月極駐車場や個人宅において“使用されていない”駐車スペースをインターネットを通じて予約をして利用することができるサービスが akippa だ。現在、日本全国約 12,000 拠点の駐車場をオープンさせている。

同社のトップである金谷元気氏は幼少期からサッカーをしており 、Jクラブの練習参加をした経歴を持つ。そんな akippa が今年、J1 ・セレッソ大阪のブロンズスポンサーとなることが発表された。様々な取り組みを通じてユーザー/サポーターの相互流入を狙うとのことだと言う。今回は代表の金谷氏と、クラブでスポンサー営業を担当する赤堀翔平氏の2人に、今回のスポンサー契約締結の経緯やその後の狙いなどを伺った。

サポータ一の“駐車場問題”

-まずは、akippa がセレッソ大阪のスポンサーになるまではどのような流れだったのでしょうか。

金谷:去年は提携という形でやっていました。赤堀さんと初めて会った地元柏原のジュニアユースのプチOB会が去年の9月で、提携は11月から。akippa はヤンマースタジアム長居の周辺に駐車場を増やしていたのですが、もっと増やしたいという思いがあったんです。

クラブは駐車場があることはネガティブだと思っていたんですよ。車で来るよりも公共交通機関で来てほしいと。でも、実際の問題は路上駐車が多いこと。仮に予約して確実に停めてくれるのであれば、サポーターの方にとっての利便性も高まるし良いことだというので、クラブにそういう需要があるのなら、と思ったんです。

赤堀:僕らもサッカースクールを20以上展開している中で、路上駐車の問題は実際にあったんです。スクール生の保護者が子供たちを迎えに来た時に、車を路上駐車してクレームが来るということもあったので。そういうところも改善していけたら良いですよね、という話にもなりました。

金谷:実際にやってみると認知度はすごく上がっていますし、この周辺で駐車場が増えているんですよ。居住者にセレッソサポーターも多くて、その方々が「セレッソとやるなら…」と言って貸し出してくれる。どんどん駐車場は増えていって、今は長居周辺に40箇所くらいあるんじゃないですかね。

 

-値段はどれくらいなのでしょうか。

金谷:試合の日 で 1日1,500円くらいですかね。この周辺はコインパーキングがほとんどないんです。僕も子供の頃から親とセレッソの試合を観に来ると、この周辺で駐車にいつも困っていたというくらいでした。

 

-スタジアム周りの利便性をよくしたいという思いはあったのだと思います。

赤堀: 1 万人のお客さんが来るとなるとやはりパニックになってしまう。そういう点で、事前に予約して止められるという akippa の仕組みは理想的だなと思いました。お客さんの利便性を含めてストレスも少ないので。台数を増やして拡大していければ、もっと良くなると思います。

セレッソファンと akippa 会員の両方にメリットを

赤堀:もっと長居近辺に駐車場がたくさんできると良いというのが一つと、 akippa さんは会員数も多いというところで、セレッソも今はいろいろな集客のアプローチをしているので、お互いの会員にメリットがあるようにできればと思っています。7/22の浦和戦でもイベントを行いました。

 

-逆に、 akippa からセレッソヘの要望はありますか?

金谷:4月の横浜Fマリノス戦で行った福引き祭りは効果がありました。akippa をダウンロードしたらセレッソのグッズが必ずもらえるというキャンペーンだったのですが、やはりダウンロード数も増えましたし、会場周辺の人たちが来てくれて、「うちの駐車場も貸します」ということで、全部で30台くらい貸してくれたんですよね。サポーターが akippa を応援してくれている感じもあるので、触れ合う機会があるのは嬉しいなと思いますね。

ヤンマースタジアム長居で試合をやる際は akippa からの送客というのを何度かやっています。ジュビロ磐田との対戦時にはakippa の会員さんが300人くらい来ました。akippa は予約制なので、どこに誰が行くか、どこに誰が駐車しているかがわかるんです。ですから、大阪府のこの辺りに駐車している人向けに、メルマガなどで割引クーポンを送るんです。これがけっこう割り引かれて、2,700円くらいのチケットが1,500円くらいになります。

