6月に双子を出産した後、3日後には仕事に復帰していた(筆者撮影)

子どもを産んで育てることのハードルが高く感じられる日本と、そう感じにくいフランスにはどんな違いがあるのだろうか。前回「43歳で出産した日本人女性のフランス生活」に続いて、今年6月にフランスで双子を出産したCHICO SHIGETAさんに話を聞く。
オーガニック化粧品「SHIGETA」の運営会社の経営者でもあるCHICOさんは、出産後すぐに仕事に復帰。双子の子育てとの両立はさぞや大変かと思いきや、目の前にいるCHICOさんには、疲労の色はいっさいない。いったいどんな「秘策」があるのだろうか。

出産3日後には病室で仕事に復帰

――自身で会社を経営されているので、産休を取るのは難しかったのでは。

「そうですね。理想では産休を取って、ゆっくり普段はできないような習い事、たとえばウクレレなんか習えたらいいなぁ、なんて夢はあったんですが、結局かないませんでした(苦笑)。

私が出産で動けなくなっても、社員や製造工場は稼働し続けるので、どうしても打ち合わせやチェックは必要だったんです。ですから、なんだかんだと出産ギリギリまで仕事をして、出産してからも3日後には、病室に商品チェックのサンプルがバイク便で届いたり、病室で赤ちゃんを抱きながらスカイプで打ち合わせ会議に参加したり、という具合でしたね。

一緒に働いている夫の仕事はフレキシブルなので、病院にも毎日来てサポートしてくれたりしていました。また、退院直後の大変な時期は、出産前に万全の準備をしていたことで、なんとか乗り切ることができたと思っています」

――具体的に、どのような準備をされていたんですか?

フランスには、私と同じように不妊治療を経て双子を授かるカップルも少なくないので、双子以上の多産の両親を助けてくれる組織があるんです。まずは、そこに私たち夫婦も参加して、体験者の話を聞いたり、情報を集めることにしました」

「するとわかったのは、双子の赤ちゃんを迎えるということは、並大抵の大変さではないということでした。何より事前の準備と、オーガナイズが重要だということ。また、特に人の助けを借りることが何より大切だという情報も得られたのです。

そこで、まず出産準備のために『Puéricultrice』(育児の専門家)というプロフェッショナルを自宅に呼んで、子どもを自宅に迎え入れるのに必要な備品など準備するものから、ベッドの配置、授乳まで、事前にチェックとアドバイスをしてもらいました」

出産後は「泊まってくれるシッター」を雇った


出産から1カ月後は、「夜のベビーシッター」に泊まりがけできてもらっていた(SIGETAさんのインスタグラムより)

「また、出産直後は、泊まりがけで夜、赤ちゃんのお世話をしてくれる専門のベビーシッターに1カ月近く来てもらいました。

私たち夫婦の寝室とは別に、子ども部屋にシッターさんのベッドを1台準備して宿泊してもらいました。夜寝る前に搾乳してシッターさんに渡し、あとのお世話をバトンタッチすることで、出産直後の体を休めて回復に専念することができました」

CHICOさんが利用したという「Puéricultrice」は、1時間単位で課金される仕組み。一方、夜のベビーシッターは、看護師や保育士の資格を持っている人が提供しているサービスで、出産前に夫婦で面接をして決めたそうだ。

「夜のベビーシッターを利用することにしたのは、実際に双子を育てている何組かの夫婦から強くアドバイスされたから。彼ら曰(いわ)く『最初の1カ月は2人でペースをつかむために頑張った方がいいと思ったが、夫婦ともに疲労が蓄積するだけで失敗した。最初の段階こそシッターに頼って、来てもらうべきだった』と。

赤ちゃんが1人だったら、このサービスは使わなかったと思うのですが、双子だと、授乳してオムツを替えて……とやっていると、それだけで本当に一睡もできなくなる。疲れてしまうとおっぱいも出なくなってしまうんですね。だから、本当にこのサービスは助かりました」

「仕事のほうも、1日3、4時間ずつ慣らしながら開始し、打ち合わせなども自宅でしたりと、少しずつ仕事に体を慣らしていくことができました」

CHICOさん自身、周りから「双子以上の赤ちゃんを迎えるカップルは離婚率が高い」という話を聞いていたこともあり、人の手を借りて子育てすることに躊躇はなかったという。

――現在は、どのような子育て態勢になっているのですか?

