さを含む三次元的な空間を、観客に意識させることができる。イタリアンレストランのシーンで、秀一の倒錯した世界を表現するうえでも、アトモスは大変有効でした。ワイングラスで乾杯してから、無音になり、婚約者の声が遠のいていく中に嫌な音を入れて、グラスの割れる音で現実に引き戻されるまでを、ぐるぐると音を回しながらドラマチックに表現できました」とそのメリットを強調する。

水谷監督の俳優デビューは1968年。それから50年以上にわたり第一線で活躍してきた。『傷だらけの天使』『熱中時代』『相棒』など、その時代ごとに違った役柄に挑み、絶大なる支持を集めてきた。そして今は監督という肩書きも加わる。今後、彼がどのように進化していくのか、注目したい。

(文中一部敬称略)