地方の中高卒の就業支援″ヤンキーインターン″って? 「やる気のあるヤンキーなら上京して6か月で社会人になる準備ができる」
中高卒の就職支援を行うハッシャダイは、「ヤンキーインターン」という少し変わったサービスを行っている。同事業は、1都3県以外在住で16〜22歳の中高卒者に、自らの選択肢を広げることを目指したプログラムを無料で提供するというもの。
現在、常に30人程度がキャリア教育やビジネスマナー講座などを受けたり、実地研修として通信回線営業を行ったりしている。同社取締役の橋本茂人さん(26)は、
「弊社はインターンの生徒に『職・食・住』を無料提供しています。実地研修で行う営業については、給与もお支払いしています。食費も1日1000円、住居はネット・光熱費込みで無料提供していますので、給与はそのまま可処分所得として使用できます」
と話す。インターン期間は6か月。来年2月からは3か月でプログラマーを育成する「ヤンキーハッカー」も始まり、現在生徒を募集している。
1〜2割が「本物ヤンキー」、6〜7割が「マイルドヤンキー」、残りは「真面目な子」
しかし、なぜ"ヤンキー"なのだろうか。橋本さんは、「地方在住のヤンキーは選択肢があることに気づいていない」と話す。
「中高卒で働くヤンキーって、周りより先に働く分、当然ですが最初は大学生の友人よりお金はあるんです。でも、年齢が上がるごとに『こいつらはいい企業に就職して給料も右肩上がりなんだろうけど、俺はこの数年ずっと変わってないし、この先も変わらないのではないか』とかに気付いて、焦るんです。でも地元から出たこともないし、どうすればいいのか分からない」
橋本さん自身は大学に通っていたが「受験勉強している時が一番頭はよかった。4年間で賢くなった気はしない」と話す。しかし大学ではいろんな人に出会い、世界が広がったという。
「大学と同じように、人との繋がりを得たり、知らない世界に触れたりできる環境があれば、ヤンキーも変われる、6か月で社会に出る準備ができると考えています。僕たちはそんなヤンキーと社会を繋ぐ架け橋でありたいんです」
ヤンキーインターンという名前であるが、実際インターンの生徒は、「1〜2割がいわゆる『本物のヤンキー』、6〜7割が俗に言う『マイルドヤンキー』、残りは普通に真面目な子」という構成になっているという。男女比は8対2であるが、最近は女性からの問い合わせが多くなってきているようで、「手に職をつけろといわれ美容師や保育士などの専門職に就職したが、理想と実態がかけ離れていて早期離職した」などといった事情が多いという。
過去インターンには110人程度が参加したが、辞めた人は10人程度。これだけ継続できる理由として「沖縄や北海道など地方から上京してきている子が多いため、高い水準で覚悟を決めてきている」というが、「辞めることが悪いとも思いません」とも話す。
「例えば『先輩に誘われたからズルズル地元の現場で働いてる』と『東京に一回出てきたけどやっぱり現場が向いてる』って地元に戻るのだったら、後者の方がカッコいいですよね。自分で選んで、人生を決めていってほしいんです」
ヤンキーインターンで初めて自分で「東京に出てくる」と決めた人もいる。自ら選択をして、研修の中で成功・失敗体験を重ねていく。橋本さんは「卒業するころには、恐ろしいほど変わっていく」と語る。
「ヤンキーは良い意味でも悪い意味でも地元のコミュニティから影響を受けていて、地元にいるからこそ虚勢を張らざるを得ない子が多かったりします。でも上京で環境を変え、インターンを通して段々精悍な顔つきになっていきます。『地元でクズみたいなことしてたんですよ』って言っていた子が、自分自身や目標について語れるようになっていくんです」
実際、採用企業からは「素直」「元気」「見ていて気持ちいい」という声が寄せられているといい、「上司にまるで兄貴のようについていくので、可愛がられているようです」と話す。業種は通信やIT系、人材などとさまざまだが、営業として就職する人が多い。中には経営コンサルやデータアナリストなどになる人もいるという。
「今までスーツを着ない仕事をしていた人も多いので、『スーツを着れる!』と喜ぶ人もいます。『現場で重い物を持つより楽』『インターンの実地研修より楽(笑)』とどこの企業へ行ってもこれまでよりは楽みたいですね。いい意味でも悪い意味でも、素直な子が多いです」
「社会の受け皿ができれば『就職に有利』という理由で進学する人が減る」
ハッシャダイで働く社員も元ヤンが多い。ヤンキーインターンの前身に参加し、"変わった"と実感した人たちも現在社員として働いている。
「野球の強豪高校に入っていたけど暴力沙汰で退学した人もいます。それでも『僕でも変われたんやからお前もいけるで』と伝えたいという人が多いですね。僕はヤンキーではないのですが、代表の久世から『見た目に反して乙女な性格やし、ヤンキーの気持ちも分かるでしょ』と誘われました」
そんな橋本さんは、自身を"筋肉クリエイター"や"CMO(チーフ・マッスル・オフィサー)"と名乗り、日々の業務にあたっているという。
「最近、全くもって強制ではないのですが僕を含め社員は朝7時から9時までにジムに行って鍛えてから出社してます。朝が早いから退社時間も早くなったんですが、生産性は落ちてません。CMOとして日々健康管理も含めてマネジメントを行っています」
橋本さんは、「ヤンキーインターンには、やっぱりヤンキーに来てほしい」といい、今後の就活市場について以下のように語った。
「今は就活において大卒が有利ですが、僕らみたいな企業が増えれば今後はその立場が逆転し、高卒での就職者も増えると考えています。つまり社会の受け皿ができれば、『就職に有利だから』という理由で進学する人が減るということです。とはいえ、私たちだけでは社会全体を変えるのは難しいので、若者と社会を繋ぐ同業他社がもっと増えてほしいです」
ちなみに同社は今年11月、「仮想通貨取引事業への参入を断念」というリリースを配信し、話題となった。
リリースによると、できる限りの努力をしたが、「難しい言葉に社員の脳みそがパンクし、気がつくと誰も検討をしていないという事態に陥っていました」という。現在、仮想通貨のことを忘れるほど事業に情熱を注いでいるとし、
「関係各社の皆さまには全くお知らせをせず参入断念に至ってしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
と謝罪した。リリースを作成した橋本さんに、念のため仮想通貨参入の意志を確認したが、「実際に参入する可能性はないですね」と笑いながら話していた。
「ある企業からは、真剣な顔で『参入しなくて正解だよ』と言われました。ヤンキーインターンとの相乗効果もありませんから。これからも若者の気持ちに寄り添いながら、不真面目なことも真面目にやりたいと思っています」