ドイツの子供を育てる「ボルツプラッツ」とは【写真:Getty Images】

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【連載コラム】ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」―“Bolzplatz”で磨かれる子どもの創造性

 夏休みに入った9歳の長男と、近くのミニサッカー場でボールを蹴ってきた。ドイツには正規のサッカーグラウンドがあちこちにあるが、昔から子どもの遊び場と言えば「Bolzplatz(ボルツプラッツ)」だ。ミニゴールがあるちょっとした広場のことで、近所の子たちが集まって勝手にサッカーをする、いわゆる“ストリートサッカー”が行われる場所だが、これがドイツ全土、津々浦々に数え切れないほどあるのだ。我が家の近くだけでも徒歩5分圏内に二つある。

 僕はここで息子や、息子の友だちらと肩肘張らずにボールを蹴るのが大好きだ。何か目標を決めて練習をするわけではない。

「パスがしたいからパスをしよう」

「新しいフェイントを覚えたから見てみて」「1対1で勝負しよう」

その時やりたいことを楽しむ。

 僕らのお気に入りは“なりきりサッカー”だ。例えば「僕はレバンドフスキ。パパはロッベンね」と好きな選手になりきってサッカーをするわけだ。相手がいようが、いまいが関係なく、自分たちのイメージ通りのサッカーをただただする。自分たちで解説をアフレコしながらやったりするのも楽しい。

「ロッベンが右サイドから得意のカットイン。レバンドフスキとのワンツーからゴールラインまで持ち込んでセンタリング。レバンドフスキがこれを豪快なボレーシュートでゴーーーーーーーール!」

 現在長男が所属しているクラブの練習は週に1回90分で、週末にはリーグ戦を戦っている。90分の練習ではそこまで多くのことをできるわけではないし、ゲームの中での動き方など事細かく注意されるわけではない。これだけ聞くと「それで大丈夫?」となるのかもしれない。でも、子どもたちは着実に上手くなっているのだ。

ドイツでは「スクール」に通う子どもはほとんどいない

 自陣からボールをつなぎ、運び、相手陣内では思い切りよくドリブル勝負を仕掛け、コンビネーションプレーを絡ませながらゴールを奪っていく。9歳の彼らは紛れもなく“サッカー”をしている。なんで彼らは、こんなにも順調に成長していくのだろうか。

 たぶん、その秘密というのは、ドイツの子どもたちは時間を見つけると、僕ら親子のように自分たちで「Bolzplatz」やグラウンドに集まっては思い思いにサッカーをしているからかもしれない。

 彼らがするのは自主練ではない。遊びなのだ。誰かにやれと言われてやるのではない。サッカーは習い事ではないのだ。

 ドイツでは「スクール」に通う子どもはほとんどいない。大人の目を気にせずに、「こんなプレーをしてみたい」と思ったことを試せる場。「ボールを蹴りたい」「友だちとサッカーをしたい」「心からサッカーを楽しみたい」という欲求が満たされていることが、「もっと上手くなりたい」「もっとこんなことがしたい」「もっとサッカーがしたい」という向上心や意欲へと結びつく。だから週に一度の練習と週末の試合にかける意気込みが、常にマックスなのだ。

 しっかり学び、しっかり遊び、しっかり休み、しっかり練習する。この当たり前のバランスが自然といい感じで取れていることが、子どもたちの成長にとって何より欠かせない、重要な要素なのだ。

◇中野 吉之伴(なかの・きちのすけ)

1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。