首都圏初の計画運休。さまざまな課題も残った(写真::あやともしゅん / PIXTA)

鉄道の計画運休に関する検討会議が10月10日、東京・霞が関の国土交通省で開催された。JR各社と北から南までの民間鉄道、あわせて22事業者が集まって、台風24号を中心とした「計画運休」の実施状況の報告と意見交換を行った。浮き彫りになったのは、公共交通の社会的責任と利用者の安全のはざまで台風に揺さぶられた鉄道事業者の決断の温度差だった。


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たとえば、首都圏全域で在来線の計画運休を実施したJR東日本の場合、台風上陸前の9月30日時点では、台風通過後の翌朝から通常運転する予定だった。

しかし、未明にかけての風雨は想像以上に強く、安全点検実施後に始発から運転を始めることは難しいと夜中のうちに判断。保線員を添乗させてより詳細な全線の安全点検を行ってから運転再開するという方針に切り替えた。通常運転のための輸送力を通勤時間帯に確保できなかったのはそのためだ。

国交省鉄道局は「運転再開後に被害状況がわかるということがないように、支障を確実に発見する方法を検討することが必要」と語った。

東武は台風情報を考慮したが…

運転休止を表明しなかった東武鉄道も強風に倒木などの撤去作業に苦しめられた。同社は特急列車の一部運休を予定したが、台風接近後も通常運転を続けることを決めていた。営業区間の台風情報を考慮した上での判断だった。しかし、結果としては強風による運休、減速が繰り返され、全線で断続的な輸送障害に陥った。翌朝の運転再開でも倒木に突っ込むなどして数時間にわたって運転がストップした。

一方、関西では計画運休がスムーズに行われ、翌日も特段の問題は生じなかった。JR西日本は、すでに9月28日から運休の可能性を示唆。29日には翌日の台風接近に伴う全面運休の可能性を発信し、夕方に計画運休を決定。30日の朝から減便し、正午に全面運休へと突入した。

同社は「首都圏と違って台風の通過が早く、始発までの安全点検の時間が長かった。支障があった時でも復旧の見通しを予測する時間もあった」(東京広報)と謙遜するが、京阪神地区在来線の全面運休を2014年に手掛け、計画運休の先駆けとなった経験が生きたのだろう。

同じく関西の南海電鉄は、線路などへの倒木や飛来物の撤去のため通常では使わない保守車両を巡回させるなどして点検時間の短縮を図った。また、計画運休の実施時刻から順次運行を取りやめるのではなく、運休予定時間の3時間前から順次運行を取りやめていた。そのため、実施時刻には列車が車庫に入っている状態を作り出していた。運休が早ければ、運転再開の準備時間をそれだけ確保できることになる。


10月10日、国土交通省で開催された検証会議。中央はJR東日本の川野邉修副社長(筆者撮影)

主な関西の鉄道事業者が計画運休に備えられたのは、経験値の差だけではない。鉄道に限らず旅客輸送であれば、風や雨の状況に応じた運行基準を持っている。首都圏の鉄道事業者もそれは同じだ。しかし、それは単純に運行すべきか運休すべきかの基準が示されているだけ。

計画運休とは「事前にアナウンスして運転を停止することだ」と、国土交通省の担当者は言う。しかし、運休をどのように定義し、何を目的として行うものなのか。運休の対象とすべき台風はどの規模か。事前告知をどう行うか。代替輸送はどうするか。どのように運転再開するのか。それらの判断が社内で統一されていないまま、とりあえず「計画運休」という言葉だけが走り出したのが今回の状況に見える。

利用者への情報提供も“西高東低”

JR東日本の情報提供が最も顕著なので、例に挙げてみる。

10月1日の運転再開時に、同社在来線で駅の入場制限を行ったのは32駅あった。そのうち同社がホームページに掲載したのは11駅だけ。残りの21駅は利用者が駅に行かなければ状況がわからなかった。

「駅から個別に情報をとって反映が可能なものだけをホームページで掲載した」と同社の広報担当者は、掲載駅数が少ない理由について説明するが、これでは何も知らない利用者が駅に押し寄せるのも無理はない。同社自身が情報を把握する体制を整えることが急務だ。

さらに、情報発信体制にも問題がある。在来線の計画運休の告知はわずか3回。運休当日の30日に運休の発表を2回、翌10月1日の朝4時に始発から再開できないという発表を1回、報道各社に通知したのみだった。ホームページやアプリ上でもっとはっきりと告知してもよかったのではないか。

実際、9月30日の東京駅に記者が滞在した時にも、駅の放送は頻繁に流れたが、柱のデジタルサイネージは、いつもどおりの広告を表示したままだった。また、過去の災害による鉄道運休時と比較すると、ホワイトボードが目立つ場所に掲示されていないように感じられた。

ちなみに、JR西日本は計画運休関連の情報提供を28日から始めている。1日まで4日間で多言語を含むツイッターを活用。プレスリリースの発信回数もJR東日本の3回に対し、JR西日本は9回。実にJR東日本の3倍に達した。

適切な情報提供のあり方は、計画運休だけではなく地震などの災害時にも役立つ。駅に行くべきか、行かずに待つべきか。その判断ができる情報を、最大限の手段を使って伝えようと努力すること。それも鉄道事業者の役割だ。計画運休への理解は、その中で育つ。