就職・転職先選びで長時間労働かどうかなど労働時間を気にする人が増えている。とくに新卒学生は電通の過労死事件がマスコミで盛んに報道されたこともあり、労働時間や休日を指標にする傾向が強い。その傾向は転職者も同様だ。

 人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパン実施した調査(職務動向調査2016)によると、転職先を決める時の評価基準は全世代では「仕事内容」「給与」「勤務地」の3つが上位を占める。だが、転職コア層である30〜34歳では約4人に1人が「労働(残業)時間」を転職先選びの重要な決め手にしている。
 
 ただし、長時間労働だからブラック企業であり、そうでない企業がホワイト企業だという分類はあまりにも単純すぎる。「御社はブラックあるいはホワイト企業ですか」と聞くと人事担当者の多くが「日本企業の9割はグレーではないか」と言う。 
 
 大手住宅設備メーカーの人事担当者は「労働時間も短く報酬も高い、雇用も安定しキャリアを獲得できるホワイト企業なんてほとんどないのではないか。若いときは残業を厭わず、いろんな仕事を経験する下積み時代があるからその後の成長につながり、高い報酬やキャリアを獲得できるものだ」と指摘する。
 
 もちろん過度の残業はよくないが、吸収力のある若いときは多少無理をしてでも仕事を覚えることも必要だろう。それによって高いスキルをより早く修得できる可能性もある。 就職先選びにおいては労働時間以外に処遇やキャリア形成力などの視点も大事だ。生涯賃金など処遇面から見ると別のホワイトとブラックの指標が浮かび上がってくる。法政大学キャリアデザイン学部の梅崎修教授と高崎経済大学の小林徹講師の共同で研究しているテーマの中で、企業の標準労働者のモデル賃金を分析し、4つの企業タイプに分類している。
 
 入社後の一定期間は給与の違いがあっても、その後の賃金の上がり方で「超大手ホワイト」「派手系ブラック」「地味系ホワイト」「低賃金ブラック」の4つに分けられるという。

 一番わかりやすいのが若年時の賃金も高く、勤続年数で賃金が上がり続ける「超大手ホワイト」。逆に給与水準が相対的に低く、長年勤務しても賃金がさほど上がらない「低賃金ブラック」である。 わかりにくいのが「派手系ブラック」と「地味系ホワイト」企業だろう。派手系ブラックは新卒入社後の賃金は超大手ホワイト並みに高いが30歳を過ぎると、選別されて成果を出す人のみ賃金は上がっていくが、多くの社員は賃金カーブがフラットになり、それほど上がらなくなる。賃金制度は年齢に関係なく従事する職務や仕事が変わらなければ給与は上がらない欧米型の職務給に近く、給与に占める成果給の比率が高いところに多い。定期昇給はなく、成果を出すか、上のポストに就かない限り給与が上がることはない。
 
 大手人材紹介業のコンサルタントはその特徴について「メデイアの露出度も高く、成長しているIT系のベンチャー企業や不動産、流通業などサービス業に多い。会社の歴史は浅いが、業績は堅調。給与面だけ見れば30歳で転職しても高いところは年収700万円程度もらえるが、そこからあまり上がらない。しかも仕事はハードで結構無理難題な課題を与えられる。仕事の密度が濃い分、拘束される時間も長い。驚いて短期間にやめる人も少なくない」と指摘する。
 
 新卒学生はとかく派手系に入りたがる。会社説明会に行くと、業界でも有名な社長が登場し、演出も巧みだ。給与も悪くはないし、先輩社員との対話では選ばれたエリートが仕事に対する熱い夢を語ると、「自分も成長できそうだ」と錯覚する。どうしても就職先としては派手系に目移りしやすい。 それに比べて地味系は知名度が低い。超大手ホワイトに比べると給与水準は見劣りするが、それでも定昇などによって時間軸で見ると段階的に上がっていく。派手系に比べて平均勤続年数も長く、40〜50代のオジサンが自らの経験を語れ、それが競争力の源泉になっている企業だ。しかも標準労働者の賃金を比較すると40歳以降に派手系を上回り、生涯賃金も高い。