コーヒーと妻との出会いは病気がくれたギフト。世界のトップを極めた男のたゆまぬ挑戦
Rettyグルメニュースをお楽しみの皆さん、こんにちは。Retty TOP USERで生粋のコーヒーマニア、Kaya Takatsunaです。
コーヒーの世界で活躍する素敵な人たちを特集する「コーヒー男子図鑑」。第9回目は、バリスタで焙煎士の粕谷哲さんが登場します!粕谷さんは、誰が一番美味しいコーヒーを抽出したかを競い合う「ワールドブリュワーズカップ(World Brewers Cup 2016)」の世界チャンピオンなんです。
また、今年2月には千葉県船橋市に共同経営者の梶真佐巳さんとコーヒー専門店「フィロコフィア(PHILOCOFFEA)」をオープンするなど、常に国内外のメディアに多く取り上げられる話題のコーヒーのプロフェッショナルです。
【コーヒー男子ファイル 09】
名前 : 粕谷哲 Tetsu KASUYA
誕生日 : 12月13日
出身地 : 茨城県美浦村
趣味: 靴磨き 写経
会えるお店 : PHILOCOFFEA Roastery & Laboratory/ RUDDER COFFEE
https://philocoffea.com/
-粕谷さんは、もともと企業で働いていたのですよね。
大学院を卒業してから4〜5年は、ITコンサルタントとして働いていました。
-全く別世界のようなイメージがありますが、コーヒーの世界に転身したきっかけは?
きっかけは病気です。別に不摂生をしていたわけじゃないんですけど、極度の喉の渇きを感じたり、2週間で体重が7〜8キロ落ちたりしたのに働き続けていたら、さすがに歩くのもままならなくなってしまって。病院に行くと1型糖尿病と診断され、即入院になりました。
-それは大変でしたね。
映画で突然死を宣告されるシーンと重なりましたね。それでその時に、「自分は一体何をしたかったんだろう、死ぬまでにやりたいことはなんだろう」っていう気持ちが湧いてきたんです。
もちろん仕事は楽しいしやりがいもあるけど、もしかしたら違うのかも、って。
-なるほど。
そういうことを考えながらも、入院中はとても暇だったので色々調べていたら、糖尿病患者でもコーヒーは飲んでいいことがわかったんです。それで病院のそばにあった二子玉川の「サザコーヒー」にドリッパーからサーバーから一式全部買いに行ったんです。
サザコーヒー 東急 二子玉川店 住 所東京都世田谷区玉川2-21-1-二子玉川ライズショッピングセンター地下1階 電 話03-6805-7369-いきなり全部買うっていうのがすごいです(笑)。
とにかく暇だったんで。でも、その場でスタッフさんに全部教えてもらって、戻って自分で淹れてみたら、すごくまずいコーヒーが出来上がったんですよ。未だに覚えていますよ、あの想像と違った現象が起きた時の衝撃は。
当時はその原因がすぐにわからなかったのが面白かったんです。
-でも病気がきっかけでコーヒーに出会えたなんて、辛いことばかりではないですね。
しかも、退院後に通院していた病院で栄養士として働いていたのが今の奥さんなんです。だから病気は得るものばかりでしたよ。
-なんと!しかし、そこからわずか3年で世界チャンピオンになるって、どれだけ努力したんですか?
当時は眠れなかったですね。寝つきが悪いと言うレベルではなく、毎晩のように自分の叫び声で目が醒める。おそらくプレッシャーじゃないですかね。
コーヒーって正解がないので、本当に美味しいのかなぁとか、日本代表になってからは、このままで優勝できるのかっていう焦りや恐怖心が凄かったです。
-コーヒーの世界で粕谷さんにもっとも影響を与えた人は誰ですか?
3年ほど勤めた前の会社「コーヒーファクトリー(COFFEE FACTORY)」のオーナー、古橋伯章さんにはコーヒーに対する姿勢から全て学びましたね。本当に素晴らしい人で、世界チャンピオンになれたのはマスターのおかげです。
コーヒーファクトリー 住 所茨城県つくば市千現2-13-1 電 話029-851-2039-どのように素晴らしいのですか?
