「ラジオは古い」なんて言わせない── パーソナリティ・ディレクターといった作り手から日常のなかで耳を傾けるリスナーまで、ラジオを愛する人々からは、よくそんな言葉を聞きます。
動画メディアであふれるこの昨今、声と音が主体のラジオというメディアにそうした人々はどんな可能性を見いだしているのでしょうか。

“日本一忙しいラジオアナウンサー”の異名を持つニッポン放送・吉田尚記(よしだ・ひさのり)アナウンサーにお話を伺います。



吉田尚記(よしだ・ひさのり)アナウンサー
1975年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、1999年ニッポン放送入社。
「ミュ〜コミ+プラス」(毎週月曜日〜木曜日 24:00〜25:00)のパーソナリティーをはじめ、2008年には発起人として「マンガ大賞」を立ち上げ。
最近はCerevo・グッドスマイルカンパニーと共同で新しい世代のラジオ「Hint(ヒント)」を開発するなど、さまざまなフィールドでの縦横無尽な活躍ぶりが注目されている。

いまの人たちは「ラジオと知らずに」ラジオを聞く


──ライターのやきそばかおるさんと、全国各地の面白いラジオ番組を聴きまくるネット配信「週刊ラジオ情報センター」が人気ですね。



吉田アナ「面白いタレントさんの情報はあふれかえっているのに、面白いラジオパーソナリティの話題が全然入ってこないんです。
これじゃラジオはまずいぞ、ということで、ラジオ番組に造詣の深いやきそばさんと立ち上げました。

放送の終わった番組を後から聞き返せるradikoのタイムフリー機能などを駆使して全国各地のラジオ番組を聞き、面白いしゃべり手の人を見つけ、その話を面白がり、その様子を配信しています。
たんにラジオ番組のカタログを紹介するのではなく、『面白いおしゃべり』を日々発掘することでラジオ的な要素を持っている人とつながりたいというのが一番の動機ですね」

──最近も「フリートークアプリ」というコンセプトをかかげる「Radiotalk(ラジオトーク)」が登場するなど、いろんな人のトークを楽しめるラジオ的な仕組みは数多くありますが、そのユーザーの多くはラジオの聴取経験がないという話もあります。

吉田アナ「それ、すごく面白いと思うんですよね! いまの人たちはラジオをラジオと思ってアクセスしていない。
たまたま耳にはいってきた面白い会話に聞き入ってしまう、という自然な形で、これまでラジオがやってきたような音声コンテンツに親しんでいるんですよね。

新しく登場したスマートスピーカーに『何か面白い話をして』と問いかけると、音声で『面白い話』を返してくるんです。その『面白い話』が、たとえば伊集院光さんのラジオだったりしたらいいなと。
たまたま耳にラジオが入ってきて楽しんでしまう、そういった仕組みが必要だと思っています」

──たしかにラジオって、空気のように場に漂っているイメージかもしれません。

吉田アナ「『Hint』という新しいタイプのラジオを開発して、ことし一般発売を開始しました。



Hintは英語で『気づき』や『気配』といった意味をあらわす言葉なんです。部屋に置いてスイッチをまわすことで、『なんか人がしゃべっている、なんか音楽が聞こえる』という感じで、空気のように音が日常の空間に流れ込んでくる──
そんな、『気配を感じる装置』としてラジオをデザインしてみたんです」

「目と手がふさがる」場所はラジオが強い


──日常生活のなかで、ラジオと相性が良いと感じる場面や場所はありますか?

吉田アナ「移動中や作業中のように目と手がふさがっているところは、ラジオがとても有利だなと思います。僕の場合、風呂に入りながらラジオを聴くことが多いですね。

どんなに世の中が進化しても『移動』と『料理』と『片付け』はなくならないだろうと思うんです。これらの最中に、いろんな人がラジオを聴いてくれたらなぁと。生活のベースにつねにあってほしいなという気持ちが強いですね。

ラジオは、そんな生活の流れのなかに速報を差し込むような届け方もできると思うんですよ。
たとえば音楽配信アプリで音楽を聴いている最中に地震が起きたら、そこに音で最新の情報が差し込まれる。そんな聞き方ができたらいいと思うんですよね」



ラジオは解釈を伝えるメディア


──ラジオとは、どんなメディアだと思いますか?

吉田アナ「ラジオは、情報ではなく解釈を伝えるメディアだと思っています。

たとえば、『2万年後の地球』という場面をいまここで作るとします。
テレビや映画では、これを実現するために入念な準備が必要です。
でもラジオなら、マイクに向かって『ここは2万年後の地球です』とひとこと言えば、聴く人たちの頭のなかに一瞬で場をつくれて共有できてしまう。
みんなが想像すれば、いつも過ごしている場所に一瞬にして異形の世界を出現させることすら可能なんです」

──みんなが頭のなかに場面を思い浮かべて楽しめる、という要素はたしかに大きいですね!

吉田アナ「『こういう見方があってもいいじゃないか』という意識のなかに成立していると思うんです。
もっと言うと、ラジオは聴く側の寛容さに守られている部分が大きいなと。

ラジオは、世の順張りをするメディアではないかもしれない。でも、物事の新たな側面が見えてくるのってだいたい逆張りのときなんですよね。それをみんなが面白がって、気づきが生まれていく。

いまのテレビとネットって、同じような空気になっていると思うんです。炎上を恐れて、激しいことが言えない。
その点ラジオは発言を恣意(しい)的に切り取られにくいし、ファクトチェックもしやすい。
『主観』と『気づき』を発信しやすいメディアだと思いますね」

「この世につまらないものがなくなりました」


──ラジオアナウンサーとして、吉田さんが心がけていることはありますか?

吉田アナ「かつて先輩のディレクターにこう言われたことがあるんです。
『俺たちの仕事は面白い話をすることではない、“先を気にさせる”ことだ』と。

キレイにおさまらない、非・予定調和な会話って気になってしまう。
街中でたまたま隣り合った人の会話って、なんか耳に入ってきちゃいますよね。『えっ、そのあとどうなるの?』って(笑)
人は、人が気になっていることが気になるというか。『どうしてこの人はこのことが気になっているんだろう』といったん思うと、知らず知らずのうちにそのあとを追ってしまうところがある。

だから、最近の話題を伝えるにしても、『今週あったこと』ではなく『今週気づいたこと』を伝えるようにしています。

やっぱり伝える側が対象を面白がっていないと、なかなか伝わらないと思うんですよね。
もし、その対象が気にならないものだったら、気になるまで見る。対象のことが気になってくると、人に伝えられるようになる。
アナウンサーをはじめて、この世につまらないものがなくなりました(笑)」

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ここで吉田アナ、実際にラジオにおけるトークを「実演」してくれることに。

今回の取材メンバーのひとりで、現在放送学科に通う大学生、山口純侑(やまぐち・よしゆき)さんが「Radiotalk」で配信している番組に、なんと吉田アナがゲスト出演。インタビューの発言をふまえ、即興でトークを繰り広げてくれました。



【トークの音声はこちら(Radiotalkのサイトへ)】

媒体としてラジオが得意なこと、という話にはじまり、トークの仕方という切り口から毎日を面白く切り取る方法論を語ってくれた吉田アナ。
ほんとうにラジオって、気づきと解釈を楽しめるメディアなんですね。

■Radiotalk(β版)
フリートークを配信できる、1本12分収録型の無料アプリ。2017年8月からβ版として公開中。( iOS版 / Android版 )

(天谷窓大)