横浜F・マリノスに移籍した久保建英【写真:Getty Images】

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天皇杯・仙台戦で新天地デビュー、チームメイトの信頼を得たことをピッチで証明

 大袈裟に言えば、歴史が動き始める可能性を感じる久保建英横浜F・マリノスでのデビュー戦だった。

 もともと歴史的にも同年齢での到達度を考えれば、久保の攻撃的才能は突出していた。だが堅守からのショートカウンターが軸となるFC東京では、フィジカルが未成熟で守備面での計算ができず、どうしても使い方としては追う展開のジョーカーに絞られる。それでも昨年までのFC東京なら十分にチャンスがあったかもしれないが、長谷川健太監督を迎え入れたチームは上位戦線に定着し、追う展開が激減した。

 昨年からJ3で戦うFC東京U-23では、エースとみなされ厳しいマークが集中していたから、せめてJ2レベルでコンスタントに経験を積めればと見ていたが、新天地の横浜FMでは早々とフィットして、22日の天皇杯4回戦のベガルタ仙台戦(2-3)では90分間を通して自在に2列目を動き回り、攻撃のスイッチを入れ続けた。ライン間や選手間にポジションを取りボールを引き出し、攻撃のスピードを落とさずに創意を加えていく。一方でチームメイトも、相手のマークが密着する場面でも躊躇なくパスを入れており、短期間で高い技術が信頼を得たことがピッチ上で証明されていた。

 試合後のアンジェ・ポステコグルー監督は語った。

「久保はサッカー選手として必要なものを備えているし、今日もチャンスをつかむに値するプレーを見せた。これから試合の経験を重ねていけば、成長のスピードも高まるだろう」

 J1は第23節を終え、横浜FMは1試合未消化とはいえ15位と低迷。もはやオリジナル10(1993年のJリーグ創設時の10チーム)でJ2降格がないのは鹿島アントラーズと2チームだけとなり、窮地に補強を急いだ。この夏は、最下位から急浮上の名古屋グランパスの変貌ぶりが話題になったが、横浜FMにも楽しみなタレントが集まった。仙台戦は新加入のドゥシャン、チアゴ・マルティンス、畠中慎之輔で3バックを構成。攻撃に転じると、右のイッペイ・シノヅカ、左のユン・イルロクが張り出し、久保、さらには圧倒的なスピードが売りの仲川輝人らと連動し、どこからでも仕掛けられる多彩な崩しを見せた。

観客のどよめきを誘発する回数もナンバーワン

 この試合に3-2で勝利した仙台の渡邊晋監督からは反省ばかりが口をつき、「負けゲームみたいだな」と嘆きの弁も飛び出したのに対し、敗軍の将が「特に後半はこれ以上求めることができない」と振り返るほど、結果と内容が乖離した一戦となった。そのなかでも久保は、絶えずボールに関わり、淀みないタッチに隠し味を添えて攻撃を加速させるとともに、左右のCKでも精度の高いキックを披露。ペナルティーエリア手前で得た絶好の位置でのFK(久保自身のスルーパスで仲川が被ファウル)も、ウーゴ・ヴィエイラへの直談判で自ら狙った。スタンドからのどよめきを誘発する回数もナンバーワンで、この仙台戦を見る限り、今後も主力としてピッチに立ち続ける可能性は高い。

 横浜FMはワールドカップ中断期間明け後の7試合で2勝5敗と失速しているが、本来は攻撃的仕掛けの多彩さでリーグ屈指の魅力を湛えている。

 久保にとっては紛れもなく適所で、どうやらポステコグルー監督もその才能には惚れ込んでいる。ここで成長が加速すれば、欧州、そして東京五輪代表復帰へ向けてブレイクしていく予感も漂う。(加部 究 / Kiwamu Kabe)