大多数の人に受け容れられる”美味しさ”をちゃんと理解しているんです。それに順応性も高いし、向上心もあって、気持ちが若い人。
今でも月一くらいは電話で話してます。何かあったり、不安に思うことがあったりするとすぐに相談しますね。
-メンターがいるっていいですね。ところで、今度はバリスタ大会に出場されるそうですね。一度トップを極めたのに、また1から挑戦しようと思ったのには何かきっかけがあったのですか?
日本では周りに結構止められたんですけど、あるとき海外にいる友人に、“To be a champion is not a goal”(チャンピオンになることはゴールじゃない)って言われて、挑戦することが不思議じゃなくなったんです。その一言が背中を押してくれました。
-よく考えたら凄いことですよね、もうチャンピオンとして有名で仕事も順調なのに。私だったら絶対やらないです。
僕も予選前は辛くて、毎日50回くらい出なきゃよかったって言ってましたよ(笑)。 奥さんにも「今出る必要あるの?」って止められました。
-それでも出場を決めた覚悟は素晴らしいと思います。
マスターのおかげで世界一になったという意識が強いので、今度は自分一人で腕試しをしたいという気持ちもあります。でもやっぱり、チャンピオンになることはあくまでも一つの目標で通過点。それは人生のゴールではないんです。僕にとってのゴールは成長し続けること。そのために挑戦し続けたいんですよね。そのことを今雇っているスタッフに対しても世の中に対しても知らせたいと思っています。
-フィロコフィアとラダーコーヒーの共同経営者の梶さんは、どういう人ですか?
狂ってますよ。自分の使命だと感じたものへ一直線に走る人です。最近の僕らのテーマは、「狂う」(笑)。
-笑。最高ですね。
アップルのCEOクック氏も「世界を変えられるのは、狂ったように自分のやるべきことに突き進む人(“The people who are crazy enough to think they can change the world are the ones who do.”)」って言ってましたしね。
仕事じゃなくたっていいから、自分のやりたいことに情熱を傾けた方がいいよ、ってことなんです。何かを変えられるかどうかっていうのは別の話で、その取り組みやプロセスが重要。
ラダーコーヒー シャポー船橋店 住 所千葉県船橋市本町7-1-1シャポー船橋南館内1階 電 話047-409-5655カフェ
-粕谷さんのコーヒーの強み、これだけは一番だというところはどこですか?
自分がベストだと思っていないところ。だから、この先も僕のコーヒーはずっと変わり続けると思うんです。2年前チャンピオンになった時の美味しさと今の美味しさは違うってわかってるし、それに合わせて僕の淹れ方も日々アップデートされているのが強みな気がします。
-ところでコーヒー以外の趣味はありますか?
靴磨きは胸を張って言える趣味ですね。本当に好きなんですよ。 新品買うときもどういう靴に育てたいかをまず考えるんです。どういうクリームを使って磨いていくかで出来上がりも変わってくるので。 僕、磨くためだけの靴を持ってますよ。
-狂ってますね(笑)。靴磨きとコーヒーの共通点てあります?
自分との向き合いですかね。
-笑。また向き合うんですね。
あ、それをいうなら写経も趣味です。あれはいいんですよ、自己との向き合いとか、脳と体の分離とか、頭で考えながら手の動きがだんだんと離れていく。写経を通して緊張しなくなりました。
-そういうことに出会うにはどうしたらいいんですか?
日々、理由とか意味を探して、「なぜか?」と考える癖をつける。漫然と経験をするのか、ちゃんと考えているのか。経験が経験値になるかならないかの差は、そこに何を見出そうとするかの差だと思うんですよ。僕が3年で世界一になれたのは、そこの差かなと思います。でもやっぱり一番はマスターのおかげなんですけどね。
-最後に粕谷さんのこれからの夢を教えてください
難しいですね。僕にとって仕事が人生の全てじゃないです。仕事に関してはまぁ多少辛いことがあっても、やりたいことを楽しくやっていられたら良いので、とにかく奥さんと一緒にいつまでも穏やかに暮らしていければ、あとはなんでも良いですね。
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感情の起伏もなく、常に冷静で穏やかな粕谷さん。人生に幾重にも刻まれた、ここには書ききれないほどの素晴らしいエピソードの数々は、またの機会にお伝えできればと思います。
そして、粕谷さんが出場するジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)の準決勝・決勝は、9月26日と27日に東京ビッグサイトで行われます。是非応援に行きましょう!
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次回のコーヒー男子もお楽しみに!
(撮影: Atsuko Tanaka)
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