アジアカップで森保Jのターンオーバーは成功したと言えるのか?
アジアカップで準優勝に終わった日本代表。優勝を目指していたこの大会で、森保一監督の選手起用法について、さまざまな意見があった。約1カ月で7試合を戦う国際大会で、選手のコンディションも考えたマネジメントはどのようにするべきなのか。元日本代表の福田正博氏が考察した。
格下のカタールに敗戦。アジアカップ準優勝の日本代表
アジアカップ優勝を目指して熱戦を続けた森保ジャパンだったが、決勝でカタールに敗れて準優勝。それでも、決勝までの7試合を戦い抜いたことは、今後のコパ・アメリカやW杯予選、W杯カタール大会へ向けて貴重な経験だったと言える。
W杯やアジアカップなどの国際大会は、1カ月ほどの短期決戦で7試合を戦い抜かなければ優勝できない。そのため「W杯を勝ち抜くには、スタメンも控えも全選手をうまく起用するターンオーバーが必要」と言われることが多い。
こうした意見は、2010年W杯南アフリカ大会で準優勝したオランダ代表が、初戦から決勝戦までの7試合で23人を使ったことや、EURO2016で優勝したポルトガル代表は、7試合で22人を起用したことなどが根拠にされている。
W杯南アフリカ大会で優勝したスペイン代表では、出番がなかったのはイケル・カシージャスの控えGKの2選手だけで、7試合で21選手が起用された。
この数字だけにフォーカスすれば、「ほぼ全選手が試合に出場する総力戦で、スペインはW杯初優勝を勝ち取った」と受け取れる。だが、実情は少々異なる。たしかに、招集メンバーのほとんどが試合に出場してはいるが、毎試合スタメンの顔ぶれが違っていたかというと、そうしたことは実はない。5選手は1試合だけの起用で、もうひとりも出番があったのは2試合のみ。スタメン11人のうち9人は固定され、あとのポジションは6選手の調子を見ながら、先発か途中出場かを使い分けたのだ。
昨年のW杯ロシア大会で優勝したフランス代表も同様だった。決勝戦までの7試合で21選手を起用したが、そのうち6選手は1試合のみ起用されたに過ぎない。
たしかに、強豪国は同じ力を持つチームを2つ作れるだけの戦力が揃っている。実際、スペインにしろ、フランスにしろ、W杯メンバーから落選した選手でチームを作っても、本大会に出場したチームと遜色ない結果を残した可能性はある。
だが、チームには序列が不可欠だ。同じようなレベルのチームを2つ持ち、W杯期間中にローテーションしながら戦うのは至難の業。選手たちはそれぞれが高いプライドを持ち、感情がある。そんな選手たちを2チーム分もマネジメントとするとなれば、コントロールする指揮官の力が及ばなくなるケースも十分ありえる。そうなると、チームが空中分解してしまいかねない。だからこそ、「スタメン」「途中出場」「控え」という役割分担をはっきりさせてチームをひとつにまとめ、勝利に導くことが監督の仕事になる。
また、代表チームが国際大会でターンオーバーを使用して、選手を数多くピッチに送り出すのは、コンディショニングのためだ。なぜコンディショニングを重視するかといえば、それが優勝するための最重要ファクターだからだ。
これが1シーズンという長いタームで戦うクラブの場合、獲得したいタイトルのプライオリティによってスタメンを変えることもあれば、故障者や重点的に育成したい若手など、クラブごとの事情や狙いに応じてターンオーバーを敷く。しかし、代表での国際大会は、中3、4日で試合をする短期決戦。そのため一戦必勝で、試合のない日は次の試合に向けた準備に使われる。
アジアカップでの日本代表について考えてみよう。森保一監督はグループリーグ初戦、2戦目と先発メンバーをほとんど変えることなく戦って2連勝で勝ち点6を積み上げ、第3戦はメンバーを大きく変更して臨んだ。交代枠を使い切らない采配に批判的な論調もあったが、この森保監督の采配の真意は、目的意識が欠落していては気づきにくいものだ。
もちろん、試合展開や得点差に応じて早めに選手交代をして、次戦への備えをする場合もあるが、大きく選手を入れ替えるターンオーバーができるのは、国際大会の場合はグループリーグの第3戦しかない。
これはW杯優勝国など強豪国の戦いぶりを見てもわかる。たとえば、ロシアW杯で優勝したフランス代表が1大会での選手起用数が増えた要因は、グループリーグの1、2戦目で連勝し、迎えた第3戦で主力を温存して控えメンバー中心で戦ったからだ。