赤堀:その日も開幕だったので色々な優待をやっていたんですけど、akippa さんのところが最も来場者が多かったです。本当に、ダイレクトに響いて来てもらった人が一番多い優待でしたね。その時も結構工夫していただいて、うちのスポンサーをしてもらっているので選手の写真が使えるんです。そこから興味を持つようなメルマガを作ってもらって会員の方へ送ってもらえたので、そういうところも響いたのかなと思います。

金谷:僕らはサッカーが好きなので、玄人好みの編集で(笑)、山下達也選手や清原翔平選手を起用しました。

赤堀:だいたい柿谷曜一朗選手や山口蛍選手を使ってくれるところが多いんですけどね(笑)

 

-akippa がスポンサーになったきっかけは、※提携を機にという流れでしょうか?

※2016年11月に最初の提携、施策を発表

金谷:そうですね。提携をしたことでセレッソサポーターさんからのエンゲージメントもあるし、効果が表れ始めていたので、やるべきだなと思いました。短期的な跳ね返りではなく、スポーツなので長期的だと思っていたんですけど、短期で跳ね返ってきたので、これはすごいなと思いましたね。

 

-クラブとしても指定管理者制度を取ったことでいろいろとスタジアムで施策はやりやすくなったとは思います。

赤堀:できることは増えました。今年実施した犬の預かりサービスも今までではできなかったです。似たようなもので akippa さんの駐車場に停めることで託児所付きチケットを渡して、お子さんを預けて試合を観てもらえるというような話もしています。徐々に実現していけたら、と思いますね。

金谷:お子さんができたら(試合に)来られなくなる人もいますからね。

 

-スタジアム近辺の充実は考えていますか?

赤堀:次にできるスタジアムは複合型というので、平日でも人が来るような何かを構想してはいます。託児所はもちろんなんですけど、スーパーか何か分からないですけど、そういったものも検討しています。

 

 

 

 

プロサッカー選手を断念した2人

-少し話はそれますが、おたがいにプロサッカー選手を目指していたということで…。セレッソのU-18でプレーしていた赤堀さんは、自分が選手として大成したかったという想いはあったのでしょうか?

赤堀:もちろんあります。今でも一緒にやっていたメンバーが戦っているので、悔しいではないですけど、そういう気持ちはあります。ただ、それがモチベーションにもなりますし、将来10年後、20年後には自分のほうが…とは思っています。僕はもともとセレッソが好きでサッカーを始めたので、このクラブでしっかりとした立ち位置を築きたいですね。

 

-プロはどのタイミングで諦めたのでしょうか。

赤堀:高3の時にプロになる、なれないというジャッジをされるんです。それまではトップチームのの練習にも行っていて、山口(蛍)や丸橋(祐介)とトップの練習に参加していました。

そこでそれなりにやれた感触はありました。
ただ、僕の中でのポイントとして、夏にU-18の全国大会があって。その時に活躍すれば夏の昇格の是非が発表されるので、プロに上がれるというストーリーがありました。その大会の活躍度が評価される基準の一つ。ただ、色々な思いやプレッシャーからか分からないんですけど、調子が悪くなってしまったんです。

そこから、全国大会でスタメンを外れたんですよ。開幕戦は出たんですけど、2戦目でスタメンを外れて、目標としていた活躍してプロになるという理想を失って、3戦目もベンチに座っていました。案の定、それが終わってからクラブの人に言われたのが「プロになるレベルではあるけど、絶対にプロになるという気持ちがまだ感じられなかった」と。そこで大学進学してどうなるか、ということでしたが、大学でもあまり活躍ができず、諦める形になりました。

金谷:私は高校卒業後の4年間は関西社会人リーグでプレーをしながらプロを目指していました。高校の時は相手も体が出来ていないので、フィジカルで通用していた部分があったんですけど、社会人になるとそれが通用しなかった。そこから体を絞ってスピードで勝負しようとも思ったのですが、同時にそれで無理だったらプロを諦めようとも決めたんです。リミットは22歳。同じ歳の人が大学を卒業するタイミングでプロになれなければ諦める、という形です。その中で知り合いの人に紹介してもらってザスパ草津のチャレンジャーズチームに練習生として行きました。その中でトップチームの人が参加することもあったのですが、普通にはやれるんです。だけど、何か決め手に欠けていたんです。僕が目指してた“世界一”にはなれないな、と。だったら起業のほうが世界一になれそうだと思ったので、サッカーの道を諦めました。だから、未練はありませんでした。

 

-そこから起業とは、だいぶ振りましたね。

金谷:サッカーをやっていた当時、僕はフリーターで、その中で生きていかないといけなかった。だから、色々なことをしたんです。雨が降ってきたら100均で傘を10本買っていって、1本300円で売る。これを何回も繰り返して、1日で9,000円儲けるとかですね(笑)。花火大会があるときには40円のジュースをたくさん買って、箱に氷を詰めて150円とか 200円で売る。それで1日2-3万円稼いで生きていました。

それをやっていると『納税しないといけない』ということを言われたので、本を読んで税務署に届けるだけでいいのかと思っていたんですけど、よくよく見ていくと800万円以上の利益が出ると法人のほうが良いということを知ったんです。その中でまた更に調べていって、起業という言葉を知りました。様々な本を読んで起業の面白さにも自分は向いているなと思ったんです。そして今に至る、と。

 

-赤堀さんはどのようにセレッソヘ戻ってこられたのですか?

赤堀:プロサッカー選手を諦めて何をしようかと考えた時に、自分の人生を振り返ったら、サッカーを始めたきっかけはセレッソだったんです。だから、そこで働けたらすごく幸せだし、毎日を 100 パーセントやり切れると思ったので、戻りたいと思いました。そのために当時の高校のコーチに電話をして、「なんとか社員にしてくれないか」と言ったんですけど、『ノー』でした。

ただ、しつこく3回くらいやり取りをしている中で、『スクールコーチのアルバイトからのスタートだったら良い』と言われたんです。そこで、2年くらいは子供から大人までサッカーを教えていました。そこの頑張りを評価されたのか、会社の方に引っ張ってもらえたんです。

 

-金谷さんは最初の2年間は企業に勤めていましたが、最初から起業という考えがあった上で、ですよね。

金谷:先にも言った通りで、サッカーを引退すると決めた時は、起業しようと思っていたので。2年はまず世の中のことを知ろうと思って、とりあえず研修がしっかりとしていそうなところを探しました。サッカーをし続けていた中で世の中のことを知らなかったので、上場企業で研修がしっかりしていそうなところを検索しました。ただ、就活の仕方を知らなかったので、飛び込みで行っていたんですよ。履歴書を持って行って「雇ってください!」と。

その中で偶然に新卒が内定を辞退した会社があって、入れてもらうことができました。『営業を募集しているし、お前みたいなやつ良いかもな』と言われて。そこから2年間働きました。

長居でヨーロッパのような雰囲気を

 

-最後になりますが、このスポンサー締結でスポーツ観戦における利便性が上がると思います。お二人が思う理想のスタジアム像を教えてください。

赤堀:この前に研修のような形でドルトムントのスタジアム に行きました 。あそこは毎試合8万人が入るんです。ドイツではサッカーが文化になって、週末になると街の人がみんな来るので、そこが1つの理想です。今、うちのキンチョウスタジアムで同じことができるのかというと、西日が眩しかったり、雨に濡れたり…という点でどうしても足を運ぶことにリスクがある。今、改修プロジェクトを行っていて2020年完成の予定なのですが、そこでは屋根があったり、ピッチに距離が一番近かったり、という形になるので、ヨーロッパに近いような雰囲気を作ることもできるかなと思います。

 

-ちなみにですが、吹田スタジアムができたことへのライバル意識はありますか?

赤堀:個人的にはあります(笑)。ユースの時から大阪ダービーは負けられないというか、そういう気持ちがあったので、未だにガンバとやるときは思いますね。スタジアムもファンクラブ会員数も負けているので。

 

-金谷さんはいかがでしょうか?

金谷:僕は IT の会社をやっているので、スポーツとの組み合わせというのはすごく興味があるんです。まずは駐車がキャッシュレスというのが実現してきている中、いつも来て思うのは、キャッシュレスでできる環境をより広げてってもらいたいなと。あとはスタジアム のビジョンはもちろん、独自のスマホのアプリで試合中にもチャンスのシーンなどがリプレイで流れるみたいなものもあればなと。いずれにせよ、利便性が向上して訪れる人がまた来たい!と思えるようなものになってくれれば嬉しいなと思います。