「もともと、わが家にお手伝いに来てくれている女性がいて、その方を看護師さんとして教育し、ベビーシッターもお願いしていて、8時から15時まで面倒を見てもらっています。私は15時まで仕事をして、それ以降は、子どもたちと過ごす時間にしたり、子どもをあやしながら仕事を続けたりしています。忙しい時には、夫が帰宅してから散歩に連れて行ってもらい、その間に仕事を済ませています。

保育園はどうしようかと考えたんですが、双子だと、だんだん2人で仲良く遊んでくれて楽になってくるという話や、保育園に2人入れるのとシッターさんに預けることを考えると、このまま小学校に上がるまで自宅で見てもらったほうが料金的にもさほど変わらないし、メリットが多いな、という結論に至りました」

育児書は読んでいない

――教育法や子育てなどの指標にしているものはありますか。

「授乳1つにしても、ああするべき? こうするべき?と、あれこれ戸惑った時期もありました。でも、小児科の先生に言われた言葉で迷いがずいぶん晴れたんです。

それは『これから周りの人がいろんなアドバイスをしてくると思うけれど、あなたたち夫婦が心から子どもたちにしてあげたいと思うことをしてあげてください』というものでした。また、『いろいろ不安に思っても、赤ちゃんと対話すれば絶対に何を欲しているかわかるから』と言われて、そうするようにしたらだんだんと、本当にわかるようになってきたんですよね。

教育方針に関しては、2人の子たちがこれから生きていくのは大変な世界だけれども、好奇心を持って夢を描ける子たちに育ってくれたらいいな、という希望があるくらいで、実は育児書なんかも一冊も読んでいないんですよ。毎日慌ただしすぎて、育児書というものがあること自体忘れていましたし、読む時間もないですしね(笑)」

――子育てと仕事を両立させながらの生活をしていて、前と比べて何か大きな心境の変化や、働き方の変化などはありましたか。

「それを私も考えてみたんですが、確かに生活のスタイルは変わったものの、マイナスになったことは1つもないな、と思っています。

仕事の効率を必然的に上げるようになった以外に、働き方として変わったのは、これまで以上に、これから子どもたちが生きる未来へ向けての、仕事の意義を切実に感じられるようになったことでしょうか。未来の安全や平和に、私が仕事で貢献できることはなんだろう、ということを切実に考えるようになったということです」

ハッピーなお母さんでいたい

「改めて感じていますが、仕事は私にとって、情熱であり、原動力でもあるんです。仕事をすることでハッピーなお母さんを見て、子どもたちもハッピーになってくれると思っています」


毎朝、子どもの姿を見るたびに感動するという(SIGETAさんのインスタグラムより)

インタビューの最後にCHICOさんは、「毎朝、子ども部屋に赤ちゃんを見に行くと、こんなカワイイ生き物がわが家にいる〜! しかも2人も!と感動しているんですよ」と、うれしそうに語っていた。もちろん、子育てと仕事を、負担なくできる選択肢を選べる経済力があるのは確かだろうが、それができる選択肢が実際にあることは心強い。

子育てと仕事の両立は大変じゃないわけがない。だが、それを無理しすぎず実現している女性もいる。「フランスは制度が整っているから」「フランスでは男性が協力的だから」と言ってしまえばそれまでだが、日本でもまず、子育てをする男女が「人を頼れる」環境が整うことに期待したい。