W杯ロシア大会の日本代表は、グループリーグ第2戦のセネガル戦を引き分けで終えたが、仮にあそこで勝ち点3を獲得できていたら、第3戦のポーランド戦では主力を温存できた。そうすれば決勝トーナメントでは違う結果を導き出せていたのかもしれない。
その第3戦でターンオーバーを実行するためには、グループリーグ2戦目までに決勝トーナメント進出を決めていなければならない。そのため、今回のアジアカップの森保ジャパンも、1、2戦は全力で勝ち点3を手にすることを優先したと言える。
第3戦でターンオーバーして戦えるメリットは、それまでスタメン起用した選手を温存し、体力の回復に充てられることだけではない。それまで控えとしてベンチを温めていた選手たちが溜め込んできた「試合に出たい」という欲求やストレスの解消と、決勝トーナメントを見据えたチーム全体のコンディション向上に充てる側面もある。
また、選手個々の調子の見極めも重要なポイントになる。短期決戦ではどれほど力を持つ選手でも、波に乗れなければ結果を出すことは難しい。とりわけ攻撃的なポジションの選手ほど、これが当てはまる。
攻撃陣の場合、選手の組み合わせ次第では新たなコンビネーションが生まれるケースもある。また、一人ひとりの特長が異なるため、相手の戦力を見極めて、味方の選手のストロングポイントを活かせるように起用選手を変える方法もある。
一方、ターンオーバーを守備陣で実施するのは難しさが伴う。DF陣は連携しながら組織で守るケースがあるため、選手を入れ替えたことでDFラインにズレや狂いが生じれば、失点につながる。とりわけ中核選手を代えることはリスクが高い。
これらを理解したうえで、ベンチメンバーの調子を見定めて、起用選手の優先順位を変えることも指揮官の大事な役目であり、さらに、決勝トーナメントで累積警告による出場停止があった場合への備えや、試合展開に応じた交代で投入する選手のプライオリティを再考する場合もある。
アジアカップでの森保監督が、1戦目と2戦目に積極的にメンバーチェンジをしなかったのは、第3戦での戦い方を想定していたからだろう。そして、何より大きかったのは、スタメンを入れ替えて臨んだ第3戦に勝ったことだ。この試合は、先発メンバーが様変わりしたことで初めて一緒に戦うメンバー構成になったが、それでもボランチに青山敏弘を配置するなど、森保監督の意図するサッカーを展開したと言える。
初戦、2戦目とベンチだった選手たちは、3戦目で結果を出せば、「その先でも使われたい」と思うものだ。しかし、彼らの優先順位が上がることはあっても、「即スタメン起用」とはならない。
よく「競争しろ」とも言われるが、国際大会を戦う代表チームに競争は不要だろう。W杯やアジアカップなどの国際大会で必要なのは「チーム一丸となって戦うこと」であり、競争はそれ以前のところで終えていなければならない。国際大会の期間中もチーム内での選手同士の競争意識を煽れば、選手のオーバーワークやケガ、チームの不協和音を誘発しかねない。また、次戦に向けてのコンディションが整わない事態も招く。
ただし、スタメンの選手が「自分のポジションは安泰」と油断しない環境をつくることも大事なことだ。そのためには、ベンチメンバーがターンオーバーで起用された試合で活躍して、スタメン組に刺激を与えることも不可欠。その点で、アジアカップでの日本代表の第3戦は、最高の結果を手にしたといえる。
こうした戦いができたのも、日本代表の総合力が高まっているからだ。1993年にW杯アメリカ大会のアジア最終予選をドーハで戦った時は、左SBのレギュラーだった都並敏史さんが左足を骨折していてピッチに立てず、最終的に本来CBの勝矢寿延さんが代役をつとめた。それほど選手層は薄かった。日本サッカーのレベルは年々向上してきたが、あの頃と比べれば日本代表の総合力は間違いなくアップしている。
しかし、W杯で日本代表がフランス代表のような戦いができるかといえば、まだまだ力が足りていないのが現実だろう。だからこそ、アジアカップでの森保監督の選手選考やマネジメントからは、タイトルを狙いながらも、来年の東京五輪や3年後のW杯カタール大会に向けて、若い選手に経験を積ませて成長を促したいという思惑も伝わってきた。
22年のW杯カタール大会で、日本代表がターンオーバーを有効に使えるレベルに達するためには、総合力をさらに高めていく必要がある。そのためには今回のアジアカップでスタメンを張った選手たちが大きく育つことはもちろんだが、これからの3年間で彼らをベンチに追いやるような選手が現れるかどうかにもかかっている。