家電量販店には各メーカーのモバイルバッテリーがずらりと並ぶ。ブランド品や国産だったら安全で大丈夫と思いがちだが、そうした傾向はまったくなく、リスクは取り扱い方に大きく左右される。

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もはやスマホユーザーの必需品でもあるモバイルバッテリー。ところが近頃、発煙や発火トラブルが相次いでいるという。

一体、なぜ? 事故を防ぐにはどうしたらいいのか? 万が一の時の対処法を含めてトラブルの実態に迫る!

■変形していたら「危険信号」

SNSや動画、さらにゲームと、どんどん拡大するスマホの用途。使っているうちにバッテリーがどんどん減って、家に帰るまでもたないという人も少なくないだろう。そんなとき役立つのが、外出先でもスマホの充電ができるモバイルバッテリーだ。

ところが近頃、このモバイルバッテリーに関わるニュースがやたらと飛び込んできている。昨年12月、東京メトロ銀座駅でモバイルバッテリーが発火し、騒ぎとなった。また、今年2月には中国の国内線機内でモバイルバッテリーが燃える動画が報道されている。自宅で充電中など、目の届くところでのトラブルならまだしも、かばんに入れておいたモバイルバッテリーが発煙、発火するのは危なすぎるとしか言いようがない。

こうしたトラブルは増えているのか? さまざまな製品の安全性や信頼性を評価し、情報を提供する「NITE(ナイト、独立行政法人 製品評価技術基盤機構)」に話を聞いた。

モバイルバッテリーの事故情報は、平成24年度の1件から平成28年度の51件へと急増しています。その理由のひとつとして、スマホの急速な普及に伴い、モバイルバッテリーの利用が拡大したことが考えられます」(NITE製品安全センターリスク評価広報課 酒井健一氏)

やっぱり…。そもそも、どうしてモバイルバッテリーが発煙したり発火したりするのだろう?

「ほとんどのモバイルバッテリー、また、スマホやノートPCのバッテリーには、リチウムイオン電池が使われています。このリチウムイオン電池は、エネルギーをため込むセルと、充放電を管理する保護回路で構成されていますが、なんらかの事情でセルが損傷したりショートするなどして、異常な電流が流れて発熱し、発煙、発火という事故につながるのです」(酒井氏)

なるほど。では、その「なんらかの事情」とは?

「まず製造上の不具合によるものです。セルへの異物の混入や、内部のゆがみが異常な発熱の原因になることがあります。次に保護回路の故障によるものです。モバイルバッテリーも電化製品ですから、故障の可能性はゼロではありません。最後にこれが一番重要で、乱暴な扱い方によりモバイルバッテリーに衝撃が加わってセルが変形、損傷したり、保護回路が故障したりするケースです」(酒井氏)

事故を防ぐにはどうすればいいのか?

モバイルバッテリーは大きなエネルギーをため込んだ精密機器ということをきちんと理解して丁寧に扱ってください。落としたりぶつけたりはもちろん、ズボンのポケットに入れるなど圧力がかかる状態での持ち運びは避けたほうがいいでしょう。日なたに止めたクルマの中など極端に高温になる場所に放置したり、逆にスキー場など寒冷な環境で充電したりすることも、リチウムイオン電池の損傷につながります」(酒井氏)

危険信号みたいなものはあるのか?

「ぶつけたことで変形したり、膨らむように変形している状態が危険信号です。また、リチウムイオン電池にも寿命があります。いつまでたっても充電が終わらなかったり、充電中に以前より本体が熱くなるような場合は使用を中止してください」(酒井氏)

■PSEマーク適用は来年2月から

では万一、発煙や出火したときは、どう対処すればいいのだろうか?

「リチウムイオン電池は過熱により発煙、発火が促進されるので、冷やすことが第一です。モバイルバッテリー程度の大きさであれば、手近にある水やジュースなどの液体をかけるなどして冷やしてください。ただし、部品が飛散する恐れがあるので、十分注意してください」(酒井氏)

ところで、モバイルバッテリーの製品ごとに発煙や発火リスクの大小があるのかも気になるところ。「ノーブランドは危ない」「日本製は安全」という風説も耳にするが?

「ブランド品だから大丈夫だ、ノーブランドだから危険だ、国産だから安全といった傾向は全くありません。それよりも乱暴に扱わないなど、日頃の使い方が発煙や発火のリスクを左右することになるとご理解ください。ただ、製造工程に不備があるモバイルバッテリーについては、当機構のウェブサイトに掲載していますので、ご覧いただければと思います。

また、中古のモバイルバッテリーについては、直ちに危険とは言い切れません。ただ、前のユーザーがどのような使い方をしていたかわからないこと、また、少なくとも新品よりは性能が劣化していることもあり、一般論としては新品の購入をオススメしたいと思います」(酒井氏)

一方、モバイルバッテリーの事故多発を受け、経済産業省も動きだした。これまでリチウムイオン電池そのものにはPSEマーク(電気用品安全法適合を示すマーク)表示等の規制が行なわれていたが、その電池を組み込むモバイルバッテリーは規制の対象外という解釈になっていた。

しかし今年2月、これを見直し、規制の対象に組み込むこととなった。今後は、PSEマーク付きのモバイルバッテリーを選ぶことで、一定の安心が得られることになるだろう。

ただこの改正も、適用は1年後の平成31年2月1日から。つまり、この先10ヵ月以上は現在市場に流通している「PSEマークなし」の製品がそのまま販売されることになる。もちろん、たとえPSEマーク付きの製品でも、取り扱いが乱暴であれば発煙や発火のリスクは高くなる。

モバイルバッテリーの利用は、その便利な部分だけに目を向けるのではなく、「電気エネルギーを蓄えた精密機器」だということを利用者が理解した上で取り扱おう!

(取材・文/植村祐介)