■「平成32年」との契約書記載は有効?

今上陛下のご退位で、平成の世も残り4カ月弱。2019年5月1日に改元され、以降は新元号が使われる。新元号の発表は19年4月以降。1カ月以内に新元号に対応しなければいけないとあって、和暦表記のシステムの改修を担うエンジニアたちからは、悲鳴があがっている。

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じつは改元の影響を受けるのはシステムに関わる人たちだけではない。アナログで仕事をしているビジネスパーソンも注意が必要だ。

たとえば契約書の年月日表記。契約期間について「平成32年9月まで」と書かれていた場合、この契約書は有効だろうか。水町雅子弁護士は次のように解説する。

「平成32年は存在しませんが、新元号2年であることは明らかなので、契約書が無効になることはありません。わざわざ書き直して契約をし直す必要もありません」

ならば放っておいていいというものでもない。古い元号を新元号に計算し直すときにミスが発生しかねず、あとで混乱を招くおそれがある。

混乱を防ぐのに一番いいのは、西暦表記にすること。いままでのものを書き直す必要まではないかもしれないが、いまから作成するものに関しては雛型を作り直すなどして対応したいところだ。

■官僚・弁護士は、和暦思考で動く

グローバルな視点で考えても、年月日は西暦表記がベター。和暦の伝統的価値は認めつつも、ビジネスでは西暦に統一したほうが合理的だ。

しかし、表記を和暦から西暦に変更するのは容易ではない。役所が和暦主義だからだ。

「契約書は弁護士が雛型を作るケースが多い。弁護士は、和暦思考が強い。というのも、裁判の事件番号がすべて和暦だからです。裁判所が西暦を使わないかぎり、弁護士の習慣も変わらず、和暦の契約書が多いままでしょう」(水町氏)

和暦で動くのは、他の公的機関も同じ。役所が関わる書類が和暦だと、民間企業もそれに引きずられやすい。

役所が作成・発行する書類の年月日表記について、法律に定めはない。各種証明書類の書式の多くは、各省庁が省令で自由に決められる。ゆえに西暦でもかまわないが、「官僚は自らたとえば『57年組』(昭和57年に入省)などと称すように、和暦の意識が強い」(同)こともあって、現実には多くの書類が和暦表記だ。

例外もある。外国の入管が見るパスポートは当然、西暦表記だ。ユニークなのは、マイナンバーカード。有効期限は西暦表記だが、生年月日は和暦表記になっている。

「マイナンバーカードは地方公共団体情報システム機構が作成していますが、ここはシステム屋さんが中心の団体。SEの発想なら、西暦表記が自然です。一方、生年月日は住民票から引用しているので和暦表記。ゆえに混在する形になったのでしょう」(同)

同じカード上に年月日表記が2種。まさに現状のいびつさが表れているといえる。

(ジャーナリスト 村上 敬 答えていただいた人=弁護士 水町雅子 図版作成=大橋昭一 写真=iStock.com)