1990年から20年以上にわたって開催され続けている国内最大級の自転車ロードレースであるジャパンカップサイクルロードレースをご存知だろうか?これは、宇都宮市が主催して開催している自転車レースである。

宇都宮市は、「自転車の駅」を設置するなど、サイクリストへの支援を積極的に行なっている地域である。ただ、なぜ、どういった経緯で宇都宮市はこのようにロードレースと関わってきたのだろうか。

その知られざる背景を知るべく、今回は宇都宮市とロードレースの関係性について、サイクルスポーツマネージメント株式会社取締役であり、宇都宮ブリッツェンのゼネラルマネージャーである廣瀬佳正さんに話を伺った。ジャパンカップの歴史を紐解きながらレースの魅力や宇都宮という地域への影響についてを探っていく。

宇都宮市とロードレースの関係と歴史

現在、国内でも最大級のロードレースであるジャパンカップは何故、栃木県宇都宮市で開催されているのだろうか。廣瀬氏によると、かつて中野浩一選手が、世界選手権を10連覇し、その影響を受け、1990年に日本で世界選手権自転車競技大会が開催された。その2年後に行われたのが、ジャパンカップだったという。この時は宇都宮市だけでなく、群馬県でも開催されていた。群馬の前橋では競技上を使用するトラック競技、栃木の宇都宮ではロードレースとそれぞれの県で種目を分けていたのだという。宇都宮市のロードレース会場は、宇都宮森林公園だ。
ここは駅から車で40分ほどの所に位置する公園で、普段はサイクリングコースとしてだけでなくキャンプなどでも使用されるアウトドアスポットである。

第1回を開催した1990年当時、ロードレースは既に、世界的にも有名な競技であった。そのために反響も大きかったため、『中野選手の10連覇記念として開催する形で、ジャパンカップを終わらせては勿体ない』と感じたのだという。そして、その2年後から正式にジャパンカップが開催されるようになり、1996年には、国際自転車競技連合(UCI)ロード・ワールドカップという自転車ロードレースの年間表彰制度対象レースに指定された。その後、2009年に宇都宮市をホームグラウンドとして宇都宮ブリッツェンというロードレースチームが生まれた。ジャパンカップで使用している森林公園のコースは現在行政と宇都宮ブリッツェンが管理しており、普段はチームのホームコースなのだという。

宇都宮ブリッツェンが宇都宮市民を熱くさせる!?

地域密着型プロロードレースチームを自負する宇都宮ブリッツェンは、真っ赤なジャージがトレードマークの派手なチームだ。選手たちもまだ若く活気に溢れている。ロードレースの出場だけでなく、自転車安全教室やサイクルイベントなどを定期的に開催し子供から高齢者まで幅広い年齢の人々に自転車との関わりを深めてもらおうと活動している。
現在、国内でも数多くの場所でサイクルイベントが開催されているが、開催地域にホームチームが存在するところは少ない。その点、宇都宮市には”宇都宮”ブリッツェンという、その名前から宇都宮市発だとわかるプロチームがいる。その為、市民も俄然自転車のレースに対して熱視線を送り、行政もこのチームの活動に賛同し、地域のサイクルイベントにも力が入っている。

宇都宮市でこんなにも自転車のレースが盛り上がっている背景には、ジャパンカップが国内だけでなく世界的にも有名になってきているという事実は確かにある。とはいえ、それだけではない。もちろん海外の有名な選手やチームが参戦するのもファンにとっては非常に魅力的だが、市民にとってはホームグラウンドで地元のチームに活躍してもらいたいという思いがあり、市民が率先してそれを盛り上げたいと考えているのだろう。

事実、宇都宮ブリッツェンのサポーター達は大会前日の深夜から、観戦場所を確保し応援に備えていた。そして、彼らはジャパンカップでは唯レースの応援をするだけではなく、空いた時間にはチラシを配る活動を行い宇都宮ブリッツェンの支援活動を積極的に行う。サポーターをはじめとした市民の熱烈な応援はジャパンカップ期間限定でオープンしている特設ショップでも見られた。

選手達の使用しているロードバイクや、選手のパネルが飾られた店内ではブリッツェンのオフィシャルグッズや、ジャパンカップ記念グッズを販売していた。ショップに訪れる人々はオープン直後から後を立たず終始賑わっていたようである。店内には自由にメッセージが書けるブラックボードもあり、選手への熱い応援メッセージで埋め尽くされていたのを見ると宇都宮市民とブリッツェンとの9年間にもわたる深い絆のようなものを感じた。

 

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宇都宮市でジャパンカップを開催することによる効果とは?

