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「発売当初は、皮膚がんの一種である悪性黒色腫にのみ、適用がありました」

 医療経済ジャーナリストの室井一辰さんがそう説明するのは、小野薬品工業の抗がん剤『オプジーボ』。開発のもとになった本庶佑特別教授の研究が今年のノーベル医学生理学賞を受賞したことで、世間の関心を一挙に集めた薬だ。

4割も出荷量が増えたワケ

 発売当時の価格は、100mgあたり約73万円、患者ひとりの年間使用料は3500万円と高額だったが、その後、段階的に薬価は引き下げられ、今年11月には同17万円に。4年間で76%も安くなった。

 前出・室井さんは、

「1年間投与した場合で約800万円。そのうちの3割が患者負担になるので、だいたい240万円が年間の支払額になります。

 もともと『オプジーボ』は、年間470人に使われるという想定で価格が設定されました。ところが'17年4月から'18年3月までの1年間で、1万7000人に使われた。利益も想定以上になったということで、値下げされました」

 と説明する。

 そのうえ、一定の基準を超えた医療費を抑えられる高額療養費制度が使えるという。

「収入により異なりますが、年収700万円の家庭で月100万円の医療費がかかったときの支払いは8万7430円です」(同)

 価格は下落した。だが、その分をカバーしても余りあるほど『オプジーボ』の出荷量は4割ほど増えている。そのワケは適用できるがんの種類が増えたから。当初の悪性黒色腫から、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、根治切除不能または転移性の腎細胞がんなど全部で7つのがんに効果・効能が広がった。

 前出・室井さんが解説する。

「新たにがんと診断される人は2014年で約87万人いましたが、悪性黒色腫の患者数はそのうちの1%にも満たない。一方で肺がんと診断される人は年間で約11万人。使われる薬の量も一気に増えたというわけです」

 さらに、「とてもいい薬ですが、1〜2割しか効かないことを知っておくといいですね」と前置きし、こう続ける。

「『オプジーボ』は肺がんや胃がん、腎細胞がんについては、現在は、手術ができない、再発した、病状が進行している─場合などに使う薬になっています。

 また『オプジーボ』は、免疫力を高めてがんを攻撃するのですが、逆にその免疫力で自分自身を攻撃してしまうこともあるんです。その点は留意しておくことが必要です」

 『オプジーボ』に続く薬だけでなく、新たな免疫療法も登場しているという。

 第2、第3の『オプジーボ』の登場で、がんが治る時代の到来もそう遠くなさそう。