今年の春闘では正社員のベースアップ拡大が注目を集めているが、その一方で契約社員やパートなどの非正規社員の賃上げも相次いでいる。その背景には流通・飲食業などのサービス業を中心に人手不足が顕在化していることにある。要員不足で営業基盤が揺らいでいる企業もある。人材の確保と定着なしには企業の存続すら危ぶまれる状況になるかもしれない。

 人材の定着には春闘の賃上げラッシュのように採用時給さえ上げれば済むという話ではない。長期に継続して働いてもらうには人事・賃金制度を含めた処遇の改善や正社員との均衡・均等待遇も不可欠だ。
 
 処遇を多少改善しても、近い仕事をしている正社員との格差を目の当たりにすれば、モチベーションも下がり、生産性にも影響を与えることになる。
 いかに納得性を持って働いてもらうにはどうするのか。処遇改善に取り組む労働組合の事例からそのヒントを探ってみたい。
 
 処遇の改善が目立つのは非正規が圧倒的多数を占める流通・飲食などのサービス業だが、製造業の中で、正社員と同月数の賞与を実現するなど均衡・均等待遇の実現に積極的に取り組んでいるのが水中ポンプの製造・販売大手の鶴見製作所労働組合だ。
 
 鶴見製作所は国内外に工場4カ所、国内に10支店、46営業所を有し、従業員は約900人。うち正社員約700人。契約・再雇用・パート社員が約200人という構成だ。同社の契約社員は正社員と業務内容は変わらないのに雇用形態が異なることで処遇の違いが発生していた。 06年2月に労働組合が実施したアンケート調査で「賃金・一時金」に対する不満が76%を占め、これを契機に労組として処遇改善の動きが始まった。
 
 最初に取り組んだのが06年春闘の一時金要求。当時正社員は年間5カ月に対し、契約社員は2カ月。同月数を要求し、見事に5カ月を獲得した。
 
 経営側としても1990年代以降、正社員を契約者社員に置き換える政策を推し進めてきたが、離職者も少なくなく、優秀な契約社員に長く働いてもらいたいという思いがあったという。
 
 続く08年の春闘では獲得したベア分600円のうち550円を優先的に契約社員に配分した。契約社員の反響が大きく、モチベーション向上を促すとともに、全員が組合に加入している。
 
 その後も基本給以外に支給されていた「住宅地域手当」の正社員並みの制度に拡充。さらには工場の製造ラインで働くパートタイマーへの一時金として寸志の支給を勝ち取ったほか、死亡見舞金、通勤費・慶弔見舞金規定の拡充を図った。
 
 同社の契約社員は全従業員の1割に満たない。なぜここまで非正規の処遇改善にこだわるのかについて、同労組の幹部は
 
 「正規・非正規に関係なく、社員全員が働く仲間である。仲間である非正規社員の処遇が改善すれば、モチベーションも向上し、その結果、会社全体の生産性も向上し、業績がアップすれば社員全員の処遇もよくなると言い続けている」と語る。
 
 処遇の改善だけではない。分断された正規社員と非正規社員の一体感を保つことが何より重要であることを示唆している。 現在、組合員数は10万1499人のうちパートタイマーが約8万5000人を占めるのがイオンリテールワーカーズユニオンだ。同労組はパート組織化と同時に04年から時間給制のパートタイマーの処遇改善に取り組んできた。
 
 イオンは正規と非正規という区分を設けるのではなく、「転居を伴う転勤」のある社員とそうでない社員の処遇の違いを前提に均衡・均等処遇を目指すという考え方に立つ。
 
 パートタイマーをコミュニティ社員呼ぶが、04年に続いて12年に組合の要求で人事制度を改定している。新制度はC1、C2の2つの資格に分ける。賃金は部門給(本人給)+地域給+能力給で構成。地域給は最低賃金等を考慮したエリア給であり、部門給+地域給が時間基本給。