@AUTOCAR

写真拡大 (全4枚)

もくじ

前編
ー 2.0ℓ直列4気筒 vs 4.2ℓV型8気筒
ー 維持コストはジャガー有利 類似点も
ー まったく異なるドライブトレイン
ー 内装 期待値の変動ゆえのR8劣勢
ー おまけ 4気筒エンジンについて少々

後編
ー ナビは当然F-タイプ 荷室容量も
ー F-タイプの2.0ℓ4気筒を検証
ー R8のV8 4000rpm以上は「一気」
ー 直4のF-タイプ V8のR8 どっち?
ー おまけ 5万ポンドで選ぶその他のライバル

2.0ℓ直列4気筒 vs 4.2ℓV型8気筒

鮮やかなブルーに身を包んだこのジャガーF-タイプ・クーペ。かんたんに周りの者を引き寄せない、パフォーマンスを磨き上げたモデルのように見えるかもしれない。

しかし実際には、より多くのひとに届けるべくこの夏発売された、300ps、2.0ℓ4気筒エンジンを積み5万ポンドのプライス・タグを掲げたモデルである。

気筒当たりの価格で見ればこのクルマは、ダウンサイズ・エンジンにターボチャージャーを組み合わせて、右肩上がりのスペックと派手な吸気サウンド、人工的なエグゾーストノートで、「高性能のためのダウンサイズ」という新たな常識を作ってきた新世代モデルたちの中でも最も目立つ存在だろう。

しかし、同じ金額で倍のシリンダー数をもつ優れたユーズド・パフォーマンスカーが購入できるとすれば、魅力的な話ではないだろうか。

そして、そんな1台が新車に近いコンディションを持つアウディR8だとすればどうだろう。

430psを発する2011年モデルのR8 V8 4.2がイーストボーンでサイモン・アボットが経営する名高いディーラーで、今なら5万950ポンドで売りに出されているのだ。これは最も安価な2.0ℓのF-タイプ(5万795ポンド)とほぼ同じ金額であり、われわれが今回借り出したR-Dynamic仕様(5万4495ポンド)よりもわずかばかり安い。

すぐにでもお店に電話をするのもありだが、しかし、まだ結論を出すには早すぎる。この先もこの記事を読んでいただけるリベラル派のクルマ好きの皆さんには、これから真剣勝負をご覧いただこう。

維持コストはジャガー有利 類似点も

最初に面白くはないが重要な数字をご紹介しよう。

ジャガーの方が燃費が良く(アウディの7.0km/ℓに対して13.9km/ℓ)、英国の場合、1年間に支払う税金もアウディが535ポンドである一方、140ポンドで済む。

さらには維持費もジャガーに有利だ。ジャガーを「Harwoods Jaguar Lewes」で点検に出した場合の費用は285ポンドだが、アウディを「Eastbourne Audi」で点検すると485ポンド支払う必要がある。

しかし、オプションの5250ポンドを含めた新車価格9万2135ポンドのアウディが既に大幅にその値段を落としていることを考えれば、これ以上に価値が下がる事は無さそうだ。

ボディサイズに関する比較をお望みかもしれないが、両者にほとんど違いはない。F-タイプの方がやや長く、高く、幅が広い一方で、ホイールベースは短く、どちらもスポーツカーらしい素晴らしいデザインをしている。

ドライブトレインも同様だ。

フロントとリアのサスペンションにはダブルウィッシュボーンを採用し、エンジンもオールアルミ製ブロックの可変カム機構付きロング・ストローク型で気筒当たりの排気量もそれぞれ約500ccである。

しかし両者が似ているのはここまでだ。

まったく異なるドライブトレイン

ジャガーのフロントに積まれたターボ付きインジウム4気筒エンジンは、8段オートマティック・ギアを介してリアの2輪だけを駆動する。2.0 F-タイプでは8段ATだけが唯一の選択肢である。

そしてその300psという出力はR8の430psに比べれば取るに足らないものであり、0-97km/h加速には5.4秒を要する一方で、アウディは4.6秒後には100km/hに到達している。

トルクについては、ツイン・スクロール・ターボの恩恵により、ジャガーはアウディの43.8kg-mにわずかに届かない40.8kg-mを確保しているが、F-タイプのトルクが4500rpmで頭打ちになるのに対して、R8の場合、この回転数はほんの始まりであり、B7型RS4由来の自然吸気V8エンジンのレッドゾーンは、ジャガーよりも1700rpm高い8000rpmに設定されている。

R8の4輪駆動システムはリア重視のセッティングであるが、F-タイプのリア駆動と110kg軽量であるというアドバンテージは、出力差を埋めるだけの動力性能を見せる事ができるだろうか?

近頃ではアウディ自身も認めているとおり、アウディスポーツ・マネージングディレクターだったヴィンケルマンは最近登場したより軽量なリア駆動のR8 V10 RWSを「より純粋なドライビングのためのモデル」だと説明している。

2011年モデルではシングルクラッチの2ペダル・ギアボックスである6速R-トロニックも選択できたが、このR8はマニュアル・ギアボックスであり、F-タイプに搭載された現代的なZF製8段ATと比べると、そのドライビングをひどく古臭いものに感じさせた。デュアルクラッチ7速S-トロニックは2012年のフェイスリフトまでR8に導入されることはなかった。

内装 期待値の変動ゆえのR8劣勢

アルミニウム製シフトゲートがアウディのインテリアの中心となっている。荘厳な印象を与えるこのシフトゲートには、大きなハニーディッパーのようなシフトノブが組み合わされる。

しかし、その品質と壮麗さがキャビン全体に渡っている訳ではない。もちろん、赤のレザー・シートはやわらかく、張りがあり、見た目が素晴らしいだけでなく、サポート性にも優れているが、ステアリング同様、その調整は電動ではなくマニュアル式だ。

プラスティックパーツの表面やスイッチの質感はこんにちのアウディのレベルには達していない。つまり、このクルマの居住性は素晴らしいが、登場から10年を経た後ではインテリアの品質基準とその期待値が2007年からどれだけ上がったかを感じない訳にはいかないという事だ。

ナビゲーションやパーキング・センサーなど数々のオプションが装着されているが、このクルマにはジャガーにはあるデジタル・オーディオやクルーズ・コントロール、雨滴感知やオートライトなどは装着されない。

F-タイプのキャビンも居心地が良く豪華だ。

R8ではソフト素材のプラスティック製だったダッシュボードはステッチの入ったレザーとなり、シートとステアリング調整も電動式だ。硬いプラスティック素材の使用は最小限に留まる。

(後編につづく)

おまけ 4気筒エンジンについて少々

F-タイプに搭載されているインジウム・エンジンはジャガーにとって初めてのハイ・パフォーマンス4気筒エンジンという訳ではない。

画期的なスポーツ・モデルであったXK120には6気筒エンジンが搭載される一方で、気筒数を2つ減らした2.0ℓエンジンを積んでXK100と名乗らせる計画があったのだ。

3.4ℓXK6直列6気筒エンジン同様、この4気筒も鋳鉄ブロックを持ち、アルミニウム製ヘッドとピストンで107psを発揮したが、その洗練度の低さからこの計画はキャンセルされた。

MGをベースにしたスペシャルというモデルに搭載されたこの4気筒のチューニング・バージョンは、元英国陸軍のパイロットだったゴールディ・ガードナーの手により、1948年にベルギーのヤブベーケで284.4km/hを出して2.0ℓエンジンの速度記録を更新した。