では、ジャパンカップという大きなレースを開催することによって宇都宮市にもたらされる、効果や影響はどのようなものなのか?
廣瀬氏によると、宿泊施設や飲食、交通機関全てから得られる経済波及効果はジャパンカップ開催の2日間で28億円にもなるようだ。

また、2010年以降は森林公園でのロードレースだけでなく、大通りを一部封鎖して、1周2.25キロをパレード走行含め合計17周の順位を競うクリテリウムレースが行われるようになった。クリテリウムレースが行われるようになったことにより、宇都宮市での自転車レースの影響は強くなっていったという。クリテリウムレースによってより多くの聴衆が目の前で選手達が走る姿を見られることになったという競技の魅力を伝える面でのプラス効果もあるが、それだけでなく、コース周辺の飲食店や商業施設にも入る人の数が格段に伸びたという影響もあるのだという。これもまた自転車レースの地域貢献の一つだと廣瀬氏は語っていた。

クリテリウム周辺には、ジャパンカップに合わせてサイクルメーカーの特設店舗や、フィットネスジムのサイクルマシーンの体験スペース、サイクルフォトグラファーのトークイベントなど、自転車に関連した様々な催しが行われる。単にレースを開催するだけでなく、大会に伴い、自転車に関連した施設や、活動、人々と連携してジャパンカップを盛り上げていることがわかる。

宇都宮市と自転車レースの今後について


こういった活動を続ける中で、宇都宮市が目指す自転車と地域との未来像とはどういうものなのだろうか?
「おそらくこの後街中にLRT(ライトレールトランジット)という次世代路面電車というのができてくると思います。そうなると、街の交通も随分変わるだろうと。工業地域あたりへの交通も良くなってくるだろうし。そして、おそらくジャパンカップのコースも変わると思うんですね。広範囲にコースが広がると考えています。もう少し、街中が広いレイアウトになるのではないのかな?と思っています。」
宇都宮市の交通の転換を視野に入れながら、今後も市民が過ごしやすいまちづくりと掛け合わせた自転車競技の発展になるのではと廣瀬氏は予想する。
また、宇都宮市では近年自転車の競技もロードレースだけではない。山道や林道を含めた舗装されていない道路をコースとして行われるシクロクロスやマウンテンバイクの大会を開催するなど多彩な自転車競技にも挑戦していこうと考えているようである。

「自転車は誰でも始められるスポーツですからね。おばあちゃんでもレーサーになれる、みたいな。子供からおばあちゃんまで楽しめるし、誰でもレーサーになれるし、本当に身近な乗り物であり身近なスポーツ。自転車は実は、この先もずっと老若男女全ての人にとって一番身近な乗り物だと思っているんです。そして、ジャパンカップは幼稚園生からトッププロの選手まで全カテゴリーのレースが行われています。将来的に地元の子供たちがペダルなしのレースから実際にプロになるまで、というストーリーも見せてきているんです。だからこそ、プロのレースを観戦して楽しむだけではなくて、子供達に夢を持ってもらったりだとか、とにかく自転車で皆が盛り上がってくれればいいなと思っているんです」

廣瀬氏の言葉を聞き、実際にジャパンカップの光景を見ることで、宇都宮市民がロードレースという競技をまるで市が誇る1つのアイコンとして捉え、楽しんでいるということを強く感じられた。宇都宮ブリッツェンを応援する市民の目は子を見る親の目そのもので、単にスポーツを観戦することだけを楽しんでいるわけではなかった。彼らにとってこのチームやジャパンカップの存在は、自分たちの日常生活ときっても切り離せないものだと言えるだろう。地域を活性化させるスポーツクラブは、何も野球やサッカーばかりではない。