『図解 モチベーション大百科』池田貴将著 サンクチュアリ出版

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会議でなかなか意思決定が進まない、いいアイディアが湧いてこない――。その理由は、社員の「やる気」がないからではなく、「会議」の手法に問題があるのかもしれない。『図解 モチベーション大百科』(サンクチュアリ出版)の著者で、リーダーシップ・行動心理の研究者である池田貴将氏が、過去に行われた行動心理学実験や一流企業の事例を交えて「アイディアを最速で実行に移すための手法」を解説する。

■三流企業は会議をやったことで満足する
一流企業は会議が終わってからが本番と考える

会議でせっかくいいアイディアが出たのになかなか実行に移せない、そんなときは「期限」を設けることで達成率がぐんと上がるかもしれません。

こんな実験をご紹介します。

学生たちにアンケートに答えて提出してくれたら謝礼として5ドルを支払うと持ちかけました。

半数には締め切りは5日後と伝え、半数には提出期限を設定しません。

結果は、

期限なしの場合、提出したのは25%
 期限ありの場合、提出したのは66%

(参考 スタンフォード大学 心理学者エイモス・トベルスキーたちの実験)

「いつまでに」という期限が設定されないと、「アンケートに答えるだけで謝礼がもらえる」のようなごく簡単なものでさえ人は動けないのです。

集中力を保つためにも「期限」は大切です。

専門的には「ピリオダイゼーション」といいます。

この「ピリオダイゼーション」の手法を会議に取り入れているのがグーグルです。

グーグルでは、会議の際に次の行動につながる宿題事項(アクションアイテム=AI)を重要視しています。

「ミーティングの最後に必ず『じゃあ、AI!』と呼びかけ、「誰が何をいつまでにどうするか?」を確認するのです。

もしあなたのチームメンバーがなかなか動いてくれない場合は、彼らのタスクリストをチェックしてみましょう。期限がしっかりとついているでしょうか?

もしついていない場合、それがどれだけ素晴らしいアイディアだとしても、75%の確率で実行されない可能性があるのです。

もし可能なら会議の終わりにホワイトボードに「アクションリスト」を書き出すといいでしょう。ミーティングの成果を可視化することにもつながります。

■三流企業の会議は、発言しない出席者がたくさんいる
一流企業の会議は、最少人数しか出席しない

会議の場でなかなか発言しない人がいる場合、その会議は出席者の人数が多すぎるのかもしれません。

こんな実験があります。

1人から、2人、3人……8人まで人数を変えて、被験者たちに全力でロープを引っ張ってもらいました。

結果、

1人の場合……1人あたり63キロ
 3人の場合……1人あたり53キロ
 8人の場合……1人あたり31キロ

の力でロープを引っ張っていることがわかりました。

1人の場合と8人の場合では約2倍もの差が出ています。

(参考 農業工業学者マックス・リンゲルマンの実験)

本人たちに手を抜いているつもりはないのですが、何人かで同じ作業をしていると、無意識に「ほかの誰かがやってくれるだろう」という依存心が生まれ、力を手加減するという現象が起きるのです。

ユニクロを運営するファーストリテイリングの社長・柳井正氏は「少人数の打ち合わせで仕事を前に進めることが大事」といいます。

10人集まっても発言する人が2人であれば、あとの8人はそこにいなくてもいいし、あとで議事録を共有できればそれで事足りる、という考えです。

チームで動かなければならない場合には、仕事に取り掛かる前に、一人ひとりの責任範囲を明確にしましょう。

「自分一人くらいいなくてもいいだろう」という状況から「自分がいなくてはダメだ」という状況に変えることで、一気に生産性が高まるはずです。

■三流企業は会議資料を作り込む
一流企業は、資料作成に時間をかけない

会議でなかなか意思決定が進まない場合、会議の準備自体に時間を掛けすぎている可能性があります。

こんな実験があります。

Aチームの被験者には、すぐに数学の問題を解いてもらいます。
 Bチームの被験者には、ペンの色、好みのTシャツ、大学の講座などの「選択」をさせた後に、数学の問題を解いてもらいます。

すると、Bチームの方がミスが多く、あきらめも早いという結果となりました。

(参考 ミネソタ大学 心理学者キャサリン・ボスの実験)

つまり事前に考えすぎたり、分析をしすぎたりしてしまうと、行動力や思考力が鈍っていく傾向にあるということです。

アマゾンでは、社内会議でのパワーポイントの使用を禁止し、6ページの意見書を採用しています。

あくまでも、意思決定をするための場所が会議なのに、パワーポイントに資料をつくることや、理解することに消耗すると、意思決定が進まなくなってしまうからです。

日本の企業でよく見かけるのが「資料を作成する」こと自体が目的になってしまっているケース。

社内での会議は、あくまで生産性が最優先。

無駄な装飾やアニメーションは効率を落とすだけ、と心得たほうが良いでしょう。

■三流企業は会議室にこもる
一流企業は会議室を飛び出す

何か新しいアイディアを出したいと思ったとき、会議室にこもっているだけではなかなかいい発想が浮かんでこないかもしれません。

こんな実験があります。

被験者である学生たちに、「就職試験の面接で使える新商品」のアイディアを出してもらいます。

Aパターンでは、学生たちに「三穴バインダー」のような常識的な例えを提示します。
 Bパターンでは、学生たちに「ローラースケート」のような非常識的な例えを提示します。

するとBパターンのほうが、オリジナリティのあるユニークなアイディアが生まれやすくなりました。

つまり、常識はずれな物事からはじめたほうが、独創的なアイディアが出やすいのです。

フェィスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、ウォーキングミーティングを取り入れていることで有名です。

ウォーキングミーティングとは文字通り、会議室などの室内ではなく、歩きながら打ち合わせをすることです。

歩くことで、凝り固まっていた思考がスッキリとし、新鮮なアイディアが浮かびやすくなるといいます。

他にも、キャノン電子の立ったまま行う「立ち会議」、グリーの「体育座り会議」など、ユニークな会議スタイルを取り入れる企業が増えてきています。

会議室で真剣に会議を行っていると、私たちの思考は同じ場所をぐるぐると回りがちです。

もしなかなかいいアイディアが出ないときは「突飛な方法」を取り入れてみると、新しい発想が生まれるかもしれません。

人を動かす「モチベーション」には、特定の法則があることが過去の実験などで証明されています。

その法則を理解しているだけで、気まぐれなチームメイトも、ずぼらな自分も、頑固な上司もスムーズに動かすことができるようになるはずです。

ぜひ、日々の仕事に取り入れてみてください。

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池田貴将(いけだ・たかまさ)
株式会社オープンプラットフォーム代表取締役。リーダーシップ・行動心理学の研究者。早稲田大学卒。在学中に渡米し、世界No.1コーチと呼ばれるアンソニー・ロビンズ本人から直接指導を受け、そのノウハウを日本のビジネスシーンで活用しやすいものにアレンジ。感情と行動を生み出す心理学と、人間力を高める東洋哲学を統合した独自のメソッドが注目を浴び、そのセミナーはコンサルタントやビジネス作家などのプロも受講することで広く知られている

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(株式会社オープンプラットフォーム代表取締役 池田 